なまけいぬの、お茶うけをひとつ。  

なまけいぬの、お茶うけをひとつ。  

2006年06月12日
XML
カテゴリ: 楽園に吼える豹
ゴウシやユキヒロとの対面を果たしたあと、橘は再び清里家を訪れた。もう日はとっくに暮れていて、他人の家を訪問するにはおよそ相応しくない時間帯ではあったが、事は一刻を争う。

この問題に関しては清里家の人々も関係者なのだし、迷惑がられる筋合いはない。橘はそう思って、呼び鈴を押した。

だがまたしても空振りに終わった。待てど暮らせど、応答はない。

(こんな時間になっても、いない……?)

橘は首をかしげた。
家の電気は点いている。電気を点けたままずっと家を空けているのか、あるいは―――。


(…居留守?)


実行総合本部の職員の訪問を予測していたのだろうか。その上で知らんふりをしている?

家の中に人の気配があるのか否かは分からなかったが、出て来てくれなければどちらにしろ話にならない。



(けど! ここで引き下がるわけにはいかないんだよ…!)




清里夫人は、その日の朝、自分で淹れたコーヒーを飲んでいた。

カーテンを通して窓から明るい日差しが差し込んでいる。微かに小鳥のさえずりも聞こえた。
座り心地のいいソファーに身を任せながら、今朝は久しぶりに外に出てみようか、とぼんやりと考える。

ここのところ、気の休まる日がない。

夫は滅多に家に帰ってこない。たぶん愛人のところに通いつめているのだろう。もう問い詰める気力もなかった。

息子だけは彼女を気遣っていたが、彼も社会人の身。そうそう実家に帰ってこれるはずもない。


娘は―――。


清里夫人は頭を振った。
浮かんだ考えを振り払うように、夫人は立ち上がる。

今日は庭の手入れでもして過ごそう。最近世話を怠りがちだから、花も元気をなくしているだろう。



だがその瞬間、本日の夫人の予定は狂ってしまう。



「清里さん?」



夫人はびくりと顔を上げた。
門扉のところに青年が立っている。

(誰?)




「驚かせてすみません、僕は実行総合本部のキョウイチ・橘といいます。ちょっとお話を伺いたいのですが」

橘は結局、徹夜で清里家の前で張り込む羽目になった。出かけていなければ、待っていればいずれ家族の者が外へ出てくるだろうと踏んだのである。

夫人は狼狽した。昨日何度か呼び鈴を鳴らしたのは彼だろうか。

帰ってください―――ヒステリックな声が喉を突いて出そうになる。が、通りを近所の人間が歩いてくるのが見え、彼女は反射的に声を飲み込んだ。

ここで大声を上げては、近所の人たちに何事かと思われる。噂の種を自分から提供するような真似はしたくなかった。


「お願いします、少しでいいですから」


かといって目の前の青年は簡単には去りそうにない。目に強い決意が宿っているのが彼女にもわかるのだ。

諦めるしかなかった。

「―――…どうぞ」








つづく


ネット小説ランキング、人気ブログランキングに参加しました。
皆さんの愛の手が私の力になります!

ネット小説ランキング>異世界FTシリアス部門>「楽園(エデン)に吼える豹」に投票

人気ブログランキングバナー





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2006年06月12日 19時38分33秒
コメント(4) | コメントを書く


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

お気に入りブログ

@北陸2days アイネスターゲスさん

black obelisk black_obeliskさん
Emy's おやすみ前に… emy&acoさん
~*合縁奇縁*~ 桜嶺みすずさん
日月の聲 渡瀬 悠宇さん

コメント新着

まよいねこ@ Re:凛花9号 「櫻狩り」最終回感想(01/14) なまけいぬ様、初めまして。 「櫻狩り」…
なまけいぬ @ Re:男子っ!!(03/26) アイネスターゲスさん 高橋選手、モチベ…
アイネスターゲス@ 男子っ!! 大輔くん頑張りましたね! テンション低い…
なまけいぬ @ Re[1]:2010年世界フィギュア 男子(03/26) black_obeliskさん 何となく、今年の世界…
black_obelisk @ Re:2010年世界フィギュア 男子(03/26) オリンピックでファンも燃え尽き症候群・…

© Rakuten Group, Inc.
X
Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: