歌 と こころ と 心 の さんぽ

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2012.06.30
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カテゴリ: TNK楽歌31






 どちらかと言えば好きなタイプの絵ではなかったが、以前(2010年5月)、NHKの「クローズアップ現代」で放映された「清水寺・成就院」の襖絵(2010年4月に一般公開された)の実物を是非見たいと思った。




 5年の歳月をかけた力作「かぐや姫」「風の故郷」「大漁」の46面の襖絵は、精緻な筆致で大胆な構図の中にデフォルメされたモチーフが奔放に描かれていて、見応え十分なものだった。

 絵本作家、イラストレーターとして、NHK「みんなのうた」に使われて有名になった異色の日本画家。その彼が1200年の歴史を誇る古刹に襖絵を奉納したいと申し出て、管主が受理されるまでにはかなり迷いがあったらしい。この古い様式のお寺にメルヘンチックな彼の絵がマッチするのかどうかと。
 源氏物語などにも果敢に挑戦し、見事に描いて見せるその確かな技量とセンスを確認し、その危惧もなくなったという。

 さすが、京都だと思う。共産党の府知事の時代があったぐらいだから、伝統を重んじる古い歴史の街でありながら革新的な気質も併せ持っているところがいい。
 伝統は守るべきものではなく、その時代の最先端のものを取り入れてこそ受け継がれていくというもの。それを実践して見せる清水寺の管主はさすがだと思う。



「大漁」



「大漁」は金子みすゞの詩がモチーフになっている


 ここにいる少女は、中島氏自身だ。 『やっと、こう…強くなれたかなっていう思いがしましたね。今回、ふすま絵に描いたですね「大漁」はですね、前回、金子みすゞさんの「大漁」描いたんですけど、今回は、僕自身の「大漁」だと思ってるんですよ。』 と、「クローズアップ現代」で語っている。

 イワシたちは、一旦は海底に向かうが反転して天に上ろうとする。そして少女は毅然としてその群れの中に立ち、魚の流れに敢然と立ち向かう。そして、彼らの生と死を直視し、ただ悲しみにおぼれ逃げるのではなく、生き物の生の姿を大きな目で見取ろうとする。

『僕自身の「大漁」を描けたかなって思ってるんです。まず第一に命を輝かせられたことですね。で、個々の小さなイワシのみんな、夢があるし思いがあって、命が生まれたから。生まれた生命がですね、海の中で、結局いろんな大変なことをしながら生きているわけですよね。その一つ一つは結局、生まれて消えていっても輝いているんだっていう。命が、亡くなったからっていって、失せるものじゃないと思うわけですよ。例えば、人間でしたらその人の心が残るんですよね。周りの人に残ってまた、その次の人に残っていく。だから、命ってそういうものじゃないかなと思うんですよ。』

 『このイワシが、天に向かうんだと思ったんですよね。このイワシが、全体の全部の今まで描いてきたイワシのすべての気持ちを受け止めて このイワシは結局、天に向かうんだと。自分がふるさとを出たりいろんな自分の感じてきた、そういう思いをすべてですね すべて納めた、あの目の中に。』




襖ゆえに裏側にも絵が描いてある。そのため
展示も実際の部屋と同じしつらえになっている。



「かぐや姫」



着物の模様が克明に描いてあり、これ等の襖絵に賭ける
彼の執念の様が見てとれる



 普通の額装の絵もその筆致の繊細さは変わらず、髪の毛や細部を極細の面相筆でち密に描く技術は確かなものだ。
 どの顔も寂しげで、そのどれもが遠くを見つめるような目をしている。自身の内面に孤独な陰を持っていて、それが独特の絵の表現になっているように思う。
女性を描いた「風の女」シリーズは全体に寂寥感が漂っていて、私はこの陰鬱な印象の絵を直視できなかった。

 18歳の時に母親が亡くなり、2ヶ月後に再婚した父親に反抗して家を出たという。「わたしにとって、故郷は優しさも懐かしさもなく、むしろ心をそむけるものでした。心の隅にうずく傷のようでした」とも言っている。
 そういう父親との幼小時代からの関係、その背景に彼の個性を作り上げた基が潜んでいるような気がする。
 エディプス・コンプレックスが創作のエネルギーとなっている事例はよくある事し、絵の師を持たなかったことで独自の絵画表現が生れ、比類のない世界を作り上げることが出来たのも無関係ではないだろうと思う。

 2010年12月には、NHK「ヒューマンドキュメンタリー」という番組で特集があったらしいが私はこれは見落としている。そこでは、彼の生い立ちや母親との生活、母親の死や父親の再婚、もう会いたいと思わなかった父親の死の知らせ、最近になって肺がんの手術とその格闘についてが、襖絵の制作の様子と共に紹介されていたらしい。
 その番組を観ていれば、もう少し正確なことが書けただろうと思うと残念だ。


 襖の他に100点の代表作が展示されている。自身のホームページの 「Gallery・Ume」 で作品の幾つかを観る事が出来る。


◆2006年5月8日よりスタートした「日歌」が千首を超えたのを機に、「游歌」とタイトルを変えて、2009年2月中旬より再スタートしました。◆2011年1月2日からは、楽歌「TNK31」と改題してスタートすることにしました。

「ジグソーパズル」  自作短歌百選(2006年5月~2009年2月)





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最終更新日  2018.06.27 11:46:09
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◆2006年5月8日よりスタートした「日歌」が千首を超えたのを機に、「游歌」とタイトルを変えて、2009年2月中旬より再スタートしました。
◆2011年1月2日からは、楽歌「TNK31」と改題しました。
◆2014年10月23日から「一日一首」と改題しました。
◆2016年5月8日より「気まぐれ短歌」と改題しました。
◆2017年10月10日より つれずれにつづる「みそひともじ」と心のさんぽに改題しました。
◆2019年6月6日より 「歌とこころと心のさんぽ」に改題しました。
「ジグソーパズル」  自作短歌百選(2006年5月~2009年2月)

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