ひーちゃんのゼミナール 名古屋産業大学(現代ビジネス学科)・大学院環境マネジメント研究科)現代の社会・経済・環境・芸能・スポーツ・宇宙

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2021.10.10
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カテゴリ: 推理小説
萩には、観光地だけあって多くの旅館とビジネスホテルがあった。地元の強みで、ここは真佐子に宿泊の予約を任せた。新型コロナ感染も、ここ山口県にあっては蔓延等防止に準じる扱いで、大都市のような緊張感は感じられない。出雲から山陰の海辺をJRで初めて旅をしてみて、コロナ感染の虚構のようなものを感じた。大騒ぎをしているのは、大都市だ。いつかテレビで見たが、頑固に感染が居座っているロシアでは、感染はサンクトベルグを中心とした、ロシア西部に限られている。山陰はとにかく人がまばらなのだ。でも、出会う人はすべてマスクをしている。
 山口県へ来る前に、仲村は神奈川県警の夏警部に、中年の男女が萩へ宿泊した可能性があると伝え、鳥取県警の了解を得て、2019年夏の白兎海岸の事件の直後に、中年の男女が萩の旅館かビジネスホテルを利用していないか、紹介を求めていた。
 いわゆる宿帳の記録から、中年男女を探そうという試みなのだが、推測通り萩の旅館から、品川ナンバーの男女が宿泊していた事実が浮かび上がり、仲村に電話が入った。
「A旅館で多分偽名とは思うが、品川ナンバーの男女が利用しています。2年も前のことなので、人相や服装については記憶がないと言っており、ただ駐車場の利用記録にはナンバーは記載されておらず、宿帳には達筆で二人の名前と電話番号が記入されているということでした。男性の字で、達筆だと言っています。筆跡の写真を送るように頼んでおきました。」
 夏警部は少し興奮気味に話した。
「品川ナンバーというだけで、数字がわからないので、車の所有者と人物の特定は難しいのと、宿帳の記載事項はでたらめでしょう。営業記録に品川からの2名の書き込みが残されているので、道の駅で目撃された中年の二人づれが投宿したとみてほぼ間違いないでしょう」
と続けた。
「僕もそう思います。白兎海岸で、深夜、ドリーム・プロダクションの社長とコンビニに現れた男が、社長を殺害し、どこかで待っていた女と待ち合わせ、そのまま西へ逃走、萩で一泊、途中真佐子さんの友人に道の駅で目撃された。推測ですが」
 仲村は答えた。そばでは、真佐子がうんうんと相槌を打っている。電話を切ると、

と、真佐子が誘った。まだ夕食までには時間があった。
「そうですね、その男女について何か手掛かりが残っているといいのですが」
と、仲村は同意した。品川ナンバーの男女が泊まった旅館は、真佐子たちのビジネスホテルから歩いて10分くらいの海辺にあった。
「少し冷えるわね。日本海の海辺は冬が早く来るのよ」
 真佐子は、彼女の癖である後ろで手を組んで言った。仲村は腕組みをして歩きながら、
「あなたが中学生のころ、友達と一緒でしたが、僕が前を歩き、あなたがこうして後ろ手に指を組んで散歩して歩いたことがありますよ」
 仲村は遠くを見るような目つきで言った。
「二人だけじゃないの?」
 真佐子はつまらなそうに言った。
「いつも複数でしたよ。そんなんじゃないもの」
「……」

「そんなことがあったのね。記憶にはないけど、わたし信じるわ、こうして歩いたのね」
「真佐子さん、ひとつ聞いていいですか?」
「ええ、何でも聞いてちょうだい」
 仲村はためらったが、以前から不思議だった、真佐子の言葉遣いについて聞いた。
「きれいな標準語を話しますね?」

「ええ、島根県の鳴き砂の浜で、あなたと口をきいてからずっと不思議に思っていたのです」
「そうですか、いつかお話ししなければならないとは思っていたのです」
「ぜひ聞かせてください」
「でもお仕事が済んでから」
 真佐子は肩をすぼめて笑った。
「そうですね」
 二人は、中年男女が泊まったという旅館の前についた。高級そうな旅館だった。フロントで話すと、鳥取県警から連絡が入っており、話はすぐに通った。
「予約記録と宿帳を見たのですが、確かに品川から御越しの二人連れの方です。もう二年も前のことで、記憶はないのですが、記録からしてお尋ねの通りです」
とフロント係の男性は言った。仲村は、宿帳に記載した氏名の筆跡を見たいと言い、確認すると、この旅館の筆跡はあらかじめ連絡があった男性の筆跡だった。筆跡は意図的に変えた可能性がある。そうならば身元を隠すためで、作為が濃厚ということになる。仲村はこの筆跡の写真を夏警部に送るために撮らせてもらった。
「ところで、芸能界に関係する事件をお探しのようなので、念のため、ほかの宿泊者を見てみましたら、やはり芸能関係の方が二人、同じ日に宿泊されていましたが、いかがでしょうか?」
 フロント係は宿泊名簿を見ながら答えた。真佐子と仲村はびっくりした。
「え、そうなんですか。警察には許可をもらっていないのですが、あとで了承を取ります。見せていただけますか」
 今度は、真佐子が私立探偵にでもなった素振りで言った。眼鏡を取り出している。
「はい」
と言って、フロント係は付箋の貼ってある箇所を開いた。二人は、
「えっ」と驚きの声を上げた。
「光岡瑠偉さんと風吹翔馬だわ。二人は二年前に萩へ来ていたのね」
 真佐子は興奮したのか、仲村の腕をつかんでいった。驚いた様子に担当者は、
「その頃、ちょうど萩では観光協会主催のライブがあり、その関係で見えたはずです。有名人とあって、うちの女性スタッフもキャーキャー言って、サインをせがんでいたと思います。今日は非番ですが、呼べば来ると思います。すぐ近くですから」
「お手数ですが、お願いします」
と仲村が言うと、すぐに携帯で連絡してくれた。
「色紙を持ってすぐに来るそうです。瑠偉さんが、交通事故でけがをしたことを知っていますよ」
 男性スタッフは笑った。真佐子は心臓がどきどきしてきた。光岡瑠偉がやってきていたとは知らなかった。以前に東京で会った時も、そのことは言っていなかった。また、風吹翔馬のことも言わなかった。隠していたのか、それとも言う必要がなかったのか。おそらく後者だろう。観光協会にはまだ人がいて、明日、午前中にライブのことで行くと、ホテルのスタッフから告げてもらった。
 光岡は、二年前は、澤田がマネジャーをしていたワールドプロダクションにいた。澤田が横浜港で殺害されてから、アジアエンタテーメントへ移った。風吹翔馬はダイアモンドエンタテーメントにいたが、天国の黙示録の切符を、何らかの経由で手に入れ、「本」を読み、準備に余念がなかったが、道玄坂上の自宅近くで、つい最近銃で殺害された。蜜柑の聞き込みで、蛍雪大学の鮫島教授と山城教授の関係にも一定のメスが入っていた。
 山陰の辺境の地に、車を使って悠長に旅などしていた男女は、一体誰なんだろうか。真佐子は、ホテルの女性従業員を待ちながら考えた。中年男女の女性が山城教授だとしたら、男性は一体誰なんだろう? 仲村は山城教授についてもっと情報が必要だと感じた。念のため、ネットで山城を検索すると、顔写真が出ていた。大学教授なら大抵出ている。これをブックマークした。
「お待たせしました」
と言って、女性従業員が入ってきた。真佐子と仲村は立ち上がり、
「わざわざすみません。翔馬君は残念なことになりました。瑠偉君と二人で来た時のことを教えてください」
と仲村が切り出した。
「真佐子さんには、いつもお世話になっています」
と挨拶して、女性スタッフは話し始めた。真佐子は、このあたりでは顔が広いようだ。
「翔馬さんのことは本当に残念です。刑事さんには、何としても敵を討ってほしいです。私はただ色紙にサインをもらっただけなのですが、翌日の文化会館のライブにいって、またお話しする機会があったのです。観光協会の仲間と談笑する形で、話の輪に入れてもらいました」
女性スタッフは一つ一つ記憶をたどりながら話した。
「こんなことを言ってました。明瞭には聞き取れなかったのですが、瑠偉さんのほうが、教授もお見えなんですね、ほらあそこに。でも、なぜ来ているんだろうって。翔馬さんが、あれ本当にって、じっと見ておられました。なぜ覚えているかというと、後日の観光協会の会報の中に、大阪の蛍雪大学の山城教授の紹介が出ていたので、ああ、翔馬さんはその教授のことを言ったのだなって、これがその会報です」
と言って、女性スタッフは仲村に会報を渡した。仲村と真佐子はその会報を食い入るように見た。山城教授は、萩のライブに来ていた。
「これが山城教授の写真です」
と言って、仲村は今しがたダウンロードした山城教授の写真を見せた。一同、観光協会の会報の写真と見比べて、
「間違いないですね。山城教授ですね」
と言った。
(続く)





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最終更新日  2021.10.13 21:37:52


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