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さて、台中を出発したローカル列車は、街を抜け緑の中へとぐんぐん進んでいきました。バナナの大きな葉っぱや、高い高いビンローヤシ(ヤシの木の一種)の木々をすり抜けるように走る列車。まさに緑のトンネルといった風情です。列車から身を乗り出して撮影していると、ときおり風にあおられたバナナの葉っぱがふわりと頬を撫でていったり、並走する渓流のせせらぎがかすかに耳元にささやいてきたり…風景も気候も、日本とはまったく異なるはずなのに、撮影しながらなぜか懐かしい気持ちが胸いっぱいに広がってきました。車内の乗客の人々も、遠い昔に、どこかで会った人たちのよう…バタバタと時間に追われているはずの撮影の旅のなかでも、時々こんな至福の時間があるんです。これを味わいたくて、そしてこの気持ちよさを番組作りにうんと込めたくて、私たち撮影隊はハードなスケジュールにもめげず、撮影の旅を続けているのかもしれません。
ローカル線の「集集線」の終点「チャーチャン」駅。しずかにたたずむこの小さな駅とその周辺の集落も、これまた心休まる場所でした。変な帽子を得意げにかぶった李ディレクター、白いタオルを頭に巻いた建設労働者風の私、アジア人離れした顔つきの佐藤助手、萌え系ファッションのコーディネーター・ユミさんという不思議な4人組を、この村の人たちはやさしく迎え入れてくれました。ゆったりした時間を、ゆったりと撮影する、ここでもそんな幸福を味わうことが出来ました。
こんな幸せに浸ってばかりでいいのだろうか、とふたたび気を引き締め向かったのは渓湖駅。ここから出発する蒸気機関車に乗るためです。かつてはサトウキビを運ぶ路線だったのですが、今は観光列車として、週末ごとにサトウキビの代わりに観光客を乗せて運行しているのです。週末、天気は快晴、集まった乗客たちも楽しげな表情でした。サトウキビの運搬車を改造した車両は、360度見渡せるオープンスペース。蒸気機関車がのんびりと煙を吐き出し運行する線路の両方にひろがる色々な田んぼや畑。やはりここでもまた、至福を感じてしまった撮影隊でした。至福の台湾!
【撮影 辻 智彦】
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