そんなことを念頭に置きながら、本盤『イン・ア・センチメンタル・ムード(In A Sentimental Mood)』を聴けば、多くのリスナーは合点がいくのではないだろうか。ドクター・ジョンは60年代末に音楽シーンに登場してからしばらくは、ヴードゥー教文化やサイケな部分などの特異性に注目が集まっていたかもしれないけれど、じつはとっても“ニュー・オーリンズなミュージシャン”だった。そもそもR&Bのバックグラウンドがあることは、当時の作品からも容易にわかる。けれども、それと同時に、ジャズ・スタンダードをジャズ・スタンダードらしく表現するのに何ら特別な苦労をしなくてよいらしい、というのが本盤を聴けばよくわかる。何よりこの歌は、ごく自然な“ジャズ・ヴォーカル”なのである。