音楽日記 ~ロックやジャズの名盤・名曲の紹介とその他の独り言~

音楽日記 ~ロックやジャズの名盤・名曲の紹介とその他の独り言~

2011年03月01日
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テーマ: Jazz(2004)
カテゴリ: ジャズ




 この時期のマイルス・デイヴィスのライブ演奏盤として有名なのは、 『フォア&モア』 『マイ・ファニー・バレンタイン』 の二部作で、これらは同じライブ演奏の音源を一定のコンセプトに沿って2つに分けてアルバム化したものである。つまり、前者には躍動感ある楽曲群を集め、後者には、よりおとなしめのバラード曲などを配置したというものだ。これら2枚は数あるマイルスの実況盤の中でも名盤として知られ、実際にそれぞれが見事な演奏を収録している。けれども、見方を変えれば、コンセプトにそった選曲という要素が濃く、その結果、各々の盤の曲の傾向に偏りがある。これに対し、本盤『マイルス・イン・トーキョー(Miles In Tokyo)』(演奏は1964年だが、レコード化されたのは1969年)は、この頃のマイルスのライブ演奏がより自然な雰囲気に近い形で再現されたものであり、そのバランス感ゆえに、筆者にとってはたまに聴きたくなるアルバムとなっている。

 本盤の欠点としてよく指摘されることとして二点ある。一つはサム・リヴァースの参加である。サム・リヴァースというテナー・サックス奏者は、ドラムのトニー・ウィリアムスの推薦でクインテットに迎えられた。ところが、マイルスが本当にメンバーに迎え入れたかったのはウエイン・ショーターであった。この演奏からの帰国後のマイルスには、ショーターの移籍OKとの返事が待ち受けており、結果的に、サム・リヴァースはわずか1カ月ほどでこのクインテットを去ることになる。確かにこの当時のマイルスが目指していた音楽にはマッチしない人選だったということなのだろう。

 もう一つ本盤が時として非難を浴びるのは、マイルスの演奏そのものである。アドリブがアドリブなのか、はたまたルーティーン化したいつものフレーズとなっているのかよくわからないような演奏だと言われる。マイルスを神格化する人の中には、“安定を嫌う”、“常に進化を目指す”という風に言う人もいるけれども、個人的には、混乱の中から新たなものはそう簡単に生まれてこないように思う。安定、つまりはある種の定式化が一定レベル存在して初めて進化が生まれる。その意味で、、マイルスのパターン化されたアドリブはそうした“安定”の一端だったのかもしれないように感じる。

 実際、この演奏を聴いてみると、サム・リヴァースがしばしば“はみ出している”。ピアノのハービー・ハンコックなどはその“はみ出し具合”につられている場面もあるのだけれど、マイルスの方はいたってマイペースで、やはり上記のように安定した中でどんな新たなものをクリエートしていくかを見据えていたのではないかと感じる。こう考えながら、本盤の演奏を聴くと、マイルスが(無論いい意味で)“手を抜いて”パターン化された演奏をしている部分と、ここぞとばかりに狙い撃ちやたたみかける効果的演奏をやっている場面とがあることがわかる。そして、その“狙い”の部分のマイルスの演奏は滅法カッコよく、繰り返し聴いてもぞくぞくさせてくれるものだ。

 いずれにせよ、1964年はマイルスのライブ演奏が冴えわたっていた時期だった。それは、ライブの中でこそ次の進化が生まれてくるという確信に基づいていたのだろう。そうした“安定の中での進歩”という概念は、毛色の違うサム・リヴァースすら飲み込んでしまうものだった。アップテンポありスロウあり、静けさもあれば豪快さもある、バランスのとれたライブ盤で、巷の評だけでスルーしてしまうのはもったいない1枚だと思う。




[収録曲]


2. My Funny Valentine
3. So What
4. Walkin’
5. All Of You


[パーソネル・録音]

Miles Davis (tp)
Sam Rivers (ts)
Herbie Hancock (p)
Ron Carter (b)
Tony Williams (ds)

1964年7月14日、新宿厚生年金会館でのライブ録音。






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