フリーページ

2005年03月09日
XML
カテゴリ: カテゴリ未分類
今朝は、二十年来の友人=伊住政和氏の三回忌と、そのご母堂=千登三子氏の七回忌の法要が京都大徳寺山内の聚光院で行われたので参列してきました。
聚光院は利休さん以来、千家の菩提寺です。

葬儀の日も、昨年の一周忌のときも、雪が残っていましたが、今日はコートも要らぬほどの暖かさ、「年年歳歳花相似たり、歳々年々人同じからず」と言いますが、列席者の顔ぶれも多少の変化を見せ、月日のたつ速さに驚かされます。

山内の五箇所の塔頭(たっちゅう)=総見院・三玄院・高桐院・黄梅院・芳春院ではご供養の茶席が設けられていました。

最初に伺った総見院では伊住氏の兄上=裏千家家元の坐忘斎宗匠が濃茶を練って下さいました。正客は大徳寺きっての学僧=徳禅寺の橘宗義師です。私はその脇に坐らせて頂きましたが、徳禅寺様を前にしてこんな話を、と躊躇いながら坐忘斎宗匠が床の間の掛軸を氏の独特の読みでご披露されました。
それがタイトルの語です。筆者は江戸初期の名僧=清巌宗渭(せいがんそうい)です。清巌師の軸はもう何十幅も拝見しましたが、その語について坐忘斎宗匠から話を伺うのは初めてです。彼は最後の三文字を「尋ぬるところになし」と読んでみたいと話されました。語学的には無理な読み方ですが、よくその意を捕らえておられるのに感心しました。人は遠いところに目指すものが在ると思い込んで、そこに向かって精進するけれど、本当に得るべきもの=宝物は目の前にあるのに、なかなか気づかない、そういう思いでこの軸を掛けました、と氏は話されました。

とても仲の良いご兄弟で、それだけに伊住氏が亡くなられてからの二年間、ほとんどお目にかかるたびに帰らぬ人を偲ぶ言葉ばかり伺ってきましたが、ようやく気を取り直されたのかな、と安心しました。

夜は京都ホテルオークラで偲ぶ会が催されました。友人で俳優の辰巳琢郎氏がこんな話を披露されました。伊住氏は「金を遺すのは下、仕事を遺すのは中、人を遺すのは上」と生前よく口にしておられたそうです。
ああ、私も氏が遺して下さった人の輪の中に入れて頂いて、今日あるのだな、と思うと胸が熱くなりました。

私の左から順にお名前をあげると、新進気鋭の画家千住博氏、陶芸家のリチャード・ミルグリム氏、釜師の大西清右衛門氏、袋物師の土田友湖氏、竹細工の黒田正玄氏、陶芸家の楽吉左衛門氏、同じく陶芸家の永楽善五郎氏といった方々です。
皆様それぞれの分野で押しも押されもせぬ活躍をなさっておられる方々で、何故私がこの席に、と不思議に思ったのですが、でもどのかたも一度はお目にかかりたいと念じていた方ばかりです。
今朝のお軸「只目前に在り、尋ぬるに処なし」とは、今夜の私にとってご同席下さった綺羅星のような方々だったな、と別の読み方をしてみました。
千住氏とはこの数年ゆっくりお話をする機会がしばしばあったのですが、この席に共通の要素は何だか判りますか、という彼の謎はすぐには解けませんでした。
降参して答えを伺うと、この席の人はみな物を創る人々です。彼らに「貴方の生涯を代表する作品は何ですか」と尋ねてご覧なさい。彼らは異口同音に「それは私がこれから手がける次の作品です。」と答える筈ですよ、とおっしゃっていました。そして、貴方も次の著書に渾身の力を込めてお書きなさい、という言葉を頂きました。ああ、本当に得がたいと思っていたものが、目前にあるのだな、と有難い思いを懐きながら、最終の新幹線で東京に帰ってきました。いつの日か、千住氏の絵に飾られるような本が書けたらな、という大それた夢を描きながら、常に前進を続けられる人の輪に入れて頂いた事をしみじみ有難く思いました。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2005年03月10日 01時43分19秒
コメント(0) | コメントを書く


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

PR

キーワードサーチ

▼キーワード検索

プロフィール

巌雪英稜

巌雪英稜

コメント新着

ゆう@ とうとう出ちゃったね うわさは本当だったよ。 http://himitsu.…
緑の海 @ Re:卆寿の祝い(02/22) 中嶋さんとはあの方でしょうか。お茶巧者…
緑の海 @ 檀家まわりをなさったのですね。 少しも暑さを感じさせない、先生の一日、…
わかすぎけん@ 遅ればせながら お誕生日おめでとうございました。 目に…
わかすぎけん@ 死んだ男の残したものは 合唱あがりの、わかすぎです。ご無沙汰し…

© Rakuten Group, Inc.
Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: