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January 9, 2009
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カテゴリ: 教授の読書日記



 っていうか、「コンコンチキ」って何? 


 それはさておき、ネットで入手した大原富枝著『彼もまた神の愛でし子か』(ウェッジ文庫)を読了しました。これ、『気まぐれ美術館』などの美術エッセイで名高い洲之内徹の評伝なんですけどね。

 ま、私、実はさほど洲之内徹のことに詳しくないので、この本を読んで初めて知ったことも多いのですが、洲之内さんと言う人は、まあ、相当な火宅の人だったようで・・・。体格などは貧弱だけど、どこか独特の男性的魅力があった人のようで、女性にもてるけど、女性を幸せにはしないタイプの男だったみたいですね。

 ・・・ワタクシとちょうど逆だな、などと言ってみたりして・・・。

 でまた、女性に対してだけではなく、誰であれ嫌いな人に対してはとことん冷酷なところのある人だったそうで、そういう面でのエピソードには事欠かないみたい。

 だけど、そんな風に色々と欠点のある人ではありながら、絵に対しては、あるいは美に対しては、これまたとことん愛情深く接した人だった、というところがまた、人間の面白いところでありまして。若き日に左翼運動にやぶれ、その後中国における日本軍の手先のようなこともし、引き揚げてからは作家にならんと奮闘し、その夢が破れた後、ひょんなことから画商となり、50代も半ばを過ぎてから「絵をめぐるエッセイスト」という独自の立場を見出したという数奇な人生を送った人なんですと。

 さて、で、そういうことが書いてあるこの本、面白いのかと言いますと・・・

 うーん、ビミョー! かな・・・。



 でもね、はっきり言っちゃうと、大したことないよ!

 これは私の持論でもあるんですけど、やっぱりね、評伝ってのは、調べて書けるもんじゃないね。大原さんは、若い時から洲之内さんと「文学友達」だったそうですが、それはつまり「他人」ということでありまして、本当の意味で洲之内さんを知っていたことにはならない。ですから、この評伝を書くにあたって色々調べなきゃならなかったわけですが、調べた割に作中、洲之内さんが生き生きと描かれているかというと、そうでもない(と私は思う)んですよね~。

 それに、も一つ難点を挙げますと、書き方がちょっと変というのか、凝り過ぎているというのか、地の文と引用文とを敢えて交錯させるものだから、ある文章を読んでいて、それが大原さんが書いている地の文なのか、洲之内さんの文章からの引用なのか、それとも洲之内さんの愛人が語っていることなのか、わからなくなってくることが多々ある。これは洲之内さんの内面をよく描いている文だなあ、と思ったら、本人の弁だったりしてね。その辺、妙にややこしや~、ややこしや、というところがある。そんなのちゃんと読めば区別がつくだろうと言われたら、その通りなんですが。

 私が「これはすごい評伝だ」と思うのは、岡野弘彦著『折口信夫の晩年』、加藤守雄著『わが師 折口信夫』、ボズウェル著『サミュエル・ヂョンスン伝』の3つで、これらはいずれも、評伝の対象となる人物と、評伝を書いた人物が長い間一緒に暮らした経験があるものばかり。これにやや遅れて続くのがジョージ・プリンプトンの『イーディ』ですが、この場合、プリンプトンはイーディの親戚や親しかった人に徹底インタビューし、そのインタビューだけで評伝を構成しているので、実質、イーディを色々な形で直接知っていた人による評伝ということになる。やっぱ、評伝というのは、そうでなきゃ。で、これらを越すか、せめて並ぶくらいのものでないと、もはや感心できない身体なんです、ワタクシ。で、これらを10段階評価の10とか9としたら、『彼もまた・・・』は1点か、2点か、いずれにしてもそのくらいですな。

 で、さらに思うのですが、もし洲之内徹について評伝を書くのであれば、ジョージ・プリンプトンがイーディについてやったように、生前の洲之内さんを知っていた人たちにできる限り沢山面会して、その人たちが洲之内さんのことを何と言っているか、その言葉だけをつないで、一つのポリフォニックな評伝にすればよかったのに。やたらに居た愛人たちが彼のことをどう言っているのか。彼の批評眼を愛した画家たちが彼のことをどう言っているのか。彼の妻や息子たちが、今彼のことをどう思っているのか。そういう、生身で洲之内さんと接してきた人たちの声だけで構成した評伝にすれば、相当面白いものができたと思うのですけどね。

 題材が面白いものだけに、惜しい!

 そんなわけで、今回の洲之内徹伝、教授のおすすめ!・・・は無しよ、ということで。洲之内さん自身に興味が出てきたという方がいらっしゃれば、彼の『気まぐれ美術館』の方をお読みください。





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Last updated  January 9, 2009 10:55:55 AM コメント(2) | コメントを書く
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