すい工房 -ブログー

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2008年01月05日
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 初めはやっぱりこわごわと、遠目に眺めるだけだったレン君も、慣れてしまえば元気に走り回るようになった。

 田島さんが私を「救い主」なんて言うのは、そういった経緯があるからだろう。
 私も楽しんでたから、気にしなくていいのに。

 そういえば、田島さんも言っていたけど、こうしたドックランがある公園って、あまりないみたい。

 ミチルさんもそういってたっけ。
 調べてみたけど、近くにはなかったって。

 だから、私が場所を教えることになったんだけど。
 私にとっては昔から身近にあるものだから、どこにでもあると思ってた。

 車で30分かかるこの公園に田島さんがくるのも、そうした事情があるからだ。

 それから私は、ユズルに田島さんと久坂さんを紹介した。

 田島さんは「以前、仕事でお世話になった方」と説明し、久坂さんについては「現上司」と説明する。

 ユズルはそれを聞いただけで、久坂さんがどういった人物なのか、察したようだ。
 驚いた顔で、反射的に久坂さんを見ていた。

 ……そらそうだろうな。

 まさか、一社の社長と公園で出くわすなんて、思ってもなかったろう。
 私だって青天の霹靂もいいところだ。

 それからユズルを、田島さんと久坂さんに紹介した。

「彼は三島譲さんで――」
「なに? 柏木さんの彼氏?」
「か……っ!」

 すかさず話に割り込んできたのは田島さん。
「ふふん」と微笑むその表情は、冗談交じりで私をからかう気、まんまんだ。

 な、なんて答えにくいことを本人目の前にしていうかなぁっ!?

 言葉につまる私に対し、ユズルはいたって平静だった。
 苦笑交じりに、ルーとカイをつないでいたリードをかかげて「犬を飼ってるもの同士。知り合いですよ。今日はこの公園を紹介してもらったんです」と話していた。

「へえ。きみも犬を飼ってるの?」

 それを見た田島さんの目が。

 キラリと光ったように見えたのは……多分、気のせいじゃない。

 うなずくユズルに、田島さんは標的を定めたようだった。
 それとなく近寄って、飼い犬のことについてあれこれ聞いている。

 田島さんも犬好きだから。
 ……話が長くなりそうだ。

 そんな二人を見つつ、私は……さっきからチクチクと小さな針で刺されるような胸の痛みを感じていた。

 田島さんの質問に「知り合い」だと答えたユズルの言葉が……なぜか、頭の中でぐるぐるとまわっていた。

 その思考を停止させたのが、いつのまにか傍らに来ていた久坂さんの声だった。

「君だったのか。田島専務にこの場所を教えたのは」

 はっと我に返って傍らを見上げると、久坂さんは田島さんとユズルを見ている。

「……ええ、まあ。
 ってか、どうして久坂さんがここにいるんですか。
 ここは私のホームラウンドですよ。
 久坂さんは違うでしょ?
 なんだってこんな遠いところに……」

 久坂さんのマンションからだと、ここまで車で片道40分かかる。
 田島さんよりさらに遠い。

 そう告げると、久坂さんは久坂さんで憮然とした。

「近くにこういった施設がないんだから、しかたないだろう?」
「え。そうなんですか?」
「ああ。
 初めて知ったよ。
 こんな場所があるなんて」
「え? ホントに?」
「本当に」

 久坂さんがそういうからには、相当珍しい施設なんだろう、ここは。

 小さい頃から、公園にはこういった施設があるのが当然だと思っていたから、ちょっと意外だった。

 年を経るにつれ、行動範囲が広がるにつれ、この施設が珍しいとはわかるようになっていたけど、まさか久坂さんに言わしめるまでとは思わなかった。

 恵まれた場所に住んでたんだな、私。
 ……もしかしたら家の両親、それを狙った場所で家を選んだのかも。

 なんて考えていると、また久坂さんが声をかけてきた。

「彼は、付き合いがあるのか?」
「……彼?」
「君の今日のつれのほう」
「……はあ、まあ……」

 久坂さんのいう「彼」とはユズルだろう。

「そうか」と返事をしたものの、ちょっと考え深げに眉をひそめている。

 ……なんで?

「それが、なにか――」

 最初こそ「いや」と答えるだけで、そこで話を切ろうとした久坂さんだったけど、それから思い直して口を開いた。

「面談に来る、一人じゃなかったか?」
「…………。そう、ですけど……」

 返事をしながら「何でそんなことまで知ってるの」と、内心、あせった。

 選考には私はもう関わっていないけど。
 なんだか悪いことをしたような気になってくる。

 ユズルはルーとカイを呼び寄せて、それぞれの芸を披露している。
 どうやら、田島さんが頼んだみたい。

「君は思わぬところに知り合いが多いな」
「……私も……面談で顔を合わせるまで……知りませんでした」

 正直にポツリとつぶやくと、久坂さんは意外そうな顔をする。

「知らなかった?
 友人なんだろ?」
「……ええ。けど、互いの会社名とか仕事の内容とか。
 それまで話題にならなかったんですよ、不思議なほどに。
 だから……面談で顔を合わせたときは逃げ出したくなりました」
「逃げ……?」
「だって、恥ずかしいじゃないですか」
「そういう、ものか?」
「私はそうなんです」
「……なるほどな。
 選考代役からはずれたいってのは……彼も、少なからず影響してるってところか」

 タケシの件が、一番の要因だけど。
 それ以外にも――ユズルのことも。多少はあったのかと、久坂さんはそう言いたいのだ。

「……否定は、しませんけど。
 けど、私情を挟まないよう、注意はしてました。
 結果が出るまでは会わないようにしてたし。
 ……おかげでストレス、たまりまくりでしたけど」
「……ああ。あれだったのか。
 前言ってた『心のビタミン剤』」

 得心顔でうなずく久坂さんに「よ……よく、覚えてますね」とこっちが恥ずかしくなる。
 勢いで言ったこととはいえ。
 なんつー恥ずかしいことを言ってしまったんだか。

 私の言葉に、久坂さんは肩をすくめた。

「おもしろい言い回しだったからな」
「……はぁ」
「で? どっちなんだ? ビタミン剤は」
「は? どっち?」

 言われて、ユズルのほうを見てしまう。

 どっち……って言われたって。
 カイかルーかってこと?

「えと……小さい犬のほう……ダックスのほうですけど」
「……そうじゃなくて。
 人か、犬かってことなんだが」

 そう、聞かれて。

 ……返事が、できなかった。

 そんなこと、考えたことがなかったから。
 久坂さんと話しながら、あのときの情景を、思い出しながら。

 ふと胸に浮かんだのは、ユズルとルーと私と。
 二人と一匹が一緒にいるあの穏やかな空間だったから。

 なんと答えればいいのか……言葉が、声が、出てこない。






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最終更新日  2008年01月05日 09時54分41秒
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