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cozycoach @ Re:徳川忠長 兄家光の苦悩、将軍家の悲劇(感想)(11/20) いつも興味深い書物のまとめ・ご意見など…
2022.06.18
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 ”「やりがい搾取」の農業論”(2022年1月 新潮社刊 野口 憲一著)を読みました。

 社会になくてはならないインフラで重要性については誰もが認める農業について、これまでの単なる食糧生産係から脱して、社会的な価値ある産業とするための成長戦略を考えています。

 農家が高い収入を得て、自分の仕事に自信を持ち、社会に尊敬されるにはどうしたら良いのかという問いは、ずっと切実なものであり続けているそうです。

 農業は儲からない職業だから不幸である、と言いたいわけではありません。

 たくさん儲けている農家も少なからずありますし、世界を見てみても、日本の農家より厳しい状況にある農家はいくらでもあります。

 農作業の省力化も進んでいて、農業基本法が推し進めた農業近代化を象徴するトラクターを筆頭に、農業機械の普及は農作業の辛さや大変さを大幅に改善させました。

 近年では、センサーやカメラなどを用いて農家の感覚器官を補ったり、ビニール施設内での環境制御を行ったりするスマート農業が流行しています。

 農業界でも働き方改革が求められており、長時間の農作業なども次第に緩和されつつあります。

 最近では、アパレル業界の農作業着への参入により、オシヤレな農作業着も増えました。

 本書で言うところの価値とは、お金、すなわちその農業を通して得られる経済的な利益だけを言うのではありません。

 生産物である農産物の価値、農業という職業や産業に宿る尊厳、威信、そして自分自身の自信や職業イメージ、最終的には農業という営みの背景にある文化的な価値までを含みます。

 いまや食余りの時代であり、単なる食糧生産係から脱し、農家が農業の主導権を取り戻すためには何をすればいいのでしょうか。

 野口憲一さんは1981年茨城県新治郡出島村、現かすみがうら市生まれ、株式会社野口農園取締役です。

 株式会社野口農園はレンコン1本5000円で販売し、ニューヨークやパリなどのミシュラン星つきレストランに納入する等、レンコンのブランド化に成功しています。

 日本大学卒業後、実家のレンコン生産農家を手伝いながら、大学院で民俗学・社会学の研究を続け、博士(社会学)を取得した異色の民俗学者でもあります。

 2012年に日本大学文理学部で助手を務め、2013年から恵泉女学園大学や日本大学で非常勤講師を務め現在に至っています。

 民俗学と社会学の研究に加え、実家のレンコン栽培や販売を通して、農業の価値向上のためにも奔走しています。

 かつてお米には七人の神様が宿ると言われたりしましたが、日本の主食である米もいまや単なる食材の一つとなりつつあります。

 地域社会が保持していた稲作に関わる民俗なども消失しつつある昨今、その文化的な価値も年を追うごとに摩耗しているといいます。

 日本社会の食糧生産係の役割をふられた戦後の農業界では、豊作貧乏が常態化していました。

 どんなに需要が多くても、生産物の質を上げても、生まれた価値は農家の手元に残らなかったのです。

 いつまでも豊作貧乏、キレイゴトの有機農業、単なる食糧生産係から脱し、農家が農業の主導権を取り戻すためには何をすればいいのでしょうか。

 おしゃれな農作業着のイメージ方法論は、農業のイメージを表面的な見た目を改善する必要があるといいます。

 ポルシェを乗り回す農家、農作業のつらさを軽減するトラクターやコンバインの導入、スマート農業や植物工場へ展開する方法論、効率性や経済合理性にあった農業などの方策もあります。

 でもこの方法が、農業の本質的価値向上になるのでしょうか、むしろ、農業の価値を毀損するのではないでしょうか。

 ある意味では、消臭剤を撒くことで本質を覆い隠すようなことが多いのではないでしょうか。

 農水省の提唱しているスマート農業という言葉は、かっこいいみたいで、それ以外の農業は、野暮ったくて馬鹿で愚鈍でカッコ悪いと思われています。

 日本の農家は、高品質な農作物を作ってきたにも関わらず、ほとんど社会からの価値を認められていません。

 プロの農家として、自分の仕事に対して自信を持ち、自己実現を果たし、仕事それ自体が社会から尊敬され、かつ高い収入を得るためにはどうするのでしょうか。

 そして、持続的に身近な自然環境を守り、自然の大切さを伝えるという社会的な使命を帯びています。

 現在、農業という職業の社会的な役割は食糧生産係です。

 しかし、著者は、農家が単なる食糧生産係に止まらず、農業という職業に社会的な尊敬が集まり、やりがいをもって取り組めるような社会を構想したいといいます。

 そのための一番の近道は、農家が生産している農産物を高く売ることです。

 職業の威信の高さや社会からの尊敬は、その職業が産み出す商品やサービスの値段に直結するからです。

 そして、その高付加価値化は他の産業の力を使わず、農家にしかない特有の能力をもって成し遂げることが重要です。

 著者はレンコンを1本50000円として、農産物ラグジュアリーブランドとして販売します。

 それは価値があるから高いのでなくて、高いから価値があるのです。

 農業の価値という大きな農業の連綿たる続いてきた価値の物語をかたることで、農業としての矜持を持とうとしています。

 価値とはお金だけでなく、生産物である農産物の価値、農業という職業や産業に宿る尊厳・威信、そして自分自身の自信や職業イメージ、農業の営みの背景にある文化的な価値です。

 ある意味では農水省が農業の価値に気がつくべきだと言っています。

 有機農業は、有機農法、有機栽培、オーガニック農法などとも呼ばれ、化学的に合成された肥料や農薬を使用しないことと、遺伝子組換え技術を利用しないことを基本としています。

 農業生産に由来する環境への負荷を、できる限り低減した農業生産の方法を用いて行われる農業です。

 近年ではハイテク機械を用いたスマート農業どころか、完全に外部環境を遮断してフルオートで野菜を生産する植物工場が流行しています。

 スマート農業はロボット技術やICT等の先端技術の活用して、少人数で多数の圃場を的確に管理する技術です。

 一見、均一にみえる圃場において、空間的、時間的に気温土壌肥沃度や土壌水分がばらつく事を前提として、それを認識して制御することで収量等を改善を目指します。

 植物工場は内部環境をコントロールした閉鎖的または半閉鎖的な空間で、野菜などの植物を計画的に生産するシステムです。

 ビル内などに完全に環境を制御した閉鎖環境をつくる完全制御型の施設から、温室等の半閉鎖環境で太陽光の利用を基本として、太陽光利用型の施設などがあります。

 しかし、こうしたやり方は農業の本質的な価値向上とは何一つ関係がないばかりか、むしろ農業の価値を棄損する方法論なのではないかと考えるようになったそうです。

 農業の本質的な特徴を軽視し、時には隠そうとする方法論であると気づいたからだといいます。

 農家に一時的な幸せをもたらすかもしれませんが、結果的にはむしろ農業のマイナスイメージを強化してしまうのではないでしょうか。

 近代的な農業経営が取り入れられて以降、農家固有の技術の経済的価値は、農家の手に落ちることはなく、ずっと外部に流出し続けているからです。

 これまで農業の技術と呼ばれるものは、農学はもちろんとして、機械メーカーや肥料メーカー、そして種苗会社や製薬会社によって支えられてきました。

 農家が発見したものであっても、それは知識として農学に吸い取られ、クレジットは農家の手には残りません。

 結果として、農産物を生産する一農家が、自身の卓越した能力を待った職業人として社会に認められる余地はほとんど存在しません。

 このような時代において、農家が自分の職業に対する誇りと自信を取り戻し、外部に流出している価値を自ら保持するにはどうすれば良いのでしょうか。

 著者は農家としての立場の他に、社会学で博士号を獲得した民俗学者の立場としても活動しています。

 民俗学とは、自分自身の足下にある身近な問題についての歴史的・文化的・現代的な背景を探る学問です。

 本書では、農業経営に関わる農家としての活動、そして日本各地の農家を調査してきた民俗学者としての蓄積をすべて注ぎ込み、日本の農業が目指すべき方向性について考えてみたいといいます。

はじめに/第1章 構造化された「豊作貧乏」/第2章 農家からの搾取の上に成り立つ有機農業/第3章 植物工場も「農業」である/第4章 日本人の仕事観が「やりがい搾取」を生む/第5章 ロマネ・コンティに「美味しさ」は必要ない/第6章 金にならないものこそ金にせよ/おわりに/参考文献

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Last updated  2022.06.18 07:15:59
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