ひーちゃんのゼミナール 名古屋産業大学(現代ビジネス学科)・大学院環境マネジメント研究科)現代の社会・経済・環境・芸能・スポーツ・宇宙

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2021.10.06
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仲村は、山陰本線を乗り継いで、JR江崎をめざした。まるで、異国の海岸線のように見える途中の初秋の風景は、その中に、過去をセピア色の記憶にとどめているパノラマが、車窓に流れていった。飯浦という名の小さな漁港から景色は海と別れ、しばらく走っていくと、右側の車窓に青色の小さな乗用車が見えた。仲村は進行方向左側に座っていたが、もしやと思い右に移動し、その車を見ると、運転席に青いブラウスを着た女性が見え、手を振っている。
「まさか」とは思ったが、窓を開けて手を振ると、その人は左手で白いハンカチを振っている。真佐子はこういうことが得意だった。まるで失われた青春を楽しんでいるようだ。列車と乗用車はしばらく並行して走ったが、やがて山の陰に隠れて見えなくなった。すると再び乗用車が現れ、列車のすぐ右の至近距離を走っている。
「よそ見をしたらだめだよー」
と仲村は叫んだ。列車にはわずかな客しかいなかったが、われ関せずで、江崎での下車を待っていた。山陰本線とは名ばかりで、というと失礼だが、列車は江崎の駅に滑り込んだ。ジーゼルの焦げ臭いにおいが鼻を突いた。
「道の駅'ゆとり′に私の知り合いがいるの。中年男女の目撃情報のことは、会ってから話すと言ってるわ」
と、真佐子はきれいな標準語で話す。真佐子は就職してから、一度短期間だが、大阪の母親のところへ行っていたらしく、しかしすぐに島根の実家に戻って働き大事故にあった。結婚後は湯玉の漁師の亭主と暮らしており、標準語を話すことが、仲村には不思議なことだった。一度聞こうとは思っていたのだが、今日までその機会がなかった。
 道の駅で軽い昼食をとった。そこへ真佐子の知り合いで、この道の駅で東京ナンバーのセダンを見たというスタッフがやってきた。鳥取の白兎海岸の事件をテレビで見ていて、もしやと思い警察に電話をかけるとさっそく刑事がやってきた。ここらあたりでは、めったに東京ナンバーの車は見かけない。彼女は真佐子と楽しそうに話をしていたが、ひと喋りして満足したのか、仲村に会釈をした。
「真佐子がお世話になります。この子はわがままでしょ、叱ってやってくださいね」
と、少しなまりのある標準語でしゃべる。

仲村は質問した。
「鳥取県警の若い刑事さんがやってきて、確か瀧川さんと言いましたか、お話ししたのですが、遠くから見ただけなので、中年の男女としか記憶がないのです。背は、二人とも高かったです。服装はフォーマルな余所行きな感じでした。売り場のスタッフも、この二人連れのことは覚えていましたが、やはり中年の二人連れで、背が高かったとの記憶だけでした。」
 道の駅のスタッフが答えた。
「例の写真は?」
と、真佐子はせかした。
「ええ、その日は、白兎海岸の事件の翌日でしたが、私は出勤していて、訪ねてきた知り合いの写真を撮ってあげたのです。いとこがちょうど遊びに来ていて、記念の写真を何枚か取ってあげて、メール添付で送ってあげたのです。真佐子から連絡があって、恋人を連れて行くから話してあげて、というもので、写真を見ていたら、偶然その中年の男女が写っていたのです。背中が写っているのですね。もうしかしたら、わざと背を向けたのかもしれませんね」
 仲村が咳ばらいをすると、真佐子は、
「余計なこと言わないで、スマホを見せなさいよ」
とせかした。仲村はその写真の画面を指で拡大した。なるほど白い乗用車のそばに男女が立ち、談笑している。しかし距離があり、長身の男女で女性のほうが白っぽい服装、男性のほうが黒い服装としか判別がつかない。カメラに対して背を向けている。しかし、背格好の特徴は判別できる。女性は姿勢がよい。髪は肩までかかるくらいだ。男性は普通の背広姿で高温の夏なのに上着を着ている。写真を真佐子のスマホに転送してもらい、仲村は真佐子から転送してもらった。
 写真のプロパティから、2020年の7月15日、午後4時過ぎと分かった。
「ここから車で東京方面へ帰るのは無理だから、萩あたりへ泊ったのではないかしら。翌日山陽自動車道を走り、東名、新東名と走ればその日のうちには東京へ着く。行楽ならどこかへもう一泊するのかもしれない。行って調べましょ」

「それがいいわ。秘密にしておくから」
と、笑っている。仲村は冷や汗が出る思いだ。しかし、白兎海岸の事件に関係する人物だとしたら、距離が狭まってきたと感じた。
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最終更新日  2021.10.08 17:02:32


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