さくさく堂のシナプスな存在

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2006年01月18日
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カテゴリ: 読書のこと
『記憶すること・記録すること-聞き書き論ノート』


民俗学者のフィールドワークについての体験的な著書である。

民俗学のフィールドワークで発生したテープ起こしの経験はないので、どこへ行って、どんなことを誰に、どんな手法で聞くのかという知識が全くなかったのだが、いやはやこのフィールドワークは壮絶だ。

ターゲットの地域や職業が決まるとそこへ行き、何人にも聞き取りを行いながら、素晴らしい語り手を探すところから始まる。
「一人の伝承者を探し当てるのにひと月ぐらいかかっているんですね。……(中略)……つまり語り手というのは、だれもかれも語り手ではないのでございますね。おそらくむらの中でほんとの語り手というのは、一人あればいいほうだと思います」(p57)

そして、いったん奇跡のような語り手に巡り会ったら、その後の聞き取りに対する執念がすごい。なんたって、その土地に住んでしまったことさえあるのだ。
「往復九〇分の録音テープに記録した話の量だけで五〇本を越すが、実際に話をうかがった量はその倍ではきかない」(p79)
「私の手元には一〇〇本を越す録音テープと、テープレコーダーを用いなかった時の聞き書きのノートが五冊ほどのこされた」(p81)


「その話がじつにすばらしいんで、聞いた時にこちらが胸がドキドキするくらいみごとな情景を話してくれたんです。それで、これはすばらしいというので今の話をもういっぺんやってくれってテープ出しちゃったんですよ。もうダメなんです(笑)。筋書しか話さなくなっちゃった」(p48)

さらに、録音したものをテープ起こしすることに対しても極めて懐疑的。芸人さんへの聞き書きでは、次のように語る。
「言葉も文もぐちゃぐちゃであり、三度朱を入れてやっと読めるものになった。しかし彼の芸は今のほうがはるかに心に沁みるものになっていた。文章におこすと、それはすっぽりと抜けていた。すっかり冷えてしまった焼印の跡だけが枯れてそこに残っているように。芸が文字を抜けがらにして紙面から昇華していったのだろう」(p143)

少し長いが、実際に起こしたと思われる文を次に引用する。これは海人(あま)さんの話。

「海から出よる時にアワビば見つけることがようあるとですよ。やっぱ欲 (を押さえきらん) であと返すんです。そいでイキをツメル (切る) んですよ。あがる時は (意識が) わからんごとなって、出てきたときは船の縁ばつかむらしかばって、また手はなして沈もって (沈んで) いくらしかもんですな。私も (そうやって沈みよって) つかまえられたことがある。 (気がついて) 『やー大丈夫やったい』『うんにゃ沈もりかけたん、つかまえたっちゃ』。
(海人を) そぼくりあげて、胸さすって飲んじょる潮ば吐かせて。 (気がついて) 『もうさすらんでよか』ちうたら『ならまいっぺん行ってこい』ち (だって) 。海おそろしなって行こうごとなかですばってまた入って。それで一人前になっていくとですよ」(p123)

テクニカルなことでは、方言や漁師の専門用語(テクニカルターム)が含まれているのがわかる。それを適宜補っているところが興味深い。この手の言葉は、辞書的に「『ツメル』は『切る』の意」ということではなく、どういう場面でどういうニュアンスで使われる言葉なのか、その精神(スピリット)を感じ取っていく作業が事前にあるのだ。
「具象的な語が集まり煮詰められて生まれたひとつ上の次元の言葉が通常の専門用語だとすれば、ここでの専門用語とは漁民の諸動作の中をつらぬいて核のように存在する、ある共通概念ということになろう」(p113)



それだけ重たいものを内包した録音テープがどこかに出され、量が多いので当然分業になり、複数人の下請けに回されて、複数人の手によって部分的に起こされたものが納品される。それで研究者が納得するような原稿のレベルにならないのは当然だろう。

「テープ起こしの外注は簡単」というのは、手段としては簡単だと言っているだけで、原稿の質の話ではない。

そうなると、満足するようなテープ起こしをするためには、この研究者と同レベルの研究をするしかないのだが、それはもちろん「外注」とは言わないね。(笑)

「研究者としては素人だが、テープ起こしとしてはプロの人に任せるとよい原稿になる」のか?
それを「ある」と信じて一歩踏み出すところが、今年の目標かなあ~。





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最終更新日  2006年01月18日 13時00分21秒
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