灯台

灯台

2024年05月01日
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それだけは絶対に違う


個人宅の一階に構えられた店舗、
生ビールと冷やし中華始めましたの宣伝ポスターが見える。
ラーメンと書かれた暖簾をくぐったものの、
さしづめ飲み屋で、これはいわゆる二次会。
一次会は九〇分ヨンキュッパの飲み放題プランで、
キンキンに冷えて、咽喉の奥が痛くなるぐらいの、
爽快な喉越しを楽しんだ。唇に泡がついても気にしない。
かき氷現象のキーンとは違う意味で、

ドイツのニュルブルクリンク・ノルドシュライフェなの!
キレがある。ほろ苦い。
社会人三年目、労働はついに酒の味を覚えさせた。
とはいえ、会社の飲み会というのは、
飲みニケーションが廃れたとはいえ健在、
無礼講を装う面倒臭いだけの、
仕事の延長線上にある付き合いだ。
下戸以外はしこたま飲むより他ないところがある。
時折には、大学のサークルの飲み会の延長線上だと思う。
先輩が行くと行ったら、まず断れない。
親が死んだとか、バイトがある以外断れない。

解散後、歩いていたら袖を引かれた、
女だった。
同期の美女だと気付くのに、十数秒はかかった。
あの子、出世しそうだよ、仕事よく出来ると、
褒められているのを間接的に聞いたことがある。

ただ、名前はまったく思い出せなかった。
イケる口だったんだね、と言われた。
そんなボーイッシュな喋り方するんだと初めて知り、
親近感を湧いたのは覚えている。
オタク女子がイケボの練習をするようなそういう感じで、
清涼感やさわやかさのある声だと思っていたら、
あれは外面営業用で、
実はハスキーボイス気味のそんな声の出し方をされる。
マリアだと思っていたら、ユダだった。
時速三八九キロで急降下する隼。
駅にいい店があるんだ、行こうよと言われた。
相手に困らなさそうなのに僕を誘うのは不思議だったが、
よっぽど意外だったんだな。
でもカクテルとか無理ですよ、いやいや。
あと、焼き鳥屋とかは嫌ですよ、いやいや。
そんなわけでガラガラと引き戸を開けたのは、
―――覚えている。

随分なシモネタを言っていたのを覚えている。
僕ではない、彼女の方―――だ・・。

カメラのシャッターを切りたくなる。
脳のエラー検出メカニズム。
鮭の塩漬けしているとはいえね、こういう時って形式上は、
地元はとか、血液型はとか、誕生日はとか聞くじゃない、
教えたこともないし、さ。
違うのね、フルスロットルアクセル全開の、
エキセントリック号。
おお~し、わかった、ばっちこい、みたいなね。
欲求不満とか、だる絡みとかいうものだ、通常は。
普通に考えるとセクハラだし、逆セクハラみたいだし、
通常ならどうも誘われているみたいだと誤解するところだが、
けれど酔いも手伝って、
屋根裏にひそむインディアンみたいだ―――よ・・。
何言ってくれちゃってんの、天麩羅。
僕は彼女が仲のいい男友達のような感覚で接した、
僕も何をイタしておるのかコンドームの付け方を指で実演したり、
女性の九割はヤンキーで、その半分は絶対に肉食系なんです、
という持論を展開したりした。

「貧乳はステータスだ! 希少価値だ!」と宣えば、
「馬鹿はステータスだ! 希少価値だ!」と宣った。
―――そして、総理大臣と大統領のように、
日米の関係を強調しながら固く、堅く、硬く、
あれどんな漢字だったっけ、
でもミッションコンプリートフルハウスオペラ、
火宅、仮託、家宅、、、
ま、いっか、握手―――する・・。

犬の性感帯というのはいっぱいあるんですよとアホなことを言えば、
女性は男性の数倍気持ちいいんだよと返って来る、
列車に石炭を入れるような気分で。
ロボットがハイオクを飲んでいるような気分で。
こけしってエロいよね、
こけしには苔と罌粟という要素が入っているんですよ、
と信じられない類のアホなことを言っていた。
いいですねと言ったりした、そんなこと一つ一つで。
何がおかしいのか、げらげら笑った。
出来上がっていた。
漫画週刊誌のように捲れていたとも言える。
いわゆる一つの、壊れかけのレディオ。
天使って翼に性感帯があるのかなとも言えば、
悪魔はきっと尻尾が性感帯だ、そうですね、げらげら笑った。
脳に閃くタロット・カード的散乱による乱心語。
あるいはおほめにつかわり候語。

軽快だった。ちんどん屋だった。
そして氷敷き詰め、カルピスの原液と水を注ぎ、
マドラーでぐるぐると掻き混ぜ―――たような・・夜・・・だ。

中華鍋から空中に踊る炒飯の妙技、テーブルに肘をついた時の感触、
ウォーターピッチャーもコップにもまったく触れることはなく、
キッチンタイマー、手書きのメニュー表が油じみていくように、
僕等もベタベタの、油じみていった。
あれ、あの人、ポール・マッカートニーじゃないって言ったりした。
げらげら、あと、やっぱり名前思い出せない。

もはや、自分が何を飲んでいて、何を食べていたのかも、
いまとなっては思い出せない。
多分、酒量の限界を越えていたのだと思う。
そして相手が随分なシモネタを言って来る、
それに合わせる形で僕もオープンマインドに、
何というかアホになっていったのだろうと思う。
ハッ、ジョー式だよ!
じょーすぃき!
空いたグラスにすぐさま酒を注ぎ入れるし、
「美味しいからもっと飲もう」
とほとんど表情を変わらないカノジョを競う形で、
ビール瓶を何本空けたのかはわからない。
サファリパークライオンエリアを素っ裸で駆け抜けるような、
スーパードーパミンタイム。
一時間ほどかけて、チャーシューとおつまみ三品、
メンマとキムチと唐揚げ、それから別で餃子を二回おかわりし、
炭水化物が欲しくなった身体はラーメンを軽く食べて出た。
とはいえ食べれるかなと思ったら、
彼女が二人で一つ食べようよと言った。
想いは同じだったようだ。
酔い覚ましのつもりだったが酔いはまったく醒めなかった。
水を飲まないと悪酔いする。

そしてふらふらの千鳥足になりながら、
家に帰ったのは覚えている、嘘だ、帰ったような気がする、
圧迫する、額に皺が入る、頭痛は万力で締め上げるような痛み、
というか、そのはず―――だ、というように記憶がない。
人生で一番酒を飲んだということはわかるし、頭痛がした。
宿酔という言葉はエドガー・アラン・ポーしか言えない。
朝ベッドの上で目覚めると、
ふぁさああ―――っつ・・と、メロンの香水させた、
腋が見える、白い腕が眩しい、ノースリーブの女がいてビビった。
一瞬、バレエのダンサーみたいな寝方するんだなと思いながら、
ばちくそエロいけど、
こいつ誰だと思わなかったといえば嘘になる。
スカートは何故か捲れていて、何というか、煽情的な具合だった。
そして何故かもう一つの手は僕の股間に置かれていた。

将棋で言えば―――王手、で。
チェスで言えば―――チェックメイトなんだよ。
つまり? つまり、どういうことなんだろう―――ね・・困った・・。

ぐわし、という感じのギャグを思い出さなかったと言えば嘘になり、
アロハ、といいう感じで水に流したかった、そうだよそうだよ、
―――左耳から右耳へ華麗にスルー、スルー、
聞くな、見るな、何も言うな、スルー!

誰に言ってんだよ、でもね、ナチュラルに、
誤魔化しくなかったかと言えばそれもまた嘘になる。
アウトだった。
いや、わざとじゃないんですよ、セーフだった。
そっと後ずさりして逃げようと思ったら何故か彼女の眼が、
ぱっちりと開いて、何か言うのかな、何か言うのかなと思ったら、
最初に言いたい、公式的見解として、
君のことが好きだ、でもごめんと言いながら、
はれ―――つ・・おん? 
イエー、はれ―――つ、(on,)
急激な膨張を予期させるおと・・・・・・。

とある国からの誤射ミサイルという捏造記事を思い描きながら、
ヴァレリーの退屈な詩を読みたくな―――る・・。

それは、かきのたねの、きわめつけの、たねあかし。
ワトスンがホームズにしたり顔でピストンする。
はれ―――つ・・おん? 
イエー、はれ―――つ、(on,)
何が起きたか、沖田総司が近藤勇にピストンする。
して、テー、てぇー、しまったー。
(でもその、“にんしき”は、かえられないぞー、)
アァ、ああ、アァ、
・・・・・・・ンアアアアぁぁアアアァァ!!!
(オッケー、それは飛びだしゃいい、彷徨える青い弾丸!)

アニメ式では虹色になるところの、自主規制システム、
盛大な吐瀉物を、案山子ないしはへのへのもへじとなりながら、
眼にモザイク入れながら、メン・イン・ブラックの服装しながら、
いってらっしゃい、した。
こんな時、グッドバイという言葉はすけこまし。
頭痛がメキメキした。
もしかしたら身体が割れて昆虫が飛び出す、
とある日の、かまいたちの夜パート2。
爽やかな水色の朝は、未来永劫始まらなかった。
チ、チュン、チュンカ、チ、チュン、チュンカ、チチ、
と、雀たちは絶対に笑っている、そんな鳴き声。

あと、名前をやっぱり思い出せな―――い。
でも一つのささやかな遍歴というものが、
こんな時に強く、慰め、勇気づけてくれ―――る・・。
―――そういえば俺、名前聞いたことなかったわ。





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最終更新日  2024年05月01日 00時21分29秒


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