"Venus In Blue Jeans(ブルージーン・ビーナス)"という名曲に出逢った1962年、僕は中学1年生だった。 そのころの中学生の男の子なんていうものは、特に地方都市においては、全くおしゃれとは無縁で、たいていは親が与えてくれるものを適当に羽織っているだけだった。 でも、僕は結構変わり者で、小学生の頃から、母親が編んでくれるセーターのデザインに口を挟んだりするような、着る物にうるさいところがあった。そんなファッションにうるさい変な中学生でも、ジーンズは持っていなかった。 今では当たり前のようにどこでも売っている、Levis と Lee のジーンズが、僕の住んでいた地方都市のメンズ・ショップに初めて入荷したのは、僕の記憶が確かなら、この歌が流行った頃から4年もたった1966年のことだった。その店の開店の日に僕が初めて買ったジーンズは、Lee のホワイトジーンで、サイズは26.5インチ!このメーカーの場合多少大きめにできていたようだけれど、それにしても当時の僕は「細い」などというなまやさしいものではなく、単にやせ過ぎだった。値段は1900円ほどで、とても高いものだった。 で、なぜそのときブルージーンを買わなかったかといえば、それまで映画と本の中でしか予備知識の無かったホワイトジーンが、実にかっこよく見えたのと、ベルト通しにもなっている Lee というエンブレムのロゴが気に入ってしまったからだ。 念願かなって初めて Levis のブルージーンを買ったのは、大学生になってからで、何と中古品。上野と浅草の間の田原町にあった古着屋でやっと程度のよいものを見つけたときは、うれしかった。1000円だった。この値段は、新品に比べれば手頃ではあったが、決して安いものではなかった。
さて、"Venus In Blue Jeans (ブルージーン・ビーナス)" だが、僕はご多分に漏れず最初は日本語版で覚えた。佐野修の甘い声が頭に浮かぶので、たぶんパラキン(ダニー飯田とパラダイスキング)が歌っていたと思う。
オリジナルのジミー・クラントンのバージョンは、以前はテープに録ってあったものを聴いていたが、15年ほど前に手に入れた4枚組の CD (The 60's Collection という英国盤) の一番最後に入っていた。この手の寄せ集め盤も、なかなか侮れないものだ。 この曲も数あるオールディーズ・ナンバーの名曲の中に入れてよいと思うのだが、作ったのがあのニール・セダカとハワード・グリーンフィールドのコンビだったと知ったのは、ずいぶん後になってからのことだった。まさにこの二人はゴールデン・コンビだ。 ハワード・グリーンフィールドの少々大げさな表現も、イヤミに感じないのはなぜだろう。この手のポップスの王道を行く恋の歌の場合、むしろこのようなオーバーな言葉遣いは必要不可欠とも言える。いつものように直訳してみたので、その大げさぶりを体験して欲しい。
とにかく「ブルージーンをはいたヴィーナス"Venus In Blue Jeans..."」っていうタイトルからして、大げさだとは思うけど、とってもいい。ブルージーンとヴィーナスという言葉の対比がいいなあ。 「歩いておしゃべりする芸術作品」は、"She's a walkin' talkin' work of art..." で、ジョニー・ティロットソンのPoetry in Motionにも匹敵するほどの美辞麗句だ。「芸術作品」だからね、なにしろ。 もうひとつ、とどめは「天から降りてきた十代の女神 "A teenage goddess from above..."」...。