灯台

灯台

2024年05月01日
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美しい眺め


風は轟々と鳴りだし、
ほつれ毛をくすぐるように襟元に触れる。

狂人じみた広告塔もないよ、
歓楽街の臭気も。
僕は水溜まりに小さな波紋を作ったって、
見てみないふりをした。

風が首筋へ滑って行くと、
鼻孔へひっそりと呼吸する夜の植物の匂いを運ぶ。

テントの幕が捲れたんだよ。

何も知らない、何も見ていない、
そんなことで一体どうするんだい、
小器用なイミテーション、
キーワードを導いた服を着て、
幾重にも折り畳まれた、
本当の声や言葉を閉じ込めて、
今日も生きているのかい。

樹の形を歪め、
樹冠の形や枝の派生状態が揺れる時、
枝は向きを変えたろう。


抽象語だらけ、さもなければお遊戯倶楽部、
何とも繋がろうとしない心理学的、病理的な領域で、
地べたに這いつくばっている、
みじめな奴隷たちを想った。

生まれてから眼にしたことのないもの、

心を一杯にしたことのない、
煮え切られない考えを自己分析もできない、
それが全体にとってどのように還元され、
自らがどのような立ち位置にいるかも、
まったく知ろうとしない、
わかろうともしない見下げ果てた連中。

頰を撫で、後方へと流れていく、
透明な断層を思い描いた、
この夜風は思いがけないほど冷たい。
そして君は錠剤を飲んで、
ありもしないダム湖に身を沈めてゆくのかい。

ますます現実や日常が遠ざかっていくかも知れない、
緊急事態は告げられても、僕の中では、
戦争も自然破壊も孤独死もすべて同じ扱い、
一つ一つ考えていちゃいけないよ、
片っ端からやっつけよう、
何が出来るかじゃなくて、
何でもやっていかなくちゃ先には進めないんだよ。

軽やかに踏みしめて欲しいんだよ、
正しいことなんか一つもない、
間違っていることだらけかも知れない、
百年先や千年先に骨一つ残らないと思う、
僕だって同じさ、
ねえ、君だって同じなのさ、
みんな同じだよ、
だからってそれを言い訳にするのは、
フェアじゃない、
それはきっと答えじゃない、
それじゃ生きているとは言えない。

燃えくすぶった、煮え切らない顔。
現実は残酷だよ、
でも自然だって残酷さ、
だったら天国や地獄というものがあっても、
それはきっと残酷なのさ、

―――残酷なんていう言葉で逃げないで、
どんな方法でもある、
たとえどんなに時間がかかっても、ね。
現在形で話す僕も、
未来系で話す宗教も、
過去形で話す老人も。

粉のように見えないまま、
舞い上がる、
まるで鳥の囀りを真似ているみたいだった。
きらめきが折り重なり、
欠けるところのない調和を見せていたって、
やっぱり僕は何も言える気がしなかった、
沢山の人のことを考えていたら、
長い間ずっとそうさ、
誰でもいつかは死ぬ、
いつも幾度も繰り返されてきたという論調の、
ニュースみたいな物の言い方をして、
責任の追及も、その矛先も、
丸くして、僕は眼を逸らしたのさ。

弦の音などしもしない、
風は林を吹き抜けていったんだ、
特殊な通り道とか重要な使命もない、
IQも必要もない、遺伝子も関係ない、
循環するもの。

ぼんやりと思う蜂の巣。
祭礼、しきたり、風潮、伝統行事。
昨日と同じ振動だったよ、
昨日と同じ暮らしの気配があったよ、
でも、脆い地層は崩れて、
そんなんじゃ誰も言葉すら聞いてくれない、
そんなんじゃ誰も生きているとは思わない。

様々な微妙な物音が、
入り乱れて騒がしくなったら、
電車に乗っているみたいだった、
瑠璃色に割れる痛みに、
ほんの少しでも、
醜いものが隠れていないようにと思った、
完璧に間違っているものを作ろうと思った、
僕は空洞の渇きを満たす―――よ・・。
愛なんてない時代だとか、夜の時代だとか、
何千年、何万年流れたって、
僕等はちゃんとここにいたって言うよ、
終わらないことを考えていたら涙が出た、
次の扉へ向かうよ、
誰もいなくったって、
それがどんなに向こう見ずなことだって、
禿げたスヌーピーみたいになりたくなかったから。





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最終更新日  2024年05月01日 11時46分57秒


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