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春の訪れ <9>
春は、しばし言葉を発するのを止めようか・・・っと想ったのだが、
晋吉の様子をみると、彼は己の言葉をうるさがっているどころか、
耳を澄まして聴き入っているようにみえたので
さらに、言葉を続けたのだった。
ここに誰かが居るのに気付き、
それが村医者の坊、あのお屋敷の人だ!っと思った時から春は、
頭と心の中に、次から次へと清水のように
いろんな事柄が湧き上がってきたのだった。
”春はひどく痩せておるよな。。。?病人のような気味の悪い白い顔をしとるか?
春の顔を見るものは皆、口を揃えてそんなことを言うのじゃ。
みたところ 村医者さんの坊 もあまり顔の色は良くないようだが・・・”
っと問う春のひどく真剣な表情から、
この事柄に関しては是が非でも、
将来の村医者の答えをどうしても聞かねば気が済まぬ
っという彼女の強い想いを感じた晋吉は、
”色白は七難隠す・・・とかいうて、
白い肌は綺麗なおなごの証ではあらぬのか、?
己の姉はどこかへ出かけるときは、
少しでも白くしようと、顔に粉のようなものをたーんと塗っておるぞ。
おなごの肌とは、白いものではなかろか。”
晋吉は、やっとこれだけのことを発することができたのだった。
その言葉を聞き春は、はにかむように笑うと、
直ぐにまたこう言葉を続けた、
”兄さん、名はなんと?姿を、あまり見かけぬな・・・
兄さんも、あの子らとは遊ばぬからな。”
春は、父ちゃんと、母ちゃんに習って、すこ~~しばかり字は読めるが
書は読めん、まったくわからん。
村医者さんが、父ちゃんと母ちゃんにゆっとったよ、
有難いことに、孫は医者になって当たり前だ、と想っているようじゃ、
年の割に、落ち着いておって、良く見、良く聞くことができるから、
医者に向いておる・・・っとな。”
”己の名は 晋吉 じゃ、春・・・”
っと言って
晋吉の身体にはまた、熱いものが走り抜けたのだった。
己の口から 春 という名が突いて出てきただけであったのに、
ひどく乱れた心を意識し、
この己の動揺が、春 に伝わらなければよいが
っと乱れた心で晋吉は想ったのだった。
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