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2007年03月04日
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カテゴリ: カテゴリ未分類
最近は色々書き物が増えてきて、家に居る時はずっとパソコンの前でカタカタやっているようになってきました。本当はあまり健康に良くないんでしょうけど、すっかりライフワークになってしまいましたので今更止められないですね

ところで人生で今まで関わった文字数って一体どれ位なんですかね?そもそもまず一日に目にする文字量ってどれ位なんでしょう?少なくとも情報化社会と言われて久しい昨今、有形無形の情報が多数飛び交って、一日に接する文字の量は昔に比べて爆発的に増えているのでしょうねびっくり

この小説もなんだかんだで終わる頃には8万文字は突破しそうな勢いです。一太郎に付属のカウンターで確認してみました。短編のつもりで書き始めたのにちっとも短編ではなくなってしまいましたね。もうすぐ終わるだろう、もうすぐ終わるだろうと思いながらもダラダラ伸びていってます。この悪癖は直さないといけないですね

さて、今日は日曜なので小説の日です。前回までの分は毎週日曜のブログを参照してください。前回までの分が読み辛い場合や余りにも長過ぎて過去の話を忘れてしまった場合は下記のまぐまぐバックナンバーの方でも本文のみ公開していますのでご確認ください(リンク先の画面上部「前のページ」で過去の作品に遡れます)。

↓メルマガ「短編小説家」のバックナンバー
http://blog.mag2.com/m/log/0000169503/

そして来週は友人の結婚式に参加するため長崎へ行って来るので小説はお休みします。予めご了承ください。


正義のみかた

※この作品はフィクションであり、実在する、人物・施設・団体とは一切関係ありません。

第二十八章 白装束で挑む戦い

被告人質問の段に入ると、非常に不謹慎な言い方になるかも知れないが、どの裁判でも真打ち登場という感じで法定内の空気は大なり小なり変わる。その変化の度合いは事件の深刻さ、被告人の特異さに比例する。今回は少年による殺人であるから双方の条件を満たしていると言って良い。傍聴席を埋め尽くした聴衆もこれからが本番とばかりに各々居住まいを正している。



堂々としている、という表現は変な誤解を招くかも知れない。しかし敦君はここでも雄三氏を真似るかのように背筋を伸ばし、全てを受け入れる覚悟を決めたようであった。

最初は我々弁護側からの質問である。
「えー、これから質問を始めるわけですが、最初に何か言っておきたい事はありますか?」
いきなりバトンを回すのもどうかと思ったが、今まで裁判の流れを見ていた敦君の思うところを聞いてみたかった。裁判慣れしていない、特に人格形成すら完全ではない少年の発言に自由な裁量を与えるのは危険でもあったが。

目線を宙に向け、敦君は言葉を選んでいるようであったがすぐに口に出した。
「すいません。まずは自分がやった事でこれだけ多くの人々に、特に若葉さん親子には取り返しの付かない事をしてしまいました。謝って済むことでない事はわかっていますが、今は謝ることしか思いつきません。すみません。すみません」
頭を下げながら繰り返される謝罪の言葉。しかし検察側、裁判官を含めて大人達は冷めた感じであった。彼らには「謝って済むのなら警察はいらない」というセリフがしっくりくるだろう。裁判ではよくある光景だから。その裁判の心証さえ良くすれば刑は軽くなるかも知れない。そう思う被告人の何と多いことか。

私は敦君がそこまで計算してやっているとは思っていない。心から反省をしているはずだ。それは彼の心の中のピュアな部分、純粋な部分を数度の面会を通してわかっている、わかっているつもりだからだ。一方で弁護人の立場的には計算してでもやって欲しいという気持ちもある。当然その後の弁護に有利になるからだ。

敦君の言葉が止むのを待って「それでは」と質問を切り出した。今回の質問で通らねばならないチェックポイントは殺害が故意でなかった事を証明する点。計画性のなさに関して立証しなければならない。
「5月10日に若葉幸恵さんの跡を付けて若葉さん宅に押し入り、若葉幸恵さん、来未ちゃんを殺害してしまった事に関して間違いないですか?」
「・・・間違いありません」

「街で見かけたあの人が自分の母親にそっくりだったので」
「そっくりというのは母親と違う人物と思って?それとも母親だと思った?」
「あの時は・・・最初は母親だと思いました。もう何年も会っていないし、遠くから見て雰囲気とか感じとかで」
「それは偶然?それとも以前から目を付けていたのですか?」
「偶然です。たまたま駅前から連れと一緒に何か食べようかとファミレスに向かう途中で見かけて」

「丁度その時子供を連れていて、楽しそうに笑ってて。それを見てすごくイライラしたんです。自分達を捨てて別の男のところに行って、楽しそうに生活している母親が。あの人の中では自分の存在なんて過去の話で、すっかり忘れて幸せそうに。人生をリセットして、自分達の事は裏切って」
「母親ではないと気付いたのはいつですか?」
「若葉さんの家に入ってからです」
「何故母親でないとわかったのですか?」
「その時に初めて間近で顔を見て」
「お母さんではないとわかった。しかしそこで何故帰らなかったんですか?」
「・・・何故だか自分でもわかりません。その時はカーッとなってて、なんというか自分でも抑えが効かないというか・・・」
少しずつだが敦君の反応は明らかに悪くなっていった。一旦質問を切り替えて少し流れを変えようかとも思ったが、次には検察側の被告人質問が待っている。相手はあの美方氏だ。容赦ない質問責めが待っているだろう。そんな小手先のテクニックで今を乗り切るよりも、今の内に真実を話させて、向こうにパイを取られるのを防ぐ方が有効だと思った。だから私は敢えて今回の質問の核心部分に触れてみることにした。
「母親だったら殺すつもりだったんですか?」
「・・・」
敦君はとうとう黙り込んでしまった。私はもう一度問いかけた。
「どうですか?」
「・・・」
私は内心不安であった。判断を誤ったか?やはりワンクッション置くべきであったか?しかし彼には真実だけを語ってくれれば良いのだ。私が望むべき答えは勿論「殺すつもりなどなかった」というセリフだ。衝動的に犯してしまった罪であり、そのように意識してはいないという答えだ。しかし敦君は逡巡していた。
「どうですか?」
もう一度問いかけたがやはり黙ったままだ。
「裁判長!これは黙秘権の行使であるととって良いのではないでしょうか?」
美方氏が呼びかけた。傍聴席がざわめいた。弁護人の被告人質問で黙秘権の行使だなんて前代未聞だ。何故なら弁護人は被告にとって有利に発言を取り出すべく動いているのであり、予め質問の趣旨も打ち合わせているのが常であるから。ただ私は質問の打ち合わせなどしなかった。そんな事をしなくても真実だけで裁判を進め、そして敦君を弁護したかった。彼に本当に刑罰を低く抑える権利、それに見合うだけの価値がない場合にはどんな結果が出ても諦めるしかないと思っていた。しかし今はそれが裏目に出ていた。額に汗が滲んだ。それは決して空調の効きが悪いせいではなかった。





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Last updated  2007年03月04日 20時29分08秒
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