アメリカのドナルド・トランプ大統領は3月の初め、イランに対して新たな核合意に関する協議に参加するように求める書簡を送った 。2カ月以内に核開発に関して合意することを求めるものだ。
この恫喝書簡をトランプ政権は当初、ロシアのセルゲイ・リャブコフ外務次官から渡されたと伝えられていたが、ロシア政府は断ったとされている。実際に届けたのは親イスラエルのアラブ首長国連邦で外務大臣を務めるアンワル・ガルガシュで、3月12日にイランのアッバス・アラグチ外務大臣と会談している。
この書簡が送られる前、アメリカ政府はイスラエル、サウジアラビア、アラブ首長国連邦を含む主要なアメリカの同盟国に内容を知らせたという。トランプ政権の恫喝に屈しないイランを攻撃することでアメリカはイギリスやイスラエルと合意、近日中に攻撃する、あるいはイスラエルが単独で攻撃するという情報が伝えられている。
それに対し、 イランの最高指導者であるアリ・ハメネイ師は4月4日、トランプ大統領に対し、イスラム共和国と対峙する際に脅しでは何も得られないことを知っておくべきだと警告、イランの軍隊に厳戒態勢を敷いたとも語っている 。
またモハンマド・バーゲル・カリバフ国会議長は、イスラム国を脅迫すればこの地域のアメリカの同盟国とアメリカ軍基地は危険にさらされるだろうと述べた。イランはアメリカ軍基地を抱える近隣諸国、つまりイラク、クウェート、アラブ首長国連邦、カタール、トルコ、バーレーンに対し、攻撃に関与すれば反撃の標的になる可能性があると警告したわけだ。
トランプ政権は 3月28日から 空爆、民間人を殺害する現場をアメリカ政府は公表しているが、これは上空からの映像と電子監視に頼っているアメリカ側の情報レベルが低いことを示しているようにも見える。アメリカが情報収集に利用している無人機のMQ-9リーパーをアンサール・アッラーは16か月の間に17機を撃墜したとイエメン側は主張している。アメリカの艦隊は攻撃用だけでなく防空用のミサイルを相当数発射しているはずだが、それにも限界があり、早晩引き上げなければならなくなるだろう。
アメリカがイランを攻撃する動きを見せる中、イギリス領のディエゴガルシア島にあるアメリカ軍基地に3機のB-2爆撃機が配備されている。この航空機はF-117攻撃機と同じように「ステルス」だとされているのだが、実戦で撃墜されている。「見えない」というのは兵器メーカーの宣伝文句にすぎず、実際は見えているようだ。
1999年にセルビア軍はF-117を1機撃墜し、別の1機も修理不能な損傷を与えているが、その時に使われたのは旧式のS-125地対空ミサイル・システム。それより性能が良いロシア製の防空システムなら確実に撃ち落とされるだろう。そうしたシステムをイランも保有している。
昨年4月1日にイスラエル空軍はゴラン高原方向からダマスカスを攻撃してイラン大使館領事部を破壊、IRGC(イスラム革命防衛隊)の特殊部隊コッズの上級司令官だったモハマド・レザー・ザヘディ准将と副官のモハマド・ハディ・ハジ・ラヒミ准将を含む将校7名を殺害した。
そうした攻撃に対する報復としてイランは4月13日にドローンやミサイルでイスラエルのネバティム空軍基地、ラモン空軍基地、そしてハルケレン山頂にある「サイト512」基地のAN/TPY-2 Xバンドレーダー施設を攻撃、大半のミサイルは目標にヒットしたと伝えられているが、これは形式的な攻撃で、イスラエルに打撃を与える意思はなかったと見られている。新大統領で親米派の マスード・ペゼシュキアンはイスラエルに対して寛容だったと言えるだろう。
しかし、2024年10月1日にイランは イスラエル南部と中部に200機から400機の弾道ミサイルを発射、イスラエルが誇る防空システム「 アイアン・ドーム」を突破して標的に命中させた。80から90%が標的に命中したとイラン側は主張しているが、現地から流れてくる映像はその主張の信憑性を高めている。つまり、アメリカやイスラエルがイランを攻撃した場合、イスラエルを含むアメリカの「同盟国」はこうした攻撃にさらされることになる。
イスラエルの戦争にはイギリス軍も深く関係している。3月4日にアメリカ軍のB-52爆撃機がイギリスのグロスタシャーにあるアメリカ空軍の基地から飛び立ち、東地中海上空でイスラエルのF-35およびF-16戦闘機とランデブー飛行しているが、これは象徴的な光景だ。2月5日にはイスラエル空軍のヤベル・ハレル准将を含む9名の代表団をイギリス国防省は迎え入れた。イギリス軍はイスラエルのために物資の輸送だけでなく偵察飛行を繰り返していることも知られているわけで、ガザでの住民虐殺で共謀しているとも言えるのだが、イランに対する攻撃でもアメリカ、イギリス、イスラエルは共謀する可能性がある。
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【 Sakurai’s Substack 】