ゆうさんの日記

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2026.05.28
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午前一時。
アラームが鳴る前に、不思議と目が覚めた。
月曜日だけは、いつもよりさらに二時間早く布団から出る。
まだ街全体が深い眠りについたままの暗闇の中、お店の勝手口を開ける。うちの店は、本当に小さな「城」だ。二人がすれ違うのがやっとの狭い厨房に、大人一人が立てばいっぱいの小さな売り場。
「よし、今週もよろしくね」
誰に言うでもなく呟き、私は袖をまくり上げた。
月曜日のルーティンは、二時間近くかけた厨房の徹底的な掃除から始まる。フライヤーの油をすべて抜き、ステンレスの壁の油汚れを磨き上げ、床をデッキブラシでガシガシとこする。狭い空間だからこそ、少しの汚れも目立つし、何より食べ物を扱う場所だ。
レースクイーン時代、ステージの輝きの中にいた私が、今はこうして真夜中に汗だくで床を磨いている。人生って本当に分からない。でも、この泥臭い時間が、今の私のプライドを支えてくれている。
ピカピカになった厨房で、午前三時からようやく仕込みを開始する。

売り場の隅にある家庭用の小さなミニ冷蔵庫には、これまた定番のウーロン茶とミネラルウォーター。
「これこれ、このシンプルさがいいんだよ」と、常連のおじさんたちには妙にウケがいい。
「明美さん、おはよう! 今週もよろしく!」
「おはよう。今週も頑張ってね」
朝七時の開店と同時に、シャッターの前にはすでに五〜六人の常連さんが並んでいる。みんな、私の顔を見るのと、出来立てのお弁当を一番乗りで買うのを楽しみに来てくれる馴染みの顔ぶれだ。
「そういえば明美さん、去年の今頃はすごかったよねぇ」
常連のサラリーマンが、懐かしそうに目を細めた。
「あはは、あったねぇ。あの時は本当に目が回りそうだったわ」
実は去年、地元のテレビ局が取材に来たのだ。平日の朝に放送されている、地域の情報をお届けする十分間のミニ番組。
「下町の路地裏に、元レースクイーンの絶品弁当屋が!」なんてタイトルで紹介されたものだから、放送翌日からちょっとした「明美フィーバー」が巻き起こった。
狭い路地に行列が何十メートルも続き、朝七時の開店から一時間もしないうちに全てのお弁当が売り切れる日々。遠方からわざわざ私を見に来る一見さんもたくさんいた。

テレビの力で一時的に集まった人たちは、すぐに次の新しい刺激へと移っていく。寂しくないと言えば嘘になるけれど、私はどこかでホッとしていた。
「テレビを見て来てくれるのも嬉しいけどさ。私はやっぱり、毎週こうやって顔を合わせてくれるみんなにお弁当を届けたいのよ」
「嬉しいこと言ってくれるねぇ。じゃあ、今日もから揚げ弁当!」
一時、売れ残ったミニサラダを片付けながら、静かになった店内で一息つく。
一過性のブームなんて、私には必要ない。

テレビの画面越しではなく、この街の片隅で、今日も私は生きている。
いつか樹里が大きくなって、風の噂で「あそこのお弁当、美味しいらしいよ」と聞いてやってくるその日まで。私はこの小さな城で、何度でも月曜日の朝を迎える。





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Last updated  2026.05.28 19:18:07
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