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2020.11.03
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カテゴリ: 音楽




本書の副題は「巨大産業をぶっ潰した男たち」とありますが、容易に想像できるように「巨大産業」とはCDをメディアとする音楽産業です。また、「男たち」とあるように、これに関わった主役として大きく3つのセクターの人たちが描かれています。

その第一は、パソコンや携帯音楽プレーヤーで広く使われているMP3というオーディオデータフォーマットの規格を作った人たちです。これは、MPEG3という音楽や音声のデジタルデータ専用の圧縮アルゴリズムで生成されます。亭主は本書を読むまで、それをzipやlzhのようなファイル圧縮コードの一種と思い込んでいましたが、実は全くの別物であることを初めて知りました。

MPEG3は音響心理学の研究を行なっていたドイツのフランホーファー研究所でほぼ10年がかりで開発された圧縮方式で、実際に鳴っていても人間の耳には聞こえない音があるという音響心理学の研究成果に基づいて、そのような「聞こえていない音」のデータを間引く処理を行うことでデータ量を大幅に圧縮する方法だとか。一般のファイル圧縮アルゴリズムでは精々元サイズの40%程度までしか減らないのですが、MPEG3ではなんと12分の1という驚異的な圧縮比率を実現し、しかも平均的な人間の聴覚では原音とほぼ区別がつかない(99%以上の)クオリティを誇るという革命的な発明でした。(ちなみに、亭主のようなiTunesユーザーが使っているのはm4aという規格で、これはMPEG3の開発者たちが後にその改良版として開発し、アップルに採用されたAACという音楽データ圧縮規格のようです。)

ところが、優れた技術や規格がそのまま世界標準とはならないのが世の常。本書はその冒頭、MP3開発のメンバーだったカールハインツ・ブランデブルグを中心とするフランホーファー研究所の開発者たちが、標準化を巡ってオランダの巨大総合電機メーカー・フィリップスが押す別の音楽圧縮規格MPEG2との競争に敗れ、一旦は事実上お蔵入りになったエピソード(1995年)から始まり、その後彼らが圧縮プログラムと再生プログラムをシェアウェアとして公開したことで徐々に形成が逆転していく様子がドラマのように描かれています。

[この部分を読みながら、亭主はその昔英国の研究所に頻繁に出入りしていた’90年代半ばのある日、英国の同僚が小さな黒い箱型の携帯音楽プレーヤーを自慢げに見せてくれたことを思い出しました。’80年代にソニーのウォークマンで育った亭主は、それをてっきりDATテープ(当時ホームビデオなどでよく使われていた)の音楽プレーヤーで、やはりソニー製だろうと持ち主に尋ねたところ、なんとそれが韓国製で、しかもMP3という耳慣れない音楽ファイル再生専用だと聞かされて驚いたことをいまでも鮮明に覚えています。]

ここで登場するのが2番目のセクター、このMP3を使って音楽データを圧縮し、いわゆる海賊版コピーを大量にインターネット上で公開(リーク)する人たちです。実は彼らこそが本書の主役であり、そのような違法コピーを正規のCDリリースに先んじてネット上にリークすることで、自らの功名心を満足させるのが最大の動機(それを絶対金儲けには使わない)というなんともオタクな人たちです。

著者が本書を執筆する動機となったのも、彼が’90年代後半から大量にネット上に溢れていた「タダで手に入る」MP3音楽ファイルが一体どこから来ているのかに疑問を持ったからでした。調べてみると、思いがけないことにはこれらのMP3ファイル、実はそのほとんどすべてが非常によく組織化された「シーン」と呼ばれるあるグループによってリークされていたことが明らかにされますが、それはまさに音楽版のハッカーによる裏社会のようなもの。彼らは最終的にはFBIによって検挙されますが、結局は大した罪に問われることなく終わり、リーク活動も他のグループに取って代わられます。

そして第3のセクターはもちろん音楽産業の勧進元、大手のレコード会社と音楽のクリエイターたち。そこで扱われる音楽はラップなどヒップ・ホップ系のジャンルが中心で、残念ながら登場する無数の音楽家も亭主にはほとんど馴染みのない名前ばかりでしたが、本書を読んで米国の音楽産業というものがどういうものかを垣間見る気がしました。

ここで面白いのは、主人公の一人であるユニバーサル・ミュージックのCEO氏が、2000年以降のCDの売上減少という音楽市場の変化を明確に把握している一方で、その背後で拡大していたMP3による海賊版の横行にある種両義的な思いを抱いていたようにも見える点です。彼はその冷徹なビジネスマンの目で、CDが売れなくなったのは海賊版の横行だけが原因ではなく、MP3の登場・普及によってCDというメディア、音楽享受の方法が既に時代遅れになりつつある(なのでいくら著作権法を振り回して取り締まってもCDの売上は元に戻らない)ということを理解し、最後にはビジネスモデルの転換に打って出ます。

[ここでジャパネット高田の社長さんの言葉を思い出さずにはいられません。曰く「生き残るのは強い者でもなければ賢い者でもない、変化に対応した者だ!」ダーウィンの自然淘汰を言い換えただけのようにも聞こえますが、ビジネスの成功者が語ると重みがあります…]

本書の訳者あとがきや解説でも触れられているように、海賊版MP3をリークし続けたオタクたちは、コンピューターの世界におけるオープンソース主義者、「ソフトウェアは空気のように人類が等しく無償で享受するべきもので、それを金儲けの手段とするのはけしからん」と考える(マイクロソフトを親の仇と見定めた)人たち、反商業主義に通じるものがあります。

この海賊版の話が商業主義のメッカ、米国で展開されるところもまた面白いところ。MP3音楽圧縮ソフトの開発や規格を巡っての話がヨーロッパを舞台にしていることとも対照的で、その文化的背景にまで妄想が膨らむなど、色々と考えさせられる一冊でした。





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Last updated  2025.05.31 08:48:15
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