東方見雲録

東方見雲録

2026.01.29
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カテゴリ: 文化
明治維新で近代化の道をたどり始めた日本は、世界のどこかに先達が存在すると長らく信じてきた。司馬遼太郎が活写したように、「坂の上の雲」を追いかけて疾走していたのである。戦後も、アメリカをモデルとしたり、国際連合の常任理事国を目指したりと、常に外へ範を求め、何かを目標とする一方で、自国の現状を嘆く傾向が根強くあった。

 バブル崩壊後、失われた10年がいつの間にか20年、30年となり、経済大国としての自信を失う中で、理想像を追求するギラギラとした欲望が消えていった。向上心がなくなってしまったのは困ったことだが、その分、ものの見方が随分と現実的になった。一時期もてはやされた「日本凄(すご)い」のような単純な自己賛美とは違う、等身大の自分たちを客観視する動きが出てきている。
・・・・
やりとりされる情報が飛躍的に増えることによって、遠く離れた国の社会や文化もより細かいところまで把握できるようになってきたことも見逃せない。今までよりも高い解像度で対象を認識することで、相手が絶対的に優れているという幻想を持ちにくくなった。

 国内でもそうだ。地方に比べて都会が進んでいるとか、逆に地方にこそ理想的な生活スタイルがあるとか、そのような固定観念を超えて、私たちは周りの世界を冷静に捉えるようになってきている。

 かつてのような一方的な憧れとか、自分たちの現状に対する劣等感とか、そのような認知バイアスから解放されて、世界をフラットに見るようになっている私たち。令和日本の現実主義の中から、果たしてどのような希望を新たに生み出せるだろうか?

 物事はとても複雑で、しかし、だからこそ生きる喜びもある。そのような日本人の「現在地」を私は心強いと思う。そして、等身大の状況認識の中から、私たちを未来に導いてくれる考え方や感じ方が生まれてくることを期待するのである。(茂木健一郎、隔週木曜に更新)

 ☆もぎ・けんいちろう 脳科学者、ソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー、東京大学大学院特任教授、屋久島おおぞら高校校長。1962年、東京都生まれ。東大大学院物理学専攻博士課程修了。クオリア(感覚の持つ質感)をキーワードに脳と心を研究。新聞や雑誌、テレビ、講演などで幅広く活躍している。著書も『脳とクオリア』『脳と仮想』(小林秀雄賞)など多数。


引用サイト: こちら





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Last updated  2026.01.29 07:00:08
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