灯台

灯台

2024年09月14日
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​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​ ​​​​​​








その後、姉とトウマさんのお見合 いは、
滞りなく進み結婚することが決 まった。

あんなことを言ってしまった私 もいけないんだけど、
結局お姉ちゃんでも良かったんだなと複雑な気持 ちになった・・・。










​​“ まだ独身でいたい ”という人が多い中で、“ 身を固める ”のは、​​
​――― 名家の体裁を整える 、ということなのかも知れない。


そう思うと、胸がほっとするのが不思議 だった。
でもそれは多分、トウマさんを悪く言いたくない気持 ちだ。
義理を立てる相手を間違えている気 はするのに、
だってトウマさんは、優 しい。
気が付くと、ずぶずぶになって、屈折度が増してゆく自分を感 じる。
しかしそれゆえ仕事に精が出て妙な達成感を得 られた。

​​​​​
そして月日は流れて、姉は花嫁修業という名目で、
御手洗家の御屋敷に引っ越すことになったのだけど、
その前日・・・。


私の部屋へ来 るなり、

母親が突っ慳貪に言 ってくる。
ふくよかな貫禄のある腹部をぶよよん とさせ、
せっかちなウィンカーみたいな人差し指を突き立 ててくる。


ホノカが御手洗家に嫁いでちょうだい
え?
お姉ちゃん、向こうの家に挨拶に行って、
酷い扱いを受けたそうなの。
そんな怖い家にお姉ちゃんをお嫁に行かせられないわ


来て、と言 ったが―――。
来い、のこと である。




、、、
愁嘆場。


キッチンでは、テーブルに突っ伏 して、
ヨヨと泣き崩れている姉。
少しずつ沈んでゆく太陽の、十倍も早く走った両親。
それに引き換えサーッと私の血の気が引き、
その行き先をしめす針はスピードメーター のように、

しかるべき場所へ吸い込 まれる。
ここに味方 はいない。


​​ ずっと から っていることだ 。​​
冬になるとバケツで氷 がかたまる、
鯉は口をぱくぱくさせながらなんでも食 べる。
、、、、、、、、
ひびが入るだけだ。
ネジやボルトがまた一つ外 れ、
積み荷 になって、

身体がまた少し重 くなる。





トウマさんも、そのお母様も人でなしよ。
あの家は鬼の巣窟なのよ! 絶対に結婚しないんだから!


​​...ウワ アア アン。 ​​


そうすると、父親も勇み足で言 う。
時間もっと間延びして感じられる中、
何処かにありそうな家族ドラマを演じようとする中、
その時、私は姉の咽喉の動きや、様子を探るような目配せを見 て、

​​ これは嘘泣 きだなとすぐにわかった。

子供の時はよく嘘泣 きをされて、
母親から平手打ちを喰 らった。​​






当初はホノカと結婚したいと言ってたんだし、
おじいさんにはお父さんから話しておくから、
ホノカが行きなさい



どうしてお姉ちゃんが嫌がるような場所 に、
私ならいいと言ってほっぽり出 せるのだろう。
まるで口減 らしだ。
私は鼠かゴキブリなんじゃないかと思 えてきて、
何故か鼻がヒクヒク する。
しゃっくり みたいなものだろう―――か。​

でも本当におじいちゃんに説明するとは思 わなかった、
私がおじいちゃんに好かれているのは一目瞭然 だし、
仮にしたとしても、私が姉から奪ったとでも言 うのだろう。
そういう冬の雪がそのまま残っている裏工作 よりも・・・・・・。




ずうんとした圧迫―――閉塞。
途中で止まった血が気味悪く後戻りしてゆくような、恐怖感。
から―――の、穴の中へ落ちてゆくマネキン人形。




​「 いいね? 」​
​「 そ、そんないきなり・・・ 」​


しかし私は家族に逆 らえない・・・。
言われたとおりに荷物 をまとめた。
といって、学校の卒業証書と、衣服ぐらいしか持 っていくものはない。
日常必須の嫁入り道具 もなく、
あっても、持たされるようなことなどなく、
あえて言えば使い慣れた包丁や鍋などを持 っていきたかった―――が、
後で何か言われても面倒だと思うと持ち出 せなかった。

そして御手洗家に向 かった。​

でも鬼の巣窟 ってどういうことだろう・・・。
どんな扱いを受 けたんだろう・・・?
事故で片一方の意見だけを聞いていても真相 はわからない。

、、、
すたん 、と鍵をテーブルへ置いて家を出 たのは、
もうここへ帰って来ることは許されないだろうと思 ったからだ。
帰ってくれば、笑い者にされ、もっとひどい扱いを受 けるだろう。
しかしまた十中八九、御手洗家を追い出 されるだろう。
失礼にも程がある。気が重 かった。








「( ​​​ されないまま・・・​​​ )」


風の音が、はっきりと聞き取 れた。
それは幼少期の漠然とした記憶を呼び覚 ます。
真上に見上げて、鱗のように小さな波のような雲と、
しなやかに空を泳ぐ小鳥を見
た。
厚ぼったい本を閉じたように、人生の第一章が終 わった。
投げた石のように、光の欠片のように飛び回っている早朝の雀。
コンクリート塀も、自動販売機も、信号機も、見 えなかった。
、、、、、、、
た。
新しい波を起こすような透明なうねりの原動力に羨望
しながら、
あんなに小さな鳥にでも自由 があるということに気付く。

、、、、、、
お前はいいね。
​​


けれども、忘れるなと思 う、
自由には代償があり、その代償は雨の強い日や風の強い日 に、

人知れず死 んでしまうこと―――だ。
天敵 もいる。

ただ優雅に空を飛んでいられる享楽家では生 きていけない。
先のことを考えてどうしよう、いや、いままでのことを考 えて、
一体何をどうできるというのだろう。そこには強がりも見栄 もない。
空元気でもない、理性に鞭打っているが、けして投げ遣 りではない。

、、
なら。

「( ならいっそ、赤の他人と、
暮らした方が、気が楽かも知れない )」

​​―――愛 して しいと、 ​​ わなくて むのだから。 ​​





世を憐れみながらも、中学校卒業して以来、
わたしは高校に進学させてもらうことすらかなわず、
専門学校へ行きたい、就職でも構わない、とも言ったが、
お前には無理、と一蹴された
半ば家の奴隷として、
終わりなき労働をしてきたことを思い出した。
自分自身ただ心の何処かで言い聞かせてきたことが、
どんなに内なる願望の穏やかな海のようであったか。
心細かったし、できるならこのまま蒸発したい衝動にも駆られたけれど、
もうあの家へ帰らなくてもいいんだと思うと少しだけ心が軽くなった。
ずっとわかってい―――た。

​、、、​
​あそこは『 私の家 』なんかじゃ―――ない・・。


  *





バス停で静かな朝の情景を楽 しみながら、
数分後に乗って、駅に着き、通路をゆっくりと歩 きながら、

​​ プラットフォームで家からお弁当代わりに作 ってきた、
おにぎりと、自動販売機のお茶で朝御飯 にする。
なんて 素晴 らしいんだろう。

おのぼりさん黙れって、ナレーターが言 っています、)




世界は何て輝 いているんだろう。

気弱タイプと無口タイプのあわせわざかよって、
ナレーターが言っています、明日クビ にしておきます)



それから電車に乗って車窓の景色を物珍しげに眺め、
バスも電車もおっかなびっくりになるぐらいには久しぶりだ、
場合によると十年ぶりぐらいかも知れない、
それから少し歩
かなければいけなかった・・、​​

もちろん彼等は車で送 っていってくれない、
道に迷おうがそれはすべて私の能力不足 になる。

地図を渡して、ここに行 け、だった。


「い、行くか・・・・・・」


内気かよ、臆病かよ、人見知りかよ って、
ナレーターが滅茶苦茶なことを言
っています、
裁判は一か月後に華々しく始まります





本来だったら菓子折りでお詫びの一 つでもするところなのに、

お小遣いすら与えられていない私には何 もできない。
スーパーでバラ売りのジャガイモとか、
タマネギ入れるビニール袋二枚取ったような悲しさ。




交渉スキルにも乏しいので、ただひたすら頭を下 げるしかない。

帰れと言われたら、おじいちゃんのところへ身を寄 せよう。
坂道の上にある大きな建物は財閥の、
旧家のといった瀟洒で威厳のある雰囲気

高級車が通過するような大きな家の門構えを見た時は怯 んだが、
なるようになれとインターフォンを押 すと、
どちら様ですかと聞かれたので名前を答 えると、
門の使用人扉からメイド服の二十代女性が出てきたので、
簡単に事情を説明
した。
さすがに洗練された御手洗家の使用人である、眉一つ寄 せない。

少しお待ちくださいと五分ほど待つ間、
門前払いも十分にあるなと考えて冷や汗をかき始めた頃、

戻ってきて、お待 たせしました、
奥様と坊ちゃんがお庭でお待ちしていますと言 った。
​、、、、
こちらへ。​



ドキドキしながら後へ続 いた。
枯山水の見事な庭園 だった。



身が引き締まる想 いがした。
小さな女性と大きな男性の輪郭。
スーツ姿と着物姿。
近づくたびに緊張で吐
きそうになってくる。

ぺこりと、頭を下げながら言 った。






​、、、、、、、、、、、​

​潜在能力 される



申し訳ございませんが、色々ありまして、
当初の予定通り私が結婚することになりました、
また先日は姉が迷惑をお掛けしましたことを、
あわせて・・・

「・・・・・・いや、そのことはいい。
あなたの祖父の慧眼を思い知っている」
「え?」
「でも、そうか、なるほど、
こうするとまるで天岩戸だね」


トウマさんは 二年ぶりにお会 いするけど、
あの頃よりずっと怜悧で、硬質な印象を崩 さない・・・・・・。
けれども、また一段と大人びた面差しになっていて官能的 だ。

だが、こんな非常識 なことをされたら、
どんな態度を取られても仕方 ない。

​何​ だか新聞の横文字を、
縦にして誘拐文でも作っているような気分になってくる。


まあいいでしょう、トウマは最初ホノカさんと、
お見合いするつもりだったのだから、予定通りです


突き放したような言い方を奥様 ―――つまり、
これから私のお義母さん、姑になる人は言 う・・。
しかし、度量のある意見だなと感心 する。
何が正常で何が狂っているかは別 として、
即帰 れ、ということにはならなさそうだ。

御手洗家の縁の下の力持ちだけあって、すごい気品 だ。
同じ女としての戦闘スキルには月とすっぽん ほどにあった。
身長は百五十ほどのわたしと同 じぐらいなのに、
舞踊経験者 だろう―――か、
居住まいの美しさが気位の高
さをあらわしている。



食事の用意がちょうどできています、
その後に、あなたの部屋を案内しましょう・・・・・・


​​​この うるさい なのだろうか・・・、​​​
​​​それとも 何事 にも しい なのだろうか・・・。​​​







ああそういえば、荷物が届いてないのだけど、
家から送られてくるのかしら?
あ、いえ


​ちょっと えにくい。​
姉が先例を作った以上、

そうでなければ不自然だとするお義母さんの意見は正 しい。
でも弱点を曝け出さなければ利益というのは得 られない。



私の荷物 はこれだけです​

、、、、、、、、、、 、、、、、、、、、、、
あの人の皮をかぶった、面汚しみたいな人間の屑。


、、
ねえ。


・・・・・・それはそれとして、あなたの服、
随分とみすぼらしいようだけど、

そういうものしかお持ちでないの? 嘆かわしい!


ぶるっ、と震 えている。​
まるで爬虫類や、昆虫でも見たような反応 だった。

これでも私の持っている服の中で一番まし なものだった。
だが、継ぎ接ぎがあるかないかだけの違 いである。

とはいえ、嫁ぎ先にのこのこ現れた以上は言われて当然 だ、
身だしなみは人格以前 として、ある。

、、
違う。




、、、、、、、、、、、、、、、
これが人間のする仕打ちだろうか。


す、すみません
身長体重スリーサイズ、あと、足のサイズは?
え?

ドキッ とした。
中学校三年生以来、そんなことを気 にしたこともなかった。
だが、これがいけなかった、お義母さんは一気にヒートアップ した。


あなたねえ、まさか、把握していないと言うの?
あなたの御召し物はじゃあ今までどうなさっていたのかしら!

、、、、、、、、、、、、、、、、、、
運がよければ姉からのおこぼれがあった、
というようなこと言うのが恥だという自覚 はある。





この 図書室 かれた 調査報告書、
一人 女性 として える 気持


すみません!
そのようなことで、明治から続く御手洗家の嫁が、
おいそれと務まると思わないことよ!

まったく・・・とんでもないわ!
ごめんなさい・・・


予想していたとはいえ、委縮 してしまう。​
、トウマさんが不意に近付いて手を握​ ってくる。
、色っぽい理由​ からでないのはすぐにわかった。


ボロボロの手だな・・・、触ったらこちらが傷つきそうだ
す、すみません


女性として恥 ずかしいことだったが、
私はあの家でハンドクリームさえ買うことが出来 なかった。
もう十八にもなるというのに、なんて恥 ずかしいことだろ―――う。
そしてそんなことを言われてしまう自分が心底情 けなかった。


肌はそれほどでもないが、髪は傷んでいるな、
きちんと手入れできているのか、毎日ちゃんと眠っているのか

・・・すみません
まあいい―――これは色々と考える必要がありそうだな母さん・・・
そうね、私も少し考えが甘かったわ



どうしよう、こんなに幻滅 されて、
嫁として失格 なんじゃ・・・。
スタスタと前を歩いていく二人を数秒見てすぐ、後に続 いた。
お義母さんに呆 れられ、
婚約者のトウマさんにも渋い顔をされ、私は立つ瀬 がなかった。

でも気付いていないのは本人自身にもある。
だって彼女はいつのまにか、表情を作り、
時にはそれが出来ないまま相手のことを気にしている。
その驚くべき変化がたったの数分で起こった―――ことを。





、、、、、、、、、
テーブル席に着いた。
私は名誉挽回 しようと、した。
が、不思議そうにトウマさんが声 をかけてくる。


どうして食べないんだ?
いえ、皆さんが必要なものがあれば、
すぐに取りに行けるようにと思いまして・・・


その瞬間、ぐわっとトウマさんの眉間に皺が寄 った。
明らかに怒 っていた。


私たちが食べ終わってから食べるつもりか?
は、はい・・・

お義母さんが言 う。​

もしかして、いつもそうしてたの?
はい・・・
呆れたわ・・・なんてことなの
す、すみません・・何か至らなかったでしょうか・・?


トウマさんが言 う。​
、、、、、、
もういいんだ・・・



、、、、、、、、、
ここにいなくていい 、という意味かとビクッ とした。
私はこんな時に一つしか言葉を知 らない。


ご、ごめんなさい


目尻に涙が浮 いてきた。
必死な努力で乗り切 ってきた、
いつも、いつも 、だ。
それに応えてくれる時間というものがすっかり無 くなってしまっては、
この世界は少 しもわからないものになる。
​​ 致命的に遅れている列車を待っている受験生のような気持 ちだった。

​​

至らないところがあれば、言って下さい!
すぐにでも直します!
言って頂けないとわからなくて・・・ごめんなさ・・・


すっと、目尻に指先が触 れた。
トウマさんの人差し指 だった。
​​どうして気付かなか った のだろ 、​​
​​どうして気付かなか った のだろ う、 ​​
表情や言葉 なんかよりもずっと 明瞭 に、
​彼は 優しい瞳 をしている。​


いい加減にしなさい、
君は私と結婚するために来たんだろう?


こくん、と肯いた拍子 に、
トウマさんが気を落ち着けて言 った。
理解のずれ、省略、心の擦れ違 い―――。

ちょっと、きつい言い方 をしてしまったが、
すまない、頭にくることばかりなんだ、
君を責めてるんじゃない、と言
った。


どうして同じ娘なのにこうも扱いが違うんだ、
それをまあお見合いの席では―――
およしなさい、トウマ、食事の席ですよ

、、、、、、、、、、、、、、、、、
けがらわしい豚の話など聞きたくない。


でも本能の吐き出す霧は、身体や首筋、
腕、肩にもそれを伝 えた。​


言葉を荒げてすまない、でもその、ホノカさんは、
家政婦じゃないだろ?

あ・・・・・・
一緒に食べよう。もちろん初対面の席で、
緊張して咽喉が通らないというのならわかる、
実を言うと―――私もだよ。
どうやって接していくのがいいのか、試行錯誤してる。
ましてや、ホノカさんにも引け目があるだろう、
でも、私たちはホノカさんと食事が食べたいんだ。
それに、おいおい気付くはずだよ、
みんなホノカさんが考えているよりずっと忙しい、
するべきことがある、

でもホノカさんが来るから、今日はみんなスケジュールを調整したんだ。
何の為に? それは、食事を横から眺める家政婦のためじゃない、
今日から一緒にスタートする、家族の顔を見たかったのさ



、、、、、、、、
嬉しい言葉だった。
思わず、キュン とした。


そうですよ、家族なのにどうしてあなただけ後で一人で、
食べなければならないの? 
苦手な料理を出されて食べられないのなら、わかりますけどね、私も。

けれど、ホノカさん、それを当たり前とすることは金輪際お止めなさい。
今までがどうであれ、ここに嫁ぐからには、

そんなことしなくていいのよ



抑制 、気 のきつい 言葉 目立 つけれど
がったことは 絶対 にしない 、人。


ある程度の事情はみんな知っている、
あなたのお祖父さんからも頼まれている。無下にはしないよ。
だが一つだけ言える、われわれは敵ではなく、味方だよ。
急には無理だろうが慣れていっておくれ。
みんな癖がある、でも息子の結婚相手を、
いや―――人間の尊厳さえ踏み躙るようなことは、
絶対に、しないよ




あれ・・・。
皆さん、もしかして・・・・・・。

すごく優しい・・・・・・?



姉が逃げ出すほど『怖い家』なんだと思 っていたし、
到着した時に渋い顔をされたと思って勝手に委縮 していた。
でも私は何か勘違 いをしていたようだ・・・。

、、、   、、、、、、、、、
ここは―――私を必要としている。


  *





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最終更新日  2024年09月14日 18時34分41秒


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