何度観ても怖いという形容は、この映画のためにある言葉かもしれない。いや、観直すたびに怖さが増幅すると言ったほうが正確か。
『恐怖のメロディー』は、ご存知の通りクリント・イーストウッドの初監督作品だ。
マカロニウエスタンで大スターの地位を不動にしたクリント・イーストウッドの初監督作品が、女性ストーカー物というのは誰もが意外に思うだろう。
事実、映画会社も「誰がクリント・イーストウッドのDJを観たがるんだね」と冷たい反応だったらしい。
イーストウッド扮する地方局の人気DJデイブは、行きつけのバーでイヴリンという女性と偶然出会う。といっても、実は彼女が待ち構えていたのである。
デイブは、女に向かって、「どこかであったような気がする」と洩らす。女は、毎晩彼の番組にリクエストの電話をかけてくる熱心なリスナーだったのだ。「プレイ ミスティ フォーミー」・・・・と。
「声」と「声」だけの関係だった二人の間に濃密な空気が溶け出し、一夜かぎりの男と女の関係を結ぶ。後くされの無い大人の情事。それで終わるはずだったが、終わらない。
女は凄まじいストーカーに変貌する。(ジェシカ・ウオルターの鬼気迫る演技が凄い)
影のようにデイブを追いまわし、恋人の存在を知った女は嫉妬に狂う。
狂言自殺を図り、クロワゼットの洋服やソファーやベッド、それらをナイフで切り刻む。その行為はデイブの恋人にまで及び、彼女は命を狙われる・・・・・・。
とにかく怖い。映画の中で仲間のDJから冗談交じりに、「女殺し」と揶揄される場面があるが、身につまされる男は多いだろう。いやそんな甘っちょろいものではない。とにかく怖すぎてどんなホラー映画よりも恐い。
バーで初めてイーストウッドと黄色いドレスの女が出逢うシーンで、キャメラは縦の構図になる。手前でイーストウッドとバーテン(ドン・シーゲル監督が扮している)はゲームに興じ、その後方に椅子に座った女が入り込むのだが、それだけで不気味に恐い。
女の正体が説明されることはなく、ひたすら「ストーカー」でしかないので余計に恐怖だ。
風光明媚なカーメルの海岸沿いを舐めるように、ときおり俯瞰撮影が挿入される。その開放感がかえって主人公の追い詰められた閉塞感を際立たせ、全身に身の毛がよだつ。
この映画を観た男たちは、女との危ない橋は渡るまいと固く誓うのである。
『オー・ブラザー!』 映画批評 2009年06月14日 コメント(1)
『プロヴァンスの贈りもの』映画批評 2009年06月07日 コメント(4)
『海の上のピアニスト』 批評 2009年05月31日 コメント(2)
PR
カレンダー
コメント新着
フリーページ