突然ですが、ファンタジー小説、始めちゃいました

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2009.08.17
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カテゴリ: カテゴリ未分類
 シリウスはその次の日から“木隠れ”の練習に熱中した。 初めのうちはなかなか木の心がつかめなくて、タイミングが合わないために、泥の中に落とされたり、枝に引っかかったりしたが、2,3日やっているうちにだんだん要領がわかってきた。

 それから、木たちと親しくなるにつれて、パンセの言ったとおり、どの木もびっくりするほど敏感にシリウスの気持ちに反応することにも気がついた。 遊び半分でいいかげんに呪文を唱えた時は、たとえば、頭だけしか隠してくれなかったり、隠す途中で中途半端にやめてしまったり、露骨に気乗りしない様子だけれど、たとえば狩人などと鉢合わせしそうになって本気で唱えたような時は、木のほうも真剣そのものだ。 呪文も唱え終わらないうちにすばやく枝を差し伸べ、音も立てず一瞬のうちにシリウスを葉の茂みの奥深くにしまいこんでくれた。 いたずらのときは木も楽しそうだ。 シリウスを隠してしまってからわざととんでもないほうの枝をさわさわ鳴らしてみたり、下できょろきょろシリウスを探しているやつの頭めがけてドングリを落してみたりする。
 野ネズミ軍団司令本部のアカマツや、ねぐらのラベンダーの茂みやムクの木にいたっては、もう、シリウスとの付き合いが長いので、ほとんど呪文を唱える必要もないくらい完璧にシリウスの気持ちを読み取って、最初からもう、手足も同然、思ったとおりの反応をしてくれた。 アカマツの木もずいぶん大きいけれど、シリウスは見張りのためにこの木のてっぺんまで放り上げてもらっても、もう少しも怖くなくなっていた。 いや、むしろ楽しくてたまらないくらいだ。 目もくらむようは高さのアカマツの木のてっぺんから飛び降りることだって平気でできた。 アカマツは必ず、上手にシリウスを受け止めて、またてっぺんに放り投げてくれるからだ。 このスリルにも慣れてしまうと、ぜんぜん知らない木にまで同じことを挑戦した。 どの木も必ず、自分の放り上げた高さからなら、シリウスがどんな無茶な飛び降り方をしても受け止めることができた。
 それにも慣れてしまうと今度は、ムクの木からアカマツへ、一気に飛び移ることを考えついた。 これは、ずいぶん離れているのでなかなかうまくいかなかった。 ムクの木の上で一生懸命アカマツを呼んでも、アカマツはちっとも反応してくれない。 やっぱり遠すぎて無理なのかな、と、あきらめかけたとき、突然、アカマツが、シリウスに向かって、見えない枝を差し伸べてきたのを感じた。 それは、シリウスにはとても届きそうもない距離だったけれども、アカマツが一生懸命枝を伸ばそうとがんばっているのに気づいたとき、シリウスは何も考えずにその見えない枝に向かって飛んだ。 もし枝まで届かなかったら地面に墜落してしまうことなんて、考えもしなかった。 ただ、アカマツがあんなに頑張っている、その一途な気持ちに応えたい一心だった。 そのとき、今度はシリウスの足もとのムクの木が不意に、シリウスの体を、その見えないアカマツの枝に向かって力いっぱい跳ね飛ばした。 アカマツの枝は、吹っ飛んできたシリウスの体を絶妙のタイミングで受け止め、気がつくとシリウスは、ずっと向こうに少しだけ見えているムクの木から、今立っているアカマツの高い木の梢まで、一瞬のうちに移動していた。 シリウスは感動してアカマツのざらざらした木の幹に、何度も何度も頬ずりした。 アカマツも嬉しそうに、全部の枝を一斉にさわさわと鳴らして応えてくれた。 こうして危険な空中ブランコは成功し、次からは、シリウスもアカマツもムクの木もすっかりこのやり方を気に入って、キャッチボールみたいに気楽にこの芸当を楽しむようになった。
 もっともこんな離れ業ができるのは、アカマツとムクの木だけだ。 そのほかの木では、いくら仲良しでもこれほど気楽に命を預けることはできない。 でも、どの木も、自分の高さくらいの距離なら確実にシリウスを捕まえてくれた。 
 こうして練習を重ねているうちに、シリウスは、ラベンダーから、はるかなモミの木の森まで、“木隠れ”で身を隠しながら誰にも見つからずに20分たらずで行って帰って来られるようになった。
 これができるようになると、シリウスの行動範囲は一気に広がった。 広いモミの木の森をさらに東に、どこまでも進んでいくとその果てには高い山がそびえていることも知ったし、いちごの原の向こうの果樹園を抜けてどんどん北に進んでいけば、その先には果てしなく明るい草原が、どこまでも広がっていることも知った。 また、泉から流れ出す小川に沿って南に下っていくと、森はますます深くなって、見たこともないような奇妙な木や草ばかりが生い茂る、気味の悪い密林になってしまうことも知った。
 でも、それ以上のことはシリウスにもわからない。 東の高い山は岩だらけで、“木隠れ”で助けてくれるような大きな木はないし、西の草原は短い草ばかりでシリウスを運ぶことはできない。 南の密林は、入り込むとまもなく深い断崖絶壁に遮られ、崖の下にぼんやり煙って見える深い緑の森まではあまりにも遠すぎて、到底“木隠れ”できる距離じゃなかったからだ。

 『街』だ。
 リュキアの街は、アカマツの木から北に向かって、狩場を抜けたその先にあるという。 距離的には、泉から村へ行くのとたいして変わらないというから、すぐ近くなんだけれども、そしてそこには、シリウスの憧れの的、リュキア軍の、本物の指令本部もあるはずなんだけれど、正直なところ、自分を守ってくれる木も草もない街へ、たった一人で乗り込んでゆく勇気は、シリウスにもまだなかった。
 もう少し大きくなったら、樫の木の棒じゃない本物の剣を手に入れて、魔法ももっとたくさん使えるようになって、そうしたらきっとリュキアの街へ行こう、と、シリウスは考えている。
 そしてリュキア軍に入って、『リシャーナの戦士』になるんだ、と。





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最終更新日  2009.08.17 17:59:59
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