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魔法界の王女姫、カーラには
ひとりの娘がいた。
訳あって人間界で生まれ育ったが、
もしカーラがこの子を残して、事故で死ぬようなことがなければ、
彼女は母を師として魔術を学び、
その力を開花させる事は容易だったのかもしれない。
これは、真矛が生まれる前の、愛の物語。
【カーラ1】
カーラはまた、ここに来ていた。
人間の若者が集う、この街に。
「ねぇ、リカム。あの方にまた、会えるかしら」
カーラの、乙女らしい不安そうな問いかけに答えるべく、
リカムは自分の胸に押し当てた手を、
カーラに差し伸べた。
それは魔騎士の忠誠を誓うポーズ。
正式には片ひざを地につき、あわせて魔剣を水平に捧げるのだが、
今は剣を持っていないし、
第一ここでそれをやるには、いささか目立ちすぎるのだ。
「はい。姫様がそう願うのであれば、きっと」
そう答える彼の濃い瞳には、
強い意志と、
生涯をかけてお側に仕えるものとしての、
深い忠誠心が見て取れた。
その答えを聞いたカーラは花のように微笑み、
日に焼けた大きな手をとり、リカムの腕に回り込んだ。
そして人にぶつからないように慎重に歩き出し、
人ごみに紛れこんだ。
カーラがこの前つけてきた、
他の人には見えない目印を頼りにしばらく行くと、
やがて間口の狭い店が立ち並ぶ一角に出た。
カーラがリカムを引っ張るようにして、
小さな雑貨ショップの前で、立ち止まった。
「リカム。あの方に助けられた場所は、
確かこの辺りだったわ……」
やや顔を上げ、遠くを見つめるようにして立つ。
長い髪が風に流され、見え隠れするその横顔は、
光を集めたかのようにみえた。
誰の目にも、凛々しい青年と美少女の、
微笑ましいカップルに映っているのだろう。
道行く人々が羨ましそうに振り返りながら、通り過ぎていく。
名前を呼ばれたリカムは、
着慣れない人間界の薄い服を通して、
しっかり組まれた腕と体から、
おのれの心の動きが伝わってしまうのではと、気になった。
とっさに店の品に興味があるふりをして、
店の外に並ぶ一番手前にあった品を手に取ると、
その用途不明の小さなガラス細工を、
わざと裏返してみたりした。
「全く人間というものは、
こんなにたくさんの道具がなくては暮らせないなんて、
なんと非合理な生き物だろう。
そんな人間に、なぜ姫様が興味を持つのか、
私には理解できない」
二人の考え方の違いに気付くと同時に、
どんなに慕っていても越えられない、
身分の違いを重ね合わせて、
リカムは唇を噛んだ。
(つづく) 【次へ】
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