2001年1月にジョージ・W・ブッシュが大統領となり、その年の9月11日にニューヨークの世界貿易センターとバージニア州アーリントンの国防総省本部庁舎(ペンタゴン)が攻撃された。
その10日ほど後、クラーク元欧州連合軍最高司令官はアメリカ軍の中枢、統合参謀本部でイラクを攻撃するという話をスタッフから聞く。その数週間後、国防長官の周辺で攻撃予定国のリストが作成されていたことをやはり統合参謀本部でクラークは知らされている。そこに載っていた国はイラク、シリア、レバノン、リビア、ソマリア、スーダン、そしてイランだった。
ブッシュ・ジュニア政権は詳しい調査をせずに攻撃は「アル・カイダ」が実行したと断定、2003年にはアル・カイダ系武装集団と対立していたサダム・フセイン体制下のイラクを先制攻撃した。その際に口実として使われた「大量破壊兵器」の話は嘘だった。
この攻撃でフセイン体制は崩壊、フセイン自身は処刑された。当初の計画ではイラクに親イスラエル派の体制を築くことになっていたが、実際はイラクの多数派であるシーア派の政権が誕生し、イランとの関係が深まる。
そこでブッシュ・ジュニア政権は方針を転換、スンニ派と手を組むことにする。そして シリア、イラン、そしてレバノンのヒズボラをターゲットにした秘密工作をイスラエルやサウジアラビアと開始 したという。イラクに続いてシリアとイランを破壊するのはウォルフォウィッツ・ドクトリンのプランだ。
2009年1月に大統領はオバマに交代、大統領は2010年8月にPSD-11を出し、ムスリム同胞団を使った侵略計画を承認した。そして「アラブの春」が始まり、2011年2月にはリビア、同年3月にはシリアでムスリム同胞団やサラフィ主義者(ワッハーブ派、タクフィール主義者)を中心とするジハード傭兵が侵略戦争を始める。1970年代終盤にブレジンスキーがアフガニスタンで行った秘密工作と基本構造は同じだ。
リビアではNATOとアル・カイダ系武装集団のLIFGが連携して体制転覆に成功、アメリカ主導軍は兵力をシリアへ集中させたが、ここで躓く。偽情報の流布は発信源の実態が露見して思惑通りに進まず、化学兵器話も嘘がばれた。
2015年9月にオバマ政権は国防長官や統合参謀本部議長を好戦派に交代させ、リビアと同じようにNATO軍、あるいはアメリカ主導軍を軍事侵攻させる態勢を整えたのだが、ロシア軍がシリア政府の要請で介入して失敗に終わった。
こうしたアメリカ支配層の侵略は嘘で支えられている。そうした嘘が知られるようになると、アメリカ支配層の嘘を暴く情報が嘘だという偽情報を流し始めたが、そうした嘘に踊らされる人ばかりではない。
アメリカの支配層が第2次世界大戦が終わって間もない1948年頃からモッキンバードと呼ばれる情報操作プロジェクトを始めたことが知られている。(Deborah Davis, “Katharine The Great”, Sheridan Square Press, 1979)
ワシントン・ポスト紙の記者としてウォーターゲート事件を取材したカール・バーンスタインは1977年に同紙を辞め、その直後に「CIAとメディア」という記事をローリング・ストーン誌に書いているが、それによると、400名以上のジャーナリストがCIAのために働き、1950年から66年にかけて、ニューヨーク・タイムズ紙は少なくとも10名の工作員に架空の肩書きを提供しているとCIAの高官は語ったという。(Carl Bernstein, “CIA and the Media”, Rolling Stone, October 20, 1977)
ドイツのフランクフルター・アルゲマイネ紙(FAZ)の元編集者、 ウド・ウルフコテ もメディアとCIAとの関係を告発しているひとり。
彼によると、ジャーナリストとして過ごした25年の間に教わったことは、嘘をつき、裏切り、人びとに真実を知らせないことで、多くの国のジャーナリストがCIAに買収されているとしている。
その結果、ヨーロッパの人びとはロシアとの戦争へと導かれ、引き返すことのできない地点にさしかかっているとしていた。そして 2014年2月、この問題に関する本をドイツで出版 した。その英訳本も出たはずなのだが、手に入れることはできない。日本語訳が出たという話も聞かない。
こうした本を出版できるドイツではアメリカの実態を知る人が比較的多いようで、最近実施された世論調査では55パーセントの人がドイツの脅威だと考える国としてアメリカを挙げている。「悪魔化プロパガンダ」のターゲットになっているロシアより1ポイント低いだけ。ちなみに、日本で「悪魔化プロパガンダ」のターゲットになっている朝鮮は27パーセント、中国は16パーセントだ。
(了)