書評日記  パペッティア通信

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Mar 2, 2005
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カテゴリ: 経済



世の中には、概説書・入門書という領域がある。

実は、概説書というものは読んだからといって対象について分かるようになることは金輪際ない。というか、専門はそんなに甘くない。専門家になったあと、専門家になる前に読んでいた対象の概説書を読みなおしてみると、それまでその本に抱いていた印象が一変していることがよくある。要するに、本当は概説書がなにを言わんとしていたのか、入門段階の学力ではまるっきり分からなかったのだ。しかし、概説書を読む段階では、自分の学力では本当は理解できていないことなんかは分からない。ほどほど、分かった気にはさせてくれて、後味がよいこと、これが大切なのだ。そうしたお手軽な知をあたえてくれる概説書・入門書の存在は大変に貴重である

本書は、その意味で概説・入門書の類としてはおそろしく目配りがいきとどいた本である。貨幣史からはじまって、西洋金融史のおさらいがはじまる。イングランド銀行と引受信用を軸とした国際金本位制の確立から、やがてFRB連邦準備制度理事会とドル体制に象徴されるアメリカへの金融覇権への移行。ドル体制の動揺と変動為替制度への移行。そしてスムーズに、スワップやオプションといったあたらしい金融技術の登場がつむがれていく。そして人民元と日本円の行く末と、日本のすすむべき道をさりげなくしめしつつ、本書はおわる。しかも19世紀から20世紀にかけての、国際的信用制度に関するさまざまな細かい変容をまったく解説しないで、さらさらと筆をすすめてゆくのだ。ポイントは押さえられてあるから、みんなそんなもんかと思ってしまうだろう。いやはや、筆力というのはおそろしい。

むろん嫌みで言っているのではない。近年、ネオコンとかネオリベラリズムといった用語で、一知半解な日本経済や世界経済を議論する浅薄な輩がいかに多いことか。「世界がわかる」ことを謳ったこの本には、ネオコンやネオリベラリズムなどという、「はやり」言葉はまったく出てこない。当たり前である。近年のグローバリズムとは、ハイエクやフリードマンに代表される経済学における保守主義、すなわち市場を重視して「政府の失敗」をとりたてて問題にしていく思潮の結果あらわれた現象にすぎない。実は、日本ではほとんど経済学における保守主義などまともな形で実現してはいない。郵政民営化にしても、構造改革路線にしても、やってることといえば、そうした市場重視とはとても思えないものとなっているのが現状である。若年労働力をめぐる様々な問題は、日銀のマクロ政策運営の誤りに起因するものであって、ネオリベ路線などではまったくない。ネオリベやネオコンといった概念で、経済や社会をとらえようとする愚かしさよ。マル経が悲しいまでに凋落して以降、だれも金融史を語らなくなっていることからくる、吟味されないいかがわしい議論の横行。

近年、歴史に目をむけた、さまざまな良質の経済書が上梓されつつあるが、ジャーナリズムとアカデミズムの悲惨な乖離は埋められているとはいいがたいものがある。この書は、最新の金融技術とは「リスク」を適切に配分し設計しようとするものなのだ、というポイントを的確におさえつつ、グローバリズム恐怖症を駆り立てるような煽りを一切廃して、現在すすみつつある金融革命についての風通しのよい議論を展開する。金融史でこれをやるのは並大抵の力量ではない。なぜなら、マルクスの亡霊がもっとも宿りやすい分野のひとつだからである。

専門性を失ってはならないけど、専門性に埋没してしまえば、こんどは世の中に伝わらない。世の中で難しいことを分かりやすく書くくらい難しいことはない。これを良く分からせてくれる一冊である。

価格: ¥756 (税込)
評価 ★★★★

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Last updated  Nov 4, 2006 03:00:26 PM
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