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cozycoach @ Re:徳川忠長 兄家光の苦悩、将軍家の悲劇(感想)(11/20) いつも興味深い書物のまとめ・ご意見など…
2021.02.13
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 ”牡蠣の森と生きる 「森は海の恋人」の30年”(2019年5月 中央公論新社刊 畠山 重篤著)を読みました。

 本書は、読売新聞朝刊に2018年12月17日から2019年2月9日まで掲載された「時代の証言者・森は海の恋人」全36回の原稿を加筆、再構成したものです。

 対談の聞き手の鵜飼哲夫さんは1959年生まれ、中央大学を卒業し1983年に読売新聞社に入社、1991年から文化部記者、現在、読売新聞東京本社編集委員を務めています。

 ウサギや野鳥が友だちだった幼少期、父の仕事を継いで養殖に励んだ若き日々、森に目を向けるきっかけとなったフランスへの旅などを語っています。

 そして、すべてを津波が押し流した東日本大震災、そしてそれを乗り超えるまでを一気に語り下ろしています。

 「森は海の恋人」は2009年に気仙沼で設立されたNPO法人の名称で、環境教育・森づくり・自然環境保全の3分野を主な活動分野とする特定非営利活動法人です。

 さまざまな環境問題が深刻になりつつある現在、自然環境を良好な状態にできるか否かは、そこに生活する人々の意識にかかっています。

 そこで、自然の雄大な循環・繋がりに焦点を当てた事業を展開し、森にあって海を、海にあって森を、そして家庭にあって生きとし生けるものすべての幸せを思える人材を社会に提供しつづけたいといいます。

 畠山重篤さんは1943年中国・上海生まれ、養殖漁業家で、現在、京都大学フィールド科学教育センター社会連携教授を務めています。

 父親は会社員でしたが、第二次世界大戦終戦後、故郷の舞根、現、宮城県唐桑町へ戻り、牡蠣養殖を始めました。

 宮城県気仙沼水産高等学校卒業後、家業である牡蠣養殖を継ぎ、北海道から種貝を取り寄せて宮城県では初めて帆立の養殖に成功しました。

 牡蠣は、ウグイスガイ目イタボガキ科とベッコウガキ科に属する二枚貝の総称です。

 海の岩から「かきおとす」ことから「カキ」と言う名がついたといわれます。

 古くから、世界各地の沿岸地域で食用、薬品や化粧品、建材の貝殻として利用されてきました。

 約2億9500万年前から始まるペルム紀には出現し、三畳紀には生息範囲を広げました。

 浅い海に多く極地を除き全世界に分布し、時に大規模に密集した漏斗状のカキ礁の化石が出土することもあります。

 着生した基盤に従って成長するために殻の形が一定せず、波の当たり具合などの環境によっても形が変化するために外見による分類が難しいです。

 雌雄同体の種と雌雄異体の種があり、マガキでは雌雄異体ですが生殖時期が終了すると一度中性になり、その後の栄養状態が良いとメスになり、悪いとオスになるとされています。

 畠山さんは、牡蠣の森を慕う会、現、「特定非営利活動法人森は海の恋人」代表で、『森は海の恋人』『リアスの海辺から』『日本<汽水>紀行』(日本エッセイストクラブ賞)などの著書があります。

 日本は高度経済成長期を迎えていた1964年頃から、舞根を含む気仙沼湾沿岸では生活排水で海が汚染されて赤潮が発生するようになりました。

 それに染まって売り物にならない血ガキ の廃棄を余儀なくされ、廃業する漁師が続出するようになりました。

 子供の頃に山も歩き回った畠山さんは、陸にも原因があると感じていなした。

 確信に変わったのは、1984年のフランス訪問で、磯に魚介類が豊富で河口の街で稚ウナギ料理が出されたのを見て、ロワール川を遡ると広葉樹林があったのを目の当たりにしました。

 当時、気仙沼湾に注ぐ大川には水産加工場の排水が流れ込み、上流部では安い輸入木材に押されて針葉樹林が放置されて保水力が落ち、大雨で表土が流されていました。

 畠山さんが上流での森づくりを呼び掛けると、漁師仲間70人程度が賛同しました。

 地元の歌人熊谷龍子さんが発案した「森は海の恋人」を標語にしました。

 熊谷龍子さんは1943年気仙沼生まれ、宮城県鼎が浦高等学校、宮城学院女子大学日本文学科を卒業し、1967年「詩歌」に参加して前田透に師事した歌人です。

 当時の活動に対しては、外部からは活動への批判・疑問も寄せられたほか、大川上流が岩手県という行政の縦割りも障害になりました。

 母が新造漁船用にと貯めていたお金も使って北海道大学教授に科学的調査を依頼したところ、気仙沼湾の植物プランクトンなどを育む鉄、リン、窒素などが大川から供給されていることが実証されました。

 環境保護機運の高まりもあって、大川上流の室根山、現在の矢越山への植樹運動が広がり、小中学校の教科書にも掲載されました。

 2011年の東日本大震災では母親が死去し、津波で漁船や養殖用筏が流出しましたが、植樹祭は上流の住民らが継続し、養殖業も息子らが再開させました。

 畠山さんは四半世紀に渡り、2万本以上の木を植えてきました。

 本業の時間を割いて植樹を続けるのは手間がかかる上、効果が現れるのは50年後です。

 養殖業は、生物を、その本体または副生成物を食品や工業製品などとして利用することを目的として、人工的に育てる産業です。

 古代ローマではカキが養殖されたほか、資産家の投資先の一つとして養魚池の経営があったといいます。

 養殖するためには対象となる生物の生態を知る必要があり、安定した養殖技術の獲得までには時間がかかります。

 魚介類に関しては、卵あるいは稚魚・稚貝から育てることが多いです。

 反面、飼育親魚からの採卵と管理環境下での孵化を経た仔魚および稚魚の質と量の確保が困難な魚種の場合、自然界から稚魚を捕らえて育てる蓄養が行われます。

 養殖には、漁の条件や捕獲環境を管理できることで、捕獲時のダメージによる劣化を防ぎ時間やエネルギーなどの各種コストを抑えられます。

 また、魚種によっては天然環境に比べ成長が早めることが技術的に可能であることなど、明確なメリットがあります。

 魚が逃げ散ったりしないように管理して、給餌や漁獲を容易にするため、海の沿岸域や淡水の湖沼などに様々な施設が作られます。

 魚介類の種類に合わせて、海面生け簀や筏、養魚池などが使い分けられます。

 海水魚の一部は、海水の水質を保って内陸部で育てる閉鎖循環式陸上養殖が可能になっています。

 東日本大震災の津波で、畠山さんの養殖場は壊滅的な被害を受けました。

 中でも、畠山さんの養殖にとって命ともいえる舞根湾の海中には、瓦礫や泥が降り積もりました。

 そうした状況にもかかわらず、畠山さんは、養殖を再開させることを決めました。

 根底には、半世紀にわたり海と共に生きてきた男の「海を、信じる」という信念があったといいます。

 1960年に三陸を襲ったチリ地震津波では、畠山さんは地震後、驚異的な早さで成長するカキを見たそうです。

 1965年以降、赤潮が頻発するようになった気仙沼の海が、長い時間をかけて元の姿を取り戻していくのを経験しました。

 海を恨んではいない、海は必ず戻ってくるからといいます。

 あらがいがたい自然と向き合う時、立ち向かうのではなく、受け入れ信じます。

 そして、自分が今できることを精一杯やることが大切だと畠山さんは考えています。

 舞根湾は天国のような海で、300km近くつづく三陸リアス式海岸の真ん中あたり、宮城県気仙沼の地にあり、沖合にある大島か天然の防波堤となっていて、とても静かで深い海です。

 湾には二本の川か流れ込み、森からの養分が運ばれ、牡蠣の養殖には絶好の漁場です。

 沖に出ると遠くに見える台形の山が室根山で、山測りといって、漁師か位置を確認し、天候を予測するための大事な山です。

 「森は海の恋人」の活動は、室根山での植樹から始まりました。

 漁師が山に木を植え、海を豊かにする活動「森は海の恋人」を始めて、2018年で30年となりました。

 植樹したブナ、ナラなど広葉樹は約5万本となり、体験学習にやってきた子どもは園児から大学生まで1万人を超えます。

 海と川、そして山をひとつながりの自然として大切にする実践は高く評価され、2012年に国連の「フォレスト・ヒーローズ(森の英雄たち)」に選ばれました。

 あの過酷な津波でも、海に恵みをもたらす森や川の流域の環境は壊されず、海はよみがえり、牡頼養殖も復活しました。

 日本全国には大小3万5千もの川があり、それか森の養分を運び海を育んでいます。

 川の流域か豊かであれば、この国の未来は間違いありません。

 2018年10月に75歳になった「牡礪じいさん」ですが、じいさんになっても牡蠣は先生です。

 カンブリア期に誕生し、人間の生活から出たものか流れてくる河口に棲息する牡礪は、人間の歴史を全部知っています。

 だから、わからないことか起きたら、牡頼に聞けばよいといいます。

1 牡蛎じいさんの半生記(少年時代/必死の日々/漁師が山に木を植える/プランクトンは生きていた)/2 折々のエッセイから(森は海の恋人(「第2回地球にやさしい作文」通産大臣賞、一九九二年)/森は海の恋人(『中学国語3』収載、1997~2005年度)/津波はもう結構(2010年5月)/蝋燭の光でこの手記を書く(2011年5月)/『牡蛎と紐育』書評(2012年3月)/豊かな森が海を救ってくれた(2016年4月)/沈黙の海からの復活(2019年3月)





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Last updated  2021.02.13 08:03:03
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