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思わず目を閉じたたまこに、ミケの叱責が飛んだ。
「目をそらしてはなりません! 思い出してください、珠子お嬢さま、あの冷たい雨の日、お嬢さまが子猫のわたくしにかけてくださった、慈悲のお心を。 わが身を忘れて汚い子猫に手を差し伸べてくださった、あの一途なお気持ちこそ、崇高な愛の心なのです。 一度はこれを疑い、無明の道に踏み出しかけたわたくしが、お嬢さまのたしかな手のぬくもりを思い出し、今一度あのあたたかい優しいお手に触れたいと、その一心から、我を取り戻すことができたのもまた、強く熱い、愛の力。 愛こそが、希望を、喜びを、勇気を生み出し、あの魔物のゆがんだ憎しみを絶つ力となるのです。 それが、あの魔物を救うことにもなるのですよ。 さあ、あの雨の日、ミケのために勇気を奮って、心を砕いて、お母さまを一生懸命説得してくださった、あの珠子お嬢さまに、今、もう一度戻って、今度はあの黒い子猫を救ってください! 珠子お嬢さまとわたくしとの強い愛の槍をもって、あの魔物の体を覆う、憎しみの鎧を打ち砕くのです!」
ミケの確かなぬくもりが、ぴったりと自分に寄り添っているのが感じられた。
そのぬくもりを通して、たまこのために命を懸けて、たった一人、この怖ろしい魔物の巣窟に乗り込んできてくれたミケの、強い、深い愛情が、ひしひしと伝わってきた。
思えば、これまで、珠子の足もとには必ずミケがいてくれた。
一見とりすましたその瞳の奥には必ず、深い、あたたかい光が宿っていて、気がつけばいつも、母猫のように珠子を見守ってくれていた。
――― ああ、あたし、こんなにも、長く、深く、ミケに愛されていた。
いまさらのようにそのことをさとると、珠子の中にも、これまでには感じたことのない、深い、あたたかい思いがこみ上げてきた。
ミケが愛しくて、その存在が、かけがえのない大きな、大切なものに見えてきた。
この手でミケを守りたい、そのためなら何でもできる!
そう思ったら、怖いものなんか何もなくなった。