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春
春の訪れ <4>
今年の春が例年になく美しく 春 に感じられたのは、
幼馴染の 雪 の婚礼が控えていたからかもしれなかった。
冬の時期から、雪の婚礼の準備は着々と整えられていった。
雪の父が繁華な町に出かけ戻ってきた折には、
村の誰にとっても、話だけは小耳に挟んでいたが・・・
っというような美しい細工が施された品が、村へもたらされた。
春は、この農村に月に一回やってくる男や女の物売りが広げる品でさえ、
自分には眺めるのも勿体無いほどに無縁の品とは承知してはいたが、
感興をそそられて、ついつい足を近づけ、目をやらずにはおられなかったのだった。
しかし、雪の父が娘のために手に入れた品々は、それらのものとは比較にならないほどに
素晴らしい品であることが、細工のことなど全く分かりもしない春の目にも明らかであった。
ふと・・・、雪の婚礼衣裳に目をやると、
衣裳の袖には、雪のでも、誰の腕でもなく、ただ風が通されているだけなのに、
それは、若く整った、しなやか、艷やかな、滑らかな女の体と肌を包み込み、
流れるように佇んでいる錯覚を春に与えていた。
花嫁道具にしても、花嫁衣裳にしても、柔らかなひだまりの中で、
新たな夫婦(めおと)生活の美しい彩(いろどり)として、
初々しい花嫁の傍らに置かれるのを、待ち兼ねるかのように、
もう既に、ここ・そこへと、優美な気品を匂わせていたのだった。
幼馴染の中でもとりわけ春と親しかった雪が嫁いでしまうことによって、
春が心寂しく感じていることは否めなかった。
雪はとなり村などに嫁ぐではなし、
彼女の親戚筋の同じ村の男の元に嫁ぐことになっていたので、
春の心が打ちひしがれることはなかった。
数年したら今度は雪の腕に、まん丸な林檎のような頬を乳で膨らませた、
嬰児(みどりご)が抱(いだ)かれているのだろう・・・
そんなことが、ふと想い浮かんで来ると、
春の心は寂しいどころか、暖かくもなっていたのだった。
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