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ゴールドマン・サックスにとって都合の悪い事実が公表された。ヘッジファンドを動かすポールソン社と値下がりが予想された抵当関連商品を作り出し、正確な情報を示さずに販売したと批判されている同社だが、それだけでなく、値下がりを予想して空売りしていたというのである。サブプライム・ローン絡みの商品相場が実際に暴落したことで、ゴールドマン・サックスが儲けていたという。要するにタチの悪い「呑み行為」である。 アメリカのカジノ経済はジョージ・W・ブッシュが大統領に就任した段階で破綻状態になっていた。その象徴的な出来事がエンロンの破産なのだが、その年の9月に航空機による突入攻撃があり、「戦争」という麻薬で人々は経済破綻をしばらくの間、忘れていた。 イラク攻撃は石油供給への不安を引き起こしたが、これをチャンスだと考えたのが投機資金で、石油相場は暴騰している。もっとも、永遠に上がり続ける相場はない。資金の流入が細れば相場は天井を打って反転するのが道理である。 規制緩和と民営化が叫ばれたアメリカでは、労働者に適切な対価を支払わないシステムが広がり、その代わり庶民に借金させて不動産を買わせるという仕組みが作られていた。不動産相場が上昇し続ければ担保価値が膨らみ、購買力が増すという一種の「マルチ商法」なのだが、これがアメリカの経済政策だったから驚く。 上がり続ける相場はありえない。不動産相場も同じことで、必ず下がる。下がれば借金で不動産を購入した庶民は破綻してしまうわけで、サブプライム・ローンも崩壊する。その崩壊が始まっていることをゴールドマン・サックスもわかっていたはず。だからこそ空売りしたわけだ。 相場が天井を打って値下がりが見通されるとき、確実に儲ける方法がある。自分で暴落の引き金を引くのだ。事前に周囲が気づいていなければ、それだけ儲けは大きくなる。 こうした手法は日本でも珍しくはなかった。大手企業が倒産する前、メイン・バンクが保有していた株券が市場に出てきたことがあると、某相場師から聞いたことがある。証券会社はその会社を「買い」だと宣伝し、値上がりするという噂を流していたのだが、その相場師は株券を見た瞬間に空売りし、大儲けしたという。1980年代になると、さすがに銀行は現物を売ることはなくなり、空売りしていた。 どこまでSEC(証券取引委員会)や議会がゴールドマン・サックスなど金融機関の強欲な「ビジネス」にメスを入れるのかは不明だが、マーケットは不安だろう。徹底的に調べ上げたなら、金融システムどころか、資本主義経済が崩壊するかもしれない。それほど、問題の根は深い。
2010.04.25
ここにきてアメリカが開発した2種類の「飛行兵器」が話題になっている。ひとつは22日に米国フロリダ州のケープカナベラル空軍基地からアトラスVロケットで打ち上げられた「無人シャトル」の「X-37B」であり、もうひとつは発射実験の準備が進んでいる超音速ミサイル「X-51」である。いずれもボーイング社が開発した。 X-37Bは1999年にNASA(航空宇宙局)のプロジェクトとしてスタート、後に空軍が引き継いだ。NASAは軍や情報機関が隠れ蓑に使ってきた組織であり、当初から空軍のプロジェクトだった可能性が高いだろう。要するに、目眩ましのためにNASAを使ったということ。今のところ、X-37Bの目的は公表されていないが、スパイ衛星の軌道への放出、あるいは何らかの宇宙兵器を組み立てるための部品運搬などに使われる可能性はある。 X-51(ウェーブライダー)は超音速のミサイル。爆撃機B-52で高度5万フィートの上空まで運び、発射されるとマッハ6とか7で飛行すると言われている。この兵器は前政権、ドナルド・ラムズフェルド国防長官の下で開発され、地球上のどこであろうと、1時間以内に攻撃することを目標にしていたのだが、その危険性から議会の抵抗にあっていた。 通常の弾頭を搭載した「テロ対策」の兵器だとされているが、アメリカ本土からイランや朝鮮を攻撃しようとすると、ロシアや中国の上空を飛行することになり、両国を核攻撃するために発射されたミサイルと区別はつかず、核戦争の引き金になりかねないと多くの人が懸念したのである。 バラク・オバマ政権は火星へ人間を送り込むというようなことも言っているが、要するにミサイル産業を儲けさせるということ。当然、ロシアも中国も反発するだろうが、それでも巨大企業が多額の投資をして開発した兵器を葬り去ることはできないのだろう。戦争ビジネスはアメリカの基幹産業だ。 日本ではオバマ政権が核兵器の削減に前向きであるかのように言われているようだが、その一方で「第三次世界大戦」を誘発しかねない兵器の開発を続け、核兵器と密接な関係にある原発の建設にも反対していない。二酸化炭素を削減するために原発は有効だとする妄想を抱いている人もいるようだが、事故の危険性を考慮しなくても、核廃棄物の処理や保管に必要な膨大なコスト、エネルギーを考えれば削減になどならない。 前回の大統領選挙でオバマは最もネオコンの影響を受けていない候補だったが、権力者から自由だというわけではない。強欲な権力者と立ち向かう哲学も度胸もなさそうなのは残念だ。
2010.04.24
先月26日、韓国海軍の哨戒艇が沈没して46名が死亡するという出来事があった。当初から朝鮮軍に攻撃されたとする噂が流れていたが、22日に韓国では、軍情報部が事件直後、大統領官邸に対して朝鮮軍の「人間魚雷」による攻撃だと報告していたと報道されている。 韓国と朝鮮との間には「国境」が確定していない海域が存在してるのだが、そうした場所で昨年11月、韓国軍の艦船が朝鮮軍の艦船を撃沈している。朝鮮側は国籍不明の艦船を調査して戻ろうとしているときに攻撃されたのであり、国境線は越えていないと主張、韓国側に謝罪を求めていた。 韓国側も朝鮮に対して謝罪を求めていたが、両国が主張する国境線が違う以上、この非難合戦は延々と続くしかない。実は、昨年10月の段階で朝鮮側は韓国の艦船が1日に10回も領海を侵犯していると非難していた。軍事的な緊張が高まることを防ぎたいなら、両国の艦船が問題の海域に入らないようにするしかない。 韓国などでの報道によると、朝鮮が昨年11月の報復攻撃を計画していると韓国の軍情報機関は考え、海軍に対し、今年の初めには警告していたという。現段階では朝鮮軍が攻撃したとする証拠は出ていないようだが、もし北側からの攻撃だったとしても、昨年来の行動や警告に対する対応など、韓国海軍の責任が問われる可能性はある。 勿論、単純に昨年11月の報復ということも考えられるのだが、朝鮮半島の軍事的な緊張を高めたいと考える人たちがいることも確かで、現段階では事件について断定的に語ることはできない。 軍事的な緊張を高めたいと願っている人として、先ず挙げられているのが金正日。朝鮮では経済的な苦境で国民の不満が高まっているようだが、こうした不満を解消する手段として軍事的な緊張、場合によっては限定的な戦闘を願っているというものだ。 ジョージ・W・ブッシュ政権がスタートした直後、「新保守(ネオコン)」が「第二次朝鮮戦争」を計画していたことも確かなようだ。これは「旧保守」が阻止したようだが、現在でも新保守が戦争を願っている可能性はある。新保守と同盟関係にあるイスラエルが国際的に孤立しつつある現在、朝鮮半島で戦争が起こることは悪くないはずだ。「潜在的ライバル」の東アジアを破壊する切っ掛け、あるいは旧保守に対する恫喝にもなりえる。 日本では朝鮮をアメリカや日本と敵対関係にある国だと単純に描いているが、1980年代にイスラエルへ大量の「カチューシャ・ロケット弾」を売却、1990年代には統一協会から多額の資金を得ている。「孤立した国」だという思い込みは危険だ。今回も日本人が想像できないような国、あるいは勢力と朝鮮の政府、あるいは一部勢力が手を組んでいる可能性もある。
2010.04.23
サブプライム・ローン不動産投資の売買に絡んで違法行為があったとして、アメリカのSEC(証券取引委員会)は16日、ゴールドマン・サックスと重役のフェイビリス・トゥーレを証券詐欺の容疑で訴追したと発表した。トゥーレがゴールドマン・サックスのニューヨーク支社に勤務していた際、同社の大口顧客で巨大ヘッジファンドを動かしていたポールソン社と共謀し、高リスクのローンを組み込んだ商品を作り上げ、顧客に正しい情報を提供せず2007年に販売、10億ドル以上の損害を与えたというのである。被害を受けたとされている顧客には、IKB(ドイツの銀行)、ACAキャピタル・マネージメント、あるいはABNアムロ(オランダの銀行で、2007年にRBSが買収)などが含まれている。 ちなみに、ポールソン社のオーナーであるジョン・ポールソンとヘンリー・ポールソン前財務長官とは無関係だというが、この前長官がゴールドマン・サックスのCEO(最高経営責任者)だったことも確かだ。今回の事件をサブプライム・ローン問題ととらえると、「ヘンリー」も無関係とは言えない。 ヘンリー・ポールソンは郵政民営化に深く関与していることも知られている。2002年12月、小泉純一郎内閣の時代だが、この時に竹中平蔵や三井住友銀行出身の西川善文とポールソンは会っている。この会合にはゴールドマン・サックスのCOO(最高業務執行責任者)を務めていたジョン・セインも参加、このあとに「郵政民営化」の動きが本格的に始まっている。 セインはその後、メリルリンチ、つまり「かんぽの宿」の売却にからむアドバイザーに選ばれた証券会社のCEOになった。サブプライム・ローンの破綻でリーマン・ブラザーズが倒産した際、セインは不適切な行動の責任を取らされて追放されている。 今回、SECがゴールドマン・サックスの「ビジネス」にメスを入れようとしている背景には、投機集団を規制しないと社会システムも経済システムも崩壊するという危機感があるかもしれない。博奕で「濡れ手で粟」の金儲けをしたあげく、穴を開けたら庶民から金を巻き上げるという「ビジネス・スタイル」に対する批判は強烈だ。 投機業界としても、ボロ儲けの仕組みを壊されたくないわけで、ゴールドマン・サックスを全面支援することになるだろう。万一、今回の訴追が単なる「ガス抜き」の意味しかないなら、強烈な怒りが西ヨーロッパやアメリカの庶民層から湧き起こってくる可能性がある。 こうした中、アメリカでは「ティー・パーティ(茶会)」を名乗る集団が今年2月頃から活動を活発化させ、「大きい政府」に反対し、バラク・オバマ大統領を激しく批判している。このグループが2月に開いた集会には、イスラエルの国旗を知事室に掲げていたことでも知られているサラ・ペイリン前アラスカ州知事が演説、つまり現代版の「ティー・パーティー」はキリスト教原理主義と深く結びついていることも示唆している。 この集団が掲げているプラカードには「銃弾で投票する」「議会を燃やせ」「9/11は内部犯行」といったことも書かれているが、ゴールドマン・サックスをはじめとする巨大金融機関やヘッジ・ファンドに対して社会的な義務を果たせとは言わないようだ。「大きな政府」はだめだが、「大きな企業」はOKということで、ゴールドマン・サックスの行動も容認できるという立場なのだろう。 ともかく、世界的に見ると投機をめぐる激しい闘いが展開されつつあるのだが、日本では支配層の「遣らずぶったくり」を批判する声は弱い。
2010.04.18
常習犯罪者になるであろう未成年者を「予言」するIBMのコンピュータ・システムを、米国フロリダ州の司法当局は導入するのだという。犯罪を生み出す環境を改善するのではなく、犯罪へ向かうであろう未成年者を「予防更正」させて「安全な社会」を築くのだという。この報道に接し、映画「マイノリティ・レポート」を連想した人も少なくないだろう。予防拘禁と同じ発想であり、戦前の思想警察/検察にもつながる考え方だ。 言うまでもなく、犯罪を生み出す最大の要因は「貧困」である。貧困層は特定の地域に住む傾向があり、そうした地域では教育も破綻している。アメリカの場合は特にひどい状況だ。そのため、読み書きのできない子どもが少なくない。そもそも職に就くことが困難な中、読み書きができなければ働き口を見つけることは一層困難になり、生きるために窃盗、強盗、麻薬などの犯罪に手を染めることにもなりかねない。 貧困問題を解決するためには、まず失業問題を解決する必要がある。巨大企業に対して労働者の権利を認めさせ、適切な対価を支払わせることが第一歩だ。当然、劣悪な条件での労働が容認されている国へ労働拠点を移して儲けるという経営も許してはならない。 勿論、それでも不公正な関係をなくすことは不可能なわけで、政府はそうした不公正な関係を是正する義務が生じる。マーケットに公正さを求めることは無理な相談であり、別の手段を考えなければならない。マーケットには公正な競争も「神の見えざる手」も存在せず、「自由競争」とは優位な立場にある少数の人間が利益を独り占めすることにすぎない。利己的な行為は利己的な結果しか生まない。庶民が社会的強者を監視するシステムがどうしても必要だということだ。そのシステムとして考え出されたのが民主主義。支配層がこのシステムを「衆愚主義」と名づけて批判するのは、ある意味、必然的なことだ。 富の偏在を是正する第一歩は税制の改革だろう。濡れ手で粟の大儲けをしている大企業の法人税を引き上げ、所得税の累進率を高め、社会保障のコストを負担させることも必要だ。貧富の差なく子どもたちに等しく教育の機会を与えることも重要である。 教育環境に貧富の差があることは指摘されているが、日本の場合、一般入試で入学する学生の比率が下がっていることもあり、実力ではなく出身高校によって優位不利が明確になりつつあるようだ。入試システムの変更もあり、高校3年は受験対策に当てるカリキュラムを組みやすい中高一貫校の人気が高まり、小学校に入試の山ができた。こうした状況に対応できるのは、比較的裕福な家庭だけだろう。 ようするに、犯罪を減らしたいならば、巨大企業の「遣らずぶったくり経営」を規制して、教育の機会均等を実現することが必要になるのだが、そうした政策を無教養なエリートは好まない。そこで、アメリカでは事実上、貧困を犯罪にした。微罪で刑務所に叩き込むということだ。ついでに刑務所を民営化し、ビジネス・チャンスを増やした。刑務所の経費は税金。庶民増税で対応すれば、富裕層は困らない。 イギリスの都会が監視カメラで溢れていることは有名だが、アメリカも監視システムの導入に熱心である。1950年代からFBIはCOINTELPROと名づけられたシステムで戦争に反対する人々を監視、1967年にはCIAが同じ目的で、MHケイアスという監視プログラムを始動させ、NSAはECHELONで地球上の人間全てを監視しようとしている。その後もさまざまな監視システムが開発され、導入されようとしている。日本も例外ではない。そうした流れをリードしてきたひとりが原田明夫元検事総長だということは、本コラムで何回も指摘してきた。 「テロ」であろうと「犯罪」であろうと、支配層が本当に監視したい対象は自分たちに都合の悪い人々、つまり「テロリスト」や「犯罪者」ではなく、労働者の利益を代弁したり、戦争に反対する人々だ。フロリダ州が導入するというIBMのSPSS分析システムも結局は、そうした目的で使われることになるだろう。
2010.04.16
アメリカのバラク・オバマ大統領やベン・バーナンキFRB議長は中国に対し、人民元は過小評価されていると主張、通貨の切り上げを要求している。1980年代に日本が攻撃されたのと似た構図だ。 アメリカを拠点とする巨大企業、あるいは莫大な資金を集めている「投機ファンド」の行動を規制しないかぎり、アメリカ経済の衰退は止まらないのだが、そうした企業やファンドを金づる、あるいは将来の金づるにしている政治家や官僚たちに対し、そうしたことを期待するのは無理だ。 1980年代、つまりロナルド・レーガン政権は日本経済の基盤は優秀な中小企業群にあると考えて「ケイレツ」を問題にし、1985年9月にはニューヨークのプラザ・ホテルで開かれた「先進5カ国」の蔵相/中央銀行総裁会議、いわゆるG5でドル安/円高の方向を決めている。 為替に関心のある人なら、こうした「ドル安/円高」の流れを予測していた。金融機関は勿論であり、アメリカの財務省証券を買うことのできない環境だった。証券の相場が下がらなくてもドル相場が下がれば、円で計算すれば値下がりすることになるからである。 しかし、日本がカネを出さなければアメリカ経済は破綻する。そこで銀行から「値下がり確実な商品」を押しつけられたのが日本航空。「超長期先物予約」で大量のドルを抱え込んだのだ。この取り引きが同社の経営破綻の一因になっている。1985年8月、日本航空の旅客機が墜落しているのだが、この年は日本航空にとって悪夢のような年だったといえるだろう。 レーガン政権は経済の「カジノ化」を促進し、表面的な繁栄は実現したものの、経済の足腰はますます弱まっていく。そして、同じ道を日本も歩んでいった。1986年にシンガポールで「日経平均先物取引」が始まるのだが、この出来事は日本人を博奕の世界へ引きずり込む第一歩だ。 実は、すでに1982年頃から日本では投機資金が動き始め、「誠備事件」や「投資ジャーナル事件」、商品取引では「豊田商事事件」などが起こっている。こうしたアンダーグランドの世界へ日本の大手企業が本格的に足を踏み入れていくのも同じ頃だ。 マスコミが「バブル」だと騒ぎ始めた頃、株式相場は天井が視野に入っていた。そして1989年の終わりにピークを迎え、翌年に大暴落する。この出来事を切っ掛けにして証券界や銀行の不正が発覚するのだが、発覚した事件の裏に隠された闇に光が当てられることはなかった。証券会社や銀行といった博奕の参加者を助けるため、日本の中小企業が壊滅的な打撃を受け、庶民の地獄がはじまり、日本社会の衰退が加速度的に進んだ。 ジョージ・W・ブッシュ政権も経済の「カジノ化」を推進し、戦争で大企業や巨大投機ファンドを儲けさせたが、アメリカという国は崩壊寸前である。カジノの行き詰まりで破綻した銀行や保険会社を税金で救った。救ったといっても問題が巧妙に隠されただけの話で、結局のところ、そのつけは庶民に回される。 日本でも、富豪や大企業への増税は議論されず、庶民に負担の重い消費税の税率アップばかりが話題になるのは象徴的だが、アメリカの庶民は日本人ほど「お人好し」ではなさそうだ。金融機関への批判は根強い。中国を問題にしても批判は弱まらない可能性が高い。中国もアメリカの攻撃で潰れるほど「ヤワ」ではないだろう。
2010.04.15
アフガニスタンのハーミド・カルザイ大統領は、アメリカ政府が作り上げた「傀儡」のはずだった。何しろ、カルザイはアメリカ系の石油会社UNOCALの顧問だったとされる人物(本人と会社側は全面否定しているが)で、米石油産業の代理人だと考えられていたのである。そのカルザイが自立する姿勢を見せ始めた。その背景には勿論、アメリカ軍による住民虐殺がある。WikiLeaksが暴露したような出来事はアフガニスタンやイラクで頻発しているわけで、日本のマスコミが沈黙しても、WikiLeaksを沈黙させても本質的な解決にはならない。 実は、タリバーンの誕生にもアメリカ政府は関係している。ソ連軍が撤退して無政府状態になっていたアフガニスタンを安定化させるため、1994年にISI(パキスタンの情報機関)とCIAが事実上、組織したのである。ソ連の消滅で「空白状態」になったカスピ海周辺の油田地帯を欧米の巨大企業が目をつけ、進出しようとしていたことと無関係ではない。ジョージ・W・ブッシュ政権で大統領補佐官を務めたコンドリーザ・ライスはこの地域に詳しい学者で、1990年代の初頭にシェブロンが雇っている。 1996年にタリバーンは首都カブールを制圧しているが、イスラム諸国内では、その残虐性から人気はなく、むしろアメリカのエリートたちが擁護していた。例えばCFR(外交問題評議会)のバーネット・ルビンやRAND研究所のザルマイ・ハリルザドはタリバーンと「イスラム過激派」とは関係ないと強調している。リチャード・ヘルムズ元CIA長官の義理の姪、ライリ・ヘルムズがタリバーンのロビイストだったことは有名だ。 ところが、タリバーンは実権を握るとアメリカとの距離をおくようになる。そして、トルクメニスタンからのパイプライン敷設計画ではUNOCALでなく、アルゼンチンのブリダスを選んでしまったのだ。タリバーンとアメリカとの関係が悪化していくのは必然だった。 2001年10月、アメリカ政府はアフガニスタンを先制攻撃する。その前の月にウォール街の超高層ビルに航空機が突入し、国防総省も攻撃されるという衝撃的な出来事があったのだが、ブッシュ政権はすぐに「アル・カイダ」が実行したと断定、そのアル・カイダを匿っているという口実で攻撃したわけである。 すぐにタリバーン政権は崩壊した、と言うより戦術的な理由から首都を撤退した。近代兵器で武装した軍隊と真正面から「正規戦」を挑むのは愚の骨頂。この政権崩壊を「アメリカの勝利」と勘違いした人もいるようだが。 そしてUNOCALの顧問を務めていたというカルザイが登場するのだが、タリバーンは戦術的な理由から首都を撤退したわけで、首都を離れればアメリカ軍が支配できていない状態。つまり、カルザイ政権の影響下にはなかった。当初、カルザイの周辺はアメリカ軍の特殊部隊が警護していたが、後にアメリカの傭兵会社が引き継ぐことになる。この時からアメリカの戦争ビジネスは急拡大していく。 ところが、アメリカ/NATO軍の民間人虐殺はカルザイを「敵」にしつつある。大統領である以上、アフガニスタン国民の怒りを無視するわけにはいかない。アフガニスタン政府とタリバーンとの和平交渉をアメリカ軍が妨害していることもカルザイ大統領を怒らせているようだ。病院で子どもの犠牲者を見舞ったときにカルザイ大統領は、本当に怒っていたともいう。アメリカの「傀儡」だったはずの男が自分を操る糸を切りつつあると言う人もいる。カルザイの場合、日本のエリートたちとは違い、いつまでもアメリカの「傀儡」でいるつもりはないようだ。 ロバート・ゲーツ米国防長官はWikiLeaksのビデオ公開を「無責任」だと非難しているが、無責任なのはアフガニスタンやイラクに住む普通の人々をハンティングのように殺しているアメリカ軍である。傭兵たちは、このアメリカ兵よりも残虐なことをしているとも言われるだけに、イラクやアフガニスタンの状況が改善される見込みは薄い。アメリカの巨大企業や投機家は大儲けしているのだろうが、戦争がアメリカという国を疲弊させ、崩壊させる日が近づいている。
2010.04.14
アフガニスタンの南部で11日、NATO軍が民間人のバスを銃撃し、少なくとも4名の客が殺され、18名が負傷するという事件を起こした。アフガニスタンでNATO/アメリカ軍が続けている市民虐殺の一コマと言えばそれまでだが、このようなことを繰り返していては市民から信頼されるはずはなく、タリバーンに勝利できるはずもない。占領軍が地元のレジスタンスに苦しむという構図が、ますます明確になってきた。 昨年5月にファラ州でアメリカ軍のFー18やB1が500ポンド爆弾や2000ポンド爆弾で空爆し、多くの市民を殺害するという出来事があった。ハミド・カルザイ政権は147名、アメリカ軍は26名、別の調査では86名が犠牲になったとしている。当初、アメリカ軍はタリバーンが殺害したとしていたが、途中で隠しきれないとあきらめたのか、26名の市民を殺したと主張を変えている。 このときの様子を撮影した映像を「内部告発サイト」のWikiLeaksが公開する準備を進めていると報道されている。まだフィルムは公開されていないが、タリバーンとの戦闘に巻き込まれたとするアメリカ軍側の弁明と違い、戦闘はなく、普通に道を歩いている人々に攻撃を加えたことがわかるという。 こうした話が出ると、「戦争とはそういうものだ」と利いた風な言い方をする人たちが現れる。確かに、戦争にはそうした虐殺がつきものだが、だからこそ、戦争に反対しなければならない。「戦争とはそういうものだ」と開き直る人の多くは戦争に反対しない。人殺しに文句を言うなということだろう。 人を殺すことを肯定するならば、人に殺されることも受け入れなければならず、2001年9月11日の航空機などによる攻撃をとやかく言うべきではない、ということになる。この攻撃を誰が計画し、実行したのかは明確でないが、誰がやったにしろ、殺人を肯定するならば、自分が殺人の被害者になることも肯定しなければならない。 日本にしろ、アメリカにしろ、ヨーロッパにしろ、少なくとも恒常的な戦場ではない場所で生活している人々の中には、アメリカ軍が「テロリスト」と戦争していると思っている人がいる。少なからぬ人がそうしたシナリオを望んでいる。そうしたシナリオを広めるため、政治家を手なずけ、メディアにカネを払い、「ジャーナリスト」も雇ってきたはずだ。そうしたシナリオを崩壊させるような情報を広められることを権力者は許さない。実際、WikiLeaksは当局の監視下にあり、ボランティアのひとりは警察に21時間、拘留されたという。
2010.04.12
東京地裁は9日、「沖縄返還」に関する「密約文書」の開示を「国」に命令する判決を言い渡した。主権者に所属する情報を官僚や政治家が私物化している現状では、画期的な判決だと言えるかもしれない。 密約の存在を初めて明らかにしたのは毎日新聞の記者だった西山太吉だが、情報源の外務省事務官とともに「国家公務員法違反」で有罪判決を受けることになる。裁判の過程でマスコミは検察側が起訴状に書いた「情を通じて」という表現に飛びつき、重大な政治問題を「下ネタ」にすり替えていった。 おそらく、マスコミは政府に「まんまとしてやられた」のではない。権力者と対峙せずにすむ口実を与えられ、喜んで飛びついたのである。そうでなければ、取材方法に問題があるにしても、密約問題を追及する手を緩めるはずはない。権力犯罪を追及する西山記者を内心では不愉快に感じていた記者が少なくなかった・・・そうとしか思えない。現在でもマスコミや出版の世界では、そうした雰囲気が蔓延している。 ところで、沖縄が日本へ「返還」された1972年、ベトナム戦争は最終局面に入っていた。アメリカのヘンリー・キッシンジャーと北ベトナムのレ・ドク・トが和平協定案に仮調印したのは1973年1月のことだ。軍事力でアジアを制圧するというビジョンを放棄するべきだと考える勢力が、アメリカ支配層の内部で発言力を強めた影響があったかもしれない。 当時を振り返ってみると、1968年1月30日のテト(旧正月)攻勢は大きな節目だったと言えるだろう。この攻勢でアメリカ大使館が解放戦線に一時、占拠されたのだが、この様子をアメリカ国民もテレビを通じて「目撃」し、自国の軍隊がインドシナで泥沼から抜け出せず、もがいている実態を知ることになった。リンドン・ジョンソン大統領は追い詰められ、3月31日に次の大統領選挙に出馬しないとテレビ演説で表明、5月13日にはアメリカと北ベトナムは第1回パリ会談を開いている。 この年の11月に行われた大統領選挙で勝利したリチャード・ニクソンは「タカ派」と見られていたが、戦争を軸にした政治経済政策は限界に達したと判断し、「デタント(緊張緩和)」へ舵を切ることになる。1970年にニクソンはカンボジアへの軍事侵攻を承認し、ラオスへの侵攻作戦も決断しているが、これは和平交渉を有利に進める目的があったと言われている。 ともかく、1969年7月にはアメリカ軍の撤退が始まるが、この年の11月に調査ジャーナリストのシーモア・ハーシュが「ソンミ村(ミ・ライ)事件」に関する記事を書き、注目された。ウィリアム・カリー大尉の率いる部隊が前年の3月、ソンミ村で数百名の村民を虐殺したという事件だ。ハーシュの記事より約8カ月前にも報道されているのだが、話題になったのはハーシュの記事だった。 この村民虐殺はCIAとMACV(ベトナム軍事支援司令部)の共同作戦、「フェニックス・プログラム」の一環。1970年にはデイビッド・ミッチェル軍曹がCIAの主導的な役割を明るみに出している。 この秘密作戦が始動した1967年当時、CIA長官はリチャード・ヘルムズ、MACV司令官はウィリアム・ウェストモーランドであり、作戦を立案したのはDEPCORDS(民間工作と革命的開発支援担当のMACV副官)だったロバート・コマー。暗殺担当のチームは海軍特殊部隊SEALsなどから引き抜いて編成、実働チームとしてPRUという傭兵部隊も組織され、命令はすべてCIAから出ていた。 ソンミ村事件の8カ月後、DEPCORDSはコマーからウィリアム・コルビーに交代している。後に、議会でフェニックス・プログラムの存在を認め、1968年8月から1971年5月までの間に2万0587人のベトナム市民を殺害したと証言するのはこのコルビーだ。(別の推計では4万1000名近くが殺害されたとされている) コルビーが議会で証言したこともあり、世界的に見ると、この秘密作戦は広く知られているのだが、日本では学者もマスコミも触れたがらない。「NATOの秘密部隊」でも言えることだが、アメリカの破壊活動、暗殺作戦について、日本の学者やマスコミは触れようとしない。(この件の詳細に興味があるならば、拙著『テロ帝国アメリカは21世紀に耐えられない』を) ともかく、1972年の段階でアメリカ政府はベトナム戦争を終結させる準備を本格化させていた。出撃拠点としての価値が低下した沖縄を「返還」してもかまわないとアメリカ側が考えても不思議ではない。(基地の経費負担の問題に加え、日本の「左翼衰退」で沖縄を独立させる事態はこないと判断した可能性もあるが) 密約問題を含め、日米安保には不透明な部分が多い。その理由を説くカギを提供してくれたのが関西学院大学の豊下楢彦教授である。「日米同盟」の中身を決めるにあたり、日本側の中心人物が昭和天皇だったことを明らかにしたのである。日米同盟の闇に光を当てようとすると天皇の姿が浮かび上がり、憲法が定める「象徴」の意味を問われ、天皇制の存続問題に発展することにもなりかねない。おそらく、日本のエリートにとって、日米安保最大の問題はここにある。
2010.04.10
権力者は自分たちに都合の悪い情報を隠す呪文として、「安全保障」という言葉を使うことが少なくない。かつての日本では「国賊」、最近では「反日」という呪文も流行っているようだが、要するに「臑(すね)の傷」を隠したいだけのことだ。 最近、イスラエルでも「安全保障」をめぐる騒動が持ち上がっている。以前、イスラエルのハーレツ紙は、ヨルダン川西岸で展開された暗殺工作に関する記事を掲載したことがある。裁判所の命令を無視して、パレスチナ人ターゲットを暗殺する作戦をイスラエル軍が命令したことを示す機密文書に基づく記事だったのだが、この文書を持ち出したジャーナリストが逮捕され、裁判にかけられようとしている。 つまり、裁判所の命令を無視した軍ではなく、司法システムを破壊するような作戦を展開した軍を告発した人々が逮捕されるという倒錯した出来事がイスラエルでは展開されているのだ。実際に暗殺された人物の中には、イスラエル側が「恩赦」した人物も含まれていた。そうした事実を国内で報道することも「安全保障」上の理由から禁止、解禁されたのは8日だ。 この機密文書を明るみに出したジャーナリストのアナト・カムは昨年12月に逮捕されている。カムは軍隊時代、軍の中央司令部で問題の文書をコピーし、イスラエルのハーレツ紙に持ち込んだとされている。記事を書いたウリ・ブラウ記者は現在、ロンドンにいると言われているのだが、イスラエルの治安当局はあらゆる手段を講じて連れ戻すとしているようなので、また拉致するつもりなのかもしれない。 イスラエルでは、都合の悪い情報は暴力的に封印し、意に沿わない人間は相手が誰であろうと暗殺してきた。そうした犠牲者のひとりが1948年に殺された国連の調停官、フォルケ・ベルナドットだ。 イスラエルはイランの「核開発」を非難し、軍事侵攻をするべきだと主張してきた。そうした圧力が影響したのか、アメリカはバンカー・バスター爆弾(387発の「Blu-110」と「Blu-117」を含んでいる)をカリフォルニアからディエゴ・ガルシア島へ運び込んでいる。 そのイスラエルは世界有数の核兵器保有国である。200発以上の核弾頭を保有していると1986年に暴露したのはイギリスのサンデー・タイムズ紙。その情報源は、1977年から約8年の間、技術者としてディモナの核施設で働いていたモルデカイ・バヌヌだ。 イスラエルのスパイ網は世界のメディアに張り巡らされ、バヌヌの動きはイスラエルの情報当局に筒抜けだった。最初に持ち込まれたシドニー・モーニング・ヘラルド紙は掲載を拒否すると同時にオーストラリアの情報機関ASIOへ通報、ASISを介してイスラエルへ伝えられた。ザ・エイジ紙やイギリスのデイジー・ミラーも掲載しなかった。 イスラエルの情報機関モサドはイギリスの治安当局と問題を起こさないように、バヌヌをイタリアへ誘い出し、そこで拉致している。そこからバヌヌは船でイスラエルへ運ばれ、裁判にかけられて懲役18年の判決を言い渡されている。1988年のことだ。 今年はバヌヌに判決が言い渡されて22年目にあたる。が、その後も彼は刑務所に入れられている。外国人と会ったという理由で、2007年に収監されてしまったのだ。イランやシリアを「核開発」を理由にして攻撃しているイスラエル。この国が秘密裏に核兵器を開発し、世界有数の核兵器保有国になっていることをバヌヌは証言したわけで、こんな人物を自由にしておくわけにはいかないのだろう。 先日、バラク・オバマ政権がアメリカ市民の暗殺を承認するという話が伝えられ、イスラエルによる暗殺工作のインパクトが弱まったとは言えるだろうが、イスラエルの行為は決して許されないだろう。
2010.04.09
4月に入って反体制派のデモ隊と治安当局が衝突して多くの死傷者を出していたキルギスタンでクルマンベク・バキエフ大統領が首都ビシケクから脱出し、野党勢力は「臨時政府」の樹立を宣言した。 この「革命」は、アメリカのアフガニスタン戦略にも影響を及ぼしそうだ。首都から北西へ約30キロメートルの地点にある米空軍の基地は、アフガニスタンへ物資や兵員を輸送する重要な中継拠点で、3月には約5万人の部隊が通過している。昨年8月、バキエフ政権はこの基地を閉鎖する意向を示してアメリカを慌てさせたが、この時は使用料を3倍にすることで話がついていた。何でも言いなりの日本政府とは違ったということだ。 バキエフ政権が誕生したのは2005年のこと。選挙結果に抗議するデモ隊が政府施設を占拠し、アスカル・アカエフ大統領とその一族を追い出したのである。いわゆる「チューリップ革命」だ。 選挙前から反政府派はメディアを使って政権を攻撃しているが、反政府メディアにアメリカの資金が流れ込んでいたことが明らかになっている。こうした舞台裏は「革命」が進行中の段階で、ニューヨーク・タイムズ紙など「有力メディア」も報じている。反政府メディアへのてこ入れは、2004年にはアメリカ国務省のローン・クレイナー国務次官補も明言していた。日本のマスコミがキルギスタンを好意的に報道している理由のひとつはこの辺にあるのだろう。 アメリカは「教育」にも力を入れ、「アメリカン大学」を創設する一方、学生やNGOの指導者たちをアメリカへ留学させている。インドネシアでスカルノ体制を倒すため、支配階級の学生をアメリカで「教育」して親米派のネットワークを作っていたことを思い出させる。バキエフもそうした留学組のひとりだったという。(アメリカは日本でも似たようなことを行っているようだ) バキエフはロシアとの関係を断絶せず、ロシア軍にも基地を使わせている。新政権がアメリカ軍の基地をどうするか不明だが、万一、閉鎖されるようなことがあると、アフガニスタンの情勢は深刻なことになる。キルギスタン情勢にアメリカが関与してくるのは当然だろう。
2010.04.08
アメリカのニューヨーク・タイムズ紙は4月6日付けの紙面で、バラク・オバマ政権がアメリカ市民の暗殺を承認する方向に向かって動き始めたと報じた。そのターゲットはイエメンで生活していると言われるイスラムの聖職者、アンワール・アルアウラキ。 この聖職者に心酔していたというニダル・マリク・ハッサン少佐(軍の精神科医)がテキサス州の米軍基地で銃を乱射して13名を殺害しているほか、ハッサンの事件から約1カ月後にナイジェリア人のウマール・ファルーク・アブドゥルムタッラーブがノースウエスト航空の旅客機を爆破しようとしたとされているのだが、このナイジェリア人はイエメンでアルアラウキの教えを受けていたとアメリカの情報当局は語っている。勿論、こうした話は、あくまでもアメリカ側の主張にすぎないが。 同紙を含む報道が正しいならば、アメリカ大統領が裁判を経ずに自国民を処刑しようとしていることを意味する。勿論、アメリカの権力機構の内部に「暗殺チーム」が存在していると信じている人は多く、「何を今さら」と言う人もいるだろう。かつて情報機関に所属していた情報源によると、司法省の内部にも、そうしたチームが存在するそうだ。 また、CIAの歴史に興味のある人ならば、「ZRライフル」という名前を聞いたことがあるだろう。1960年代にCIAが始めた要人暗殺計画で、ウィリアム・ハーベイが指揮していた。 ベトナム戦争の最中には、「フェニックス・プログラム」と名づけられた、農民皆殺し作戦も展開されていた。(詳しくは、拙著『テロ帝国アメリカは21世紀に耐えられない』を参照)ジョージ・W・ブッシュ政権でフェニックス・プログラムに参加していた人物が表舞台に復活していたが、そうした流れがオバマ政権でも続いているのだろう。 しかし、大統領がアメリカ市民の暗殺を承認するとなると、問題は深刻だ。「一部の暴走」という弁解ができなくなる。監視の目が厳しくなった現在、「非合法な暗殺」を実行するリスクが高まったので、「合法的な暗殺」を行うしかなくなったのかもしれない。 アメリカの対テロ当局はアルアウラキの容疑を挙げているようだが、その主張が正しいかどうかを検討する裁判をパスするというわけで、民主主義のプロセスを無視することを意味している。政権が交代したからといって、アメリカの情報収集能力が飛躍的に強化され、政府機関は誠実になったということはないだろう。 ところで、アフガニスタンやイラクでは、アメリカ軍の将兵や傭兵たちが無差別攻撃で市民を虐殺している。その一端はWikiLeaksに暴露されたが、そうした「テロ行為」を命令しているアメリカの要人たちをどこかの国、あるいは組織が「テロリスト」と認定し、彼らの「暗殺リスト」に加えたとき、アメリカ政府は喜んで受け入れるのだろうか?
2010.04.07
日本のマスコミは、アメリカ軍のアパッチ・ヘリコプターがロイターのスタッフを殺害したことに無反応のようである。攻撃の意志を見せているとは思えない地上の人々を攻撃している映像は、そのヘリコプターから撮影したもので、その中には、ロイターのカメラマン、ナミール・ヌールエルディーンと運転手のサイード・チュマグが2007年7月に殺害されたときの様子も含まれていた。アメリカ軍とイラクの武装勢力との戦闘に巻き込まれたとも言われていたが、今回、WikiLeaksが公開した映像を見る限り、そうした戦闘はなかった。つまり、地上をリラックスした状態で歩いている集団を攻撃したのである。面白半分に人を殺しているようにも見える。興味がある人は、殺人の場面があることを承知の上で見てもらいたい。
2010.04.06
4月5日、WikiLeaksは米軍の衝撃的な映像を公開した。米軍の軍用のアパッチ・ヘリコプターが非武装の人間、十数名を殺害する場面を撮影したもので、犠牲者の中にはロイターのスタッフ2名も含まれていた。自動車に乗っていた子どもふたりも重傷を負っている。人が殺される現場を撮影した映像であるが、イラク戦争の現実を知るためには重要なビデオである。日本のマスコミに「ジャーナリスト」を名乗る人が残っているならば、間違いなくこの映像について報道するはずだ。
2010.04.05
新年度が始まった。大企業の業績が回復し、年収が1500万円を超える高額所得者の数は増えているらしいが、その一方で庶民の貧困化は止まらない。第2次世界大戦の前も後も、政府は巨大企業や富裕層に富を集中させる政策を続けてきたわけで、当然の結果である。 労働と賃金が「等価交換」されているならば、企業が利益を出すことはできない。大企業の経営者は、労働者や下請け企業に正当な対価を支払わずに生産し、儲けてきた。いわば、「遣らずぶったくり」である。非正規雇用の拡大などで、「ぶったくり」ぶりは度を超し、その結果として、庶民は「世代の再生産」すら危うい状況に陥り、日本の社会は崩壊寸前、経済は沈没しつつある。 社会的に、そして経済的に優位な立場にある人々は、儲けを社会に還流させようとはしない。かといって、金庫に眠らせておくようなこともしない。つまり、金融市場と呼ばれるカジノへ資金を投入してきた。こうしたカジノ・ブームが始まってしばらくは資金が市場へ流入するので相場は高くなるが、それも限界がある。つまりピークアウトするときがきて、暴落するのが自然の流れ。暴落が怖いなら、暴騰させてはいけないのだ。 博打打ちが相場で負けて身ぐるみはがれるのは自業自得なのだが、その博打打ちの負けを庶民に押しつけるのが現代資本主義の仕組みである。「大きすぎて潰せない」というなら、潰せる程度に小さく分割させるべきなのだが、それは拒否するというのだから恐れ入る。誰かも言っていたが、資本主義の支配者は、自分たちが競争することを嫌がる。競争を強制されるのはあくまでも庶民だけということだ。 旧植民地から富を奪う手法も限界に達し、ロシア乗っ取りは失敗、中国を支配することも簡単ではない。かつてのように、富の偏在による社会の不安定化を、他国の富を略奪することで緩和させることは困難な時代に入っているのであり、労働者や下請け企業へ適正な対価を支払うよう、巨大企業に強制する義務が政府には生じている。 巨大企業の業績好調と日本経済の衰退はコインの裏表の関係にある。巨大企業や富裕層を優遇する不公正なシステムの歪みが貧困層を拡大させ、「社会保障費」を膨らませることになる。つまり、社会保障の経費を賄うため、貧困層の負担が重い消費税を増やすという理屈は矛盾しているのだ。社会保障費を減らしたいならば、まず大企業に対して労働者や下請け企業へ適切な対価を支払わせるように求め、所得税の累進税率を高め、法人税を引き上げなければならない。税金や社会保障の負担という点で、日本企業は国際的に優遇されているのだ。 大企業が儲ければ、下請け企業や労働者にもカネが回るという妄想を未だに信じている人がいるとは思えないが、大企業を儲けさせれば良いという主張は民主党政権になっても残っている。勿論、大企業をスポンサーとするマスコミも、大企業や富裕層にとって好ましくない話はしたがらないが、そうした舞台裏は庶民に見抜かれていると自覚するべきだろう。日本の社会を破壊し、経済を衰退させた責任がマスコミにもある。
2010.04.05
南アメリカをめぐり、アメリカとロシアが活発な動きを見せている。そうした中、コロンビアで深刻な事実が発覚した。コロンビア軍基地の近くで集団墓地が発見されたのである。コロンビアをアメリカは、南アメリカを支配するための橋頭堡と位置づけ、積極的に軍事支援してきただけに、その責任は免れないだろう。 コロンビアはコカインをアメリカへ運ぶ重要な拠点で、かつてはメデジン・カルテルとカリ・カルテルという2大組織が麻薬取引を支配していた。後にメデジン・カルテルはアメリカ軍に殲滅されたため、カリ・カルテルの独占状態になったと見られている。いずれにしろ、麻薬取引にアメリカの情報機関、CIAが深く関係していた可能性は高く、同機関の内部調査でもそうした関係を認めている。 しかし、アメリカのメディアでは、CIAと麻薬取引に関する記事を書いた記者は追放されてきた。例えば、ニカラグアの反政府ゲリラ「コントラ」の麻薬密輸を最初に指摘したAPのロバート・パリー記者や、ロサンゼルスにおけるコカイン密売の実態を暴露したサンノゼ・マーキュリーのゲイリー・ウェッブ記者がそうした犠牲者だ。ウェッブ記者の場合、自殺に追い込まれている。 さて、そのコロンビアで「集団墓地」が偶然、見つかったのは昨年のことだ。子どもが小川の水を飲んだところ、病気になったことが発見の切っ掛けだった。埋葬されていた遺体は約2000体で、2002年から2009年までに殺された人々だと言うことも判明した。アルバロ・ウリベが大統領に就任したのは2002年のことであり、この墓地のすぐ近くにはコロンビア軍の基地がある。 アメリカと友好関係にあるラテン・アメリカの国々では、「行方不明」になる人が多いのだが、コロンビアも例外ではなく、そうした行方不明者も埋葬されていると見られている。ちなみに、アメリカはコロンビアに対し、2000年から軍事支援策として70億ドル以上を提供し、約600名の軍事顧問を派遣していると報道されている。 その一方、ロシアはベネズエラとの関係を深めている。本コラムで何度か書いたように両国はアメリカのネオコン(新保守)、つまり親イスラエル派から攻撃されているという共通項がある。ロシアのウラジミール・プーチン首相は2日にベネズエラを訪問、宇宙産業の育成や核エネルギーの開発に協力する意志を示しているようだ。 このほか、フォークランド(マルビナス)諸島の領有権をめぐり、アルゼンチンとイギリスが再び衝突していることもアメリカ政府にとっては頭が痛いだろう。
2010.04.04
今から42年前、マーチン・ルーサー・キング・ジュニアは米国テネシー州のメンフィスで暗殺された。言うまでもなく、キングは1950年代から公民権運動を指導していた人物で、1964年にはノーベル平和賞を受賞している。 公民権運動が起こったということは、「公民」としての権利が認められていない人たちがアメリカに存在したことを意味している。要するに、アメリカの「民主主義」は一部の人たちだけのものにすぎない。ヨーロッパからの移民は公民権を認められていたが、アフリカで拉致され、奴隷として働かされた人々や先住民から見れば、アメリカという国の体制は、民主主義の対極にあった。 アメリカは国内だけでなく、世界を舞台として殺戮を展開してきた。イラクの体制が気に入らないということで、偽情報を撒き散らし、人々を恐怖で脅しながら先制攻撃し、数十万人、おそらく100万人以上の市民を虐殺し、イスラム差別も広めている。アフガニスタンでも殺戮が続いている。 アメリカの歴史を振り返ると、クリストファー・コロンブスがカリブ海に到達した1492年の段階で、100万人から1800万人が住んでいたとされている。つまり、北アメリカで生活していた先住民の正確な人口は現在でもわかっていない。ただ、1890年にウーンデッド・ニーで先住民の女性や子供が騎兵隊に虐殺された時には、約25万人に減少していたことはわかっている。この虐殺より20年近く前、1870年代には多くの先住民はすでに「保留地」へ押し込められていた。 ところで、徳川幕府が「日米修好通商条約」の批准書を交換するため、新見正興主席全権らを咸臨丸でアメリカへ派遣したのは1860年のことだった。先住民を虐殺している最中である。黒人奴隷制は1863年に廃止されているが、その実態に大きな変化はなく、19世紀の末から南部諸州では黒人差別が合法化されている。 アメリカで差別されていたのは先住民や黒人だけではない。19世紀まで女性も参政権を認められていなかった。州レベルでは、1890年にワイオミング州、1893年にはコロラド州というように認められていったが、女性に参政権を認める憲法修正第19条が成立したのは1919年のことである。 キングは公民権運動にとどまらず、貧困問題、労働問題に取り組み、ベトナム戦争にも反対していた。アメリカの支配層から見ると、きわめて危険な方向へ進んでいた。そして1968年4月4日午後6時1分に銃撃され、7時5分に死亡が宣告されている。 犯人としてジェームズ・アール・レイがイギリスのヒースロー空港で逮捕され、弁護士のアドバイスに従って有罪を認め、懲役99年の刑が言い渡された。後にレイは弁護士を替え、無実を訴えるのだが、認められないまま、1998年4月23日に獄中で死亡した。キング牧師の遺族は、多くの人々と同じように、レイの犯行だとする公式見解を信じていない。
2010.04.03
先月29日にモスクワの地下鉄で自爆攻撃したひとりが北コーカサス(カフカス)から来た17歳の女性だったことをロシアの警察当局は確認した。この女性も「黒い未亡人」のメンバー、つまり夫がロシア軍との戦闘で殺害された未亡人で、報復として攻撃チームに参加したということのようだ。 この女性の心情とは関係なく、ロシアへの攻撃を指揮している独立派をアメリカやイギリスの情報機関が支援、破壊活動にも加わっているとロシアの治安当局は確信している。このことは、前回の本コラムで書いたとおり。ジョージ・W・ブッシュ政権の時代に活動が盛んになったのだが、その背後に親イスラエル派のネオコン(新保守)が存在していたわけである。 ロシアの現政権と激しく対立しているボリス・エリツィン時代の「少数独裁者」も亡命先のイギリスやイスラエルを拠点として活動している。この亡命者の中でも特に有名なボリス・ベレゾフスキーがチェチェン・マフィアと結びつき、チェチェンでの戦闘とも関係していたと指摘されている。つまり、今回のロシアにおける自爆攻撃を考える場合、アメリカ、イギリス、イスラエルの3カ国を抜きに語ることは無責任である。 ロシアと軍事衝突している国も存在する。グルジアだ。アメリカが軍事的な支援をしてきたことは広く知られているが、南オセチアへの奇襲攻撃はイスラエルが黒幕だった可能性が高いことは本コラムで何度か書いたとおりである。 勿論、チェチェンなどの独立派を指揮している人々は、反アメリカ、そして反イスラエルという標語も掲げているが、イスラム教の影響が強い地域で実権を握るためには当然のことだろう。パレスチナのイスラム教徒が受けてきた迫害をイスラム諸国の庶民は熟知し、怒りに燃えているわけで、権力者も庶民の感情を無視すれば、庶民をコントロールすることは不可能だ。 現在、イスラエルはパレスチナ人が住むガザ地区を巨大な塀で囲み、この地域を一種の強制収容所にしている。軍隊を入れて虐殺するだけでなく、常時、兵糧攻めで住民を苦しめている。こうした残虐行為にエジプト政府が協力しているわけで、イスラム国だからといってイスラエルと敵対関係にあると言うことはできない。状況によって、イスラム諸国の独裁者たちはイスラエルとも手を組んだり、残虐行為を黙認してきたことは否定できないだろう。 イスラム世界に武装した「過激派」が登場するのは1980年代だとされている。アフガニスタンでソ連軍と戦う「自由の戦士」を養成するため、アメリカの軍や情報機関が組織したのである。そうした中にアル・カイダのオサマ・ビン・ラディンも含まれていたと言われている。要するに、出発点でイスラム武装勢力とアメリカの情報機関や軍とは師弟関係にあったのだ。 あくまでもチェチェン周辺の独立派は「反ロシア」なのであり、その活動をアメリカ、イギリス、そしてイスラエルが利用しているという構図だ。今回の爆破事件とイラン情勢を結びつけるのは、うがちすぎだろうか?
2010.04.02
ロイター電によると、昨年9月、チェチェンで独立派と戦う親ロシア派のラムザン・カディロフ大統領は、アメリカやイギリスの情報機関員がコーカサスをロシアから分離させるため、破壊活動に参加していると発言している。独立派を利用して米英両国がロシアを分裂させようとしているというわけだ。 そうした工作の象徴的な存在として挙げられているのが独立派のナンバー3だったリズバン・チティゴフ。1990年代の前半に数年の間、アメリカで生活した経験がある。1994年にチェチェンへ帰国してから武装闘争の情報部門を統括していたこともあり、ロシア側は彼がCIAの協力者、あるいは工作員だと疑っていた。 チティゴフは、1999年8月に始まった第二次チェチェン戦争(北コーカサス戦争)で注目された人物でもある。2001年にロシアの治安当局はチティゴフが毒ガスのリチンを入手したとする情報を得て捜索、FSB(連邦保安局)は独立派の地下基地で毒ガスを押収することに成功した。2005年3月にチティゴフは戦死しているが、この戦闘でロシア側の部隊を指揮していたカディロフは、その際、アメリカの運転免許証やアメリカの書類も発見したという。 アメリカ側がロシアに対する軍事的な動きを活発化させるのはジョージ・W・ブッシュ政権の時代、つまりネオコン(新保守)たちの戦略である。本コラムでは何度も指摘しているように、ネオコンとはイスラエルを第一に考える人々であり、イスラエルの軍事強硬派と密接な関係を維持してきた。 前回も指摘したように、ロシアでウラジミール・プーチンが実権を握ってからイスラエル系の富豪たちはイギリスやイスラエルへ亡命し、イギリスではロスチャイルド卿をはじめとする権力者と手を組んだ。ネオコンとも密接な関係を築いている。チェチェンの独立にネオコンが熱心なことも知られている。 プーチン時代の前、つまりボリス・エリツィンの時代には一部の人間がロシア国民の資産を二束三文で手に入れ、大富豪になった。その大富豪と手を組んで一儲けを企んだ日本人もいたようだが、こうした人々の思惑は「とらぬ狸の皮算用」で終わってしまった。ロシア乗っ取りは挫折してしまったということでもある。 大富豪たちのロシア支配が続けば、ロシア国民が貧困に喘ぐだけでなく、イスラエルと密接な関係にある勢力が石油などロシアの資源を押さえ、膨大な数の核兵器を手にすることになった。中東全域が火の海になれば、彼らの世界に対する影響力は強まる。ネオコンが産油国のベネズエラでクーデターを企てた理由のひとつは、この辺にある気がする。 この話も以前に書いたが、グルジアの現政権にもイスラエルが深く食い込んでいる。ロシアへの軍事行動の黒幕はイスラエルだとクレムリンでは考えているようだが、おそらくこの分析は正しい。イスラエルはネオコンと共鳴し合い、アグレッシブになっている。言うまでもなく、こうした動きを危険視する勢力も西側には存在しているはずで、イスラエル政府の思惑通りにことは進んでいない。(イスラエルとロシアとの関係に興味がある方は、拙著『アメリカ帝国はイランで墓穴を掘る』を) 世界には独立を目指して活動している人や組織は少なくない。多くの場合、少数派として虐げられた歴史があるのだが、西側で独立運動を展開すれば「テロリスト」と呼ばれてしまう。ところが、コソボにしろチェチェンにしろ、東側で独立運動を展開すれば英雄として扱われる。言うまでもなく、西側、特にアメリカやイギリスがそうした独立派を利用できるからである。 本コラムは決してロシア政府を支持しているわけでもチェチェンの独立派を批判しているわけでもない。ただ、こうした独立の動きを外部の勢力が利用し、自分たちの利益にしようとしていることを問題にしているのである。こうした戦略は世界を不安定化し、場合によっては人類の存亡にも関わってくる可能性がある。
2010.04.01
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