アメリカの特殊部隊がダーイッシュ(IS、ISIS、ISIL、イスラム国とも表記)を率いてきたとされている アブ・バクル・アル・バグダディを殺害した と宣伝している。
このアル・バグダディが何者かは明かでない。イスラエルのスパイだという噂もあるが、ムスリム同胞団の出身だという説もある。ムスリム同胞団はバラク・オバマ大統領が2010年8月に出したPSD-11で手駒として使うことにした歴史的にイギリスと関係の深い団体だ。
ダーイッシュは2004年にAQI(イラクのアル・カイダ)として組織され、06年にISI(イラクのイスラム首長国)が編成された際の中核になったと言われている。
2010年にISIのリーダーになったのがアブ・バクル・アル・バグダディ。2013年に活動範囲がシリアへ拡大、ダーイッシュと呼ばれるようになった。2014年に売り出された当時のダーイッシュは残虐性を演出、アメリカ軍のシリア空爆の口実に使われる。
実のところ、戦闘集団の名称は曖昧だ。2005年7月に ロビン・クック 元英外相が指摘したように、アル・カイダとはCIAの訓練を受けたムジャヒディンの登録リスト。つまり傭兵の名簿だ。何かプロジェクトが決まると、そのリストに載っている傭兵が集められる。そしてタグがつく。
2011年春にオバマ政権はそうした傭兵を使い、リビアやシリアへの侵略戦争を始めた。これを内戦と呼ぶことはできない。
この侵略戦争にはアメリカのほか、サウジアラビア、イスラエル、イギリス、フランス、カタール、トルコなどが参加、特殊部隊を潜入させたり、傭兵を雇っている。つまり、傭兵グループにはいくつかの系統がある。
リビアのムアンマル・アル・カダフィ体制は2011年10月に倒された。侵略軍は空軍としてのNATO軍と地上軍としてのアル・カイダ系のLIFGが中心で、その後、戦闘員は武器と一緒にシリアへ移動する。
この段階でアメリカ/NATOがアル・カイダ系武装集団を手先として使っていることが隠せなくなるが、その前にオバマ政権はアル・カイダのトップだとされていたオサマ・ビン・ラディン殺害を演出している。
リビアやシリアで戦争が始まって間もない2011年5月、 パキスタンでアメリカ海軍の特殊部隊NSWDG(通称DEVGRUまたはSEALチーム6)がオサマ・ビン・ラディンを殺害、死体は空母カールビンソンから海に葬られたということになっているのだが、科学的な人物の特定作業も行われていない。
ビン・ラディンが隠れていたという住居の近くに住む人びとは、銃撃戦を見ていない。埋葬を目撃したというカールビンソンの乗組員も見当たらない。しかもビン・ラディンを襲撃したとされる特殊部隊メンバーはその3カ月後、ヘリコプターが墜落して死亡したという。
重度の腎臓病を患っていたビン・ラディンはその前に死んでいるという情報もある。例えば、エジプトで出されているアル・ワフド紙は2011年12月26日付け紙面でオサマ・ビン・ラディンの死亡を伝えている。
アメリカの特殊部隊がオサマ・ビン・ラディンを殺害したという話は怪しいのだが、それでも「テロリストの象徴」をアメリカが殺したということで、それまでのテロリスト話は一区切りついた。リビアでアル・カイダ系武装集団の話が出てきても西側の有力メディアは大きく取り上げず、オバマは「穏健派」を支援していると宣伝していた。それが間違いだと警告したのがアメリカ軍の情報機関 DIA だ。
2014年に売り出されたダーイッシュもほかのアル・カイダ系武装集団と同じようにイスラエルを攻撃しない。 エルサレム・ポスト紙 によると、2013年3月から16年5月までイスラエルの国防大臣を務めたモシェ・ヤーロンは在任期間中、そうした武装集団と会っている。
本ブログでは何度も書いたように、ダーイッシュとアメリカとの関係は深い。例えば、アメリカ空軍の トーマス・マッキナニー 中将は2014年9月、アメリカがダーイッシュを作る手助けしたとテレビで語っている。
また マーティン・デンプシー 統合参謀本部議長(当時)はアラブの主要同盟国がダーイッシュに資金を提供していると議会で発言、10月には ジョー・バイデン 米副大統領がハーバーバード大学で中東におけるアメリカの主要な同盟国がダーイッシュの背後にいると語っている。2015年には ウェズリー・クラーク 元欧州連合軍最高司令官もアメリカの友好国と同盟国がダーイッシュを作り上げたと述べた。
そして2015年8月、アル・ジャジーラの番組でダーイッシュの勢力を拡大させた責任を問われた マイケル・フリン元DIA局長 は自分たちの任務について、情報の正確さをできるだけ高めることにあると反論。その情報に基づいて政策を決定するのはバラク・オバマ大統領の役目だと指摘している。
アル・カイダなる武装集団は存在せず、オサマ・ビン・ラディンは戦闘集団を指揮していなかったが、アル・バグダディも戦闘を指揮していないとする話がある。
例えば、ドイツの シュピーゲル誌によると 、ダーイッシュを操っていたのは2014年1月に死亡した元イラク空軍大佐のサミル・アブド・ムハンマド・アル・フリファウィ、通称ハジ・バクルで、この人物が残した文書にはシリア北部で「カリフ制国家」を樹立する詳細な計画が書かれ、情報活動、殺人、拉致などの手法も記され、虐殺は「狂信者」の行為ではなく、元情報将校による冷徹な計算の元で行われていたのだという。
また、イランの義勇兵組織バスィージのモハマド・レザ・ナクディ准将に言わせると、 ダーイッシュの司令部はイラクのアメリカ大使館 。イラクのアリ・アクバル大隊の司令官は ダーイッシュとアメリカ軍が定期的に連絡を取り合っていることを通信傍受で確認 したとも伝えられていた。
現在、アメリカ軍はイラクの西部で軍事力を増強、ジハード傭兵を集め、シリア東部の油田地帯を占領し続ける意思を示している。クルドを手先として使えなくなりつつある現在、再びダーイッシュやアル・カイダ系武装集団で戦った人びとを使う必要が生じ、その準備としてアル・バグダディの殺害を演出した可能性もある。