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あの娘の住む「アパート」が見えて来た。人間の言葉は長老グレーから習う。あの二階建ての外にドアがたくさん付いて、それぞれのドアに別の人が住んでいるらしい家は「アパート」と呼ぶんだ。でも、ここは変わっていて、同じような人間の女たちが住んでいる。女たちが、まとめて暮らしている「アパート」らしい。あの娘の部屋は、二階の奥の隅っこだ。僕は、初めてこの「アパート」へ来た時、興味本位に一軒一軒たずねてみたんだ。どの家でも、何か僕に食べ物をくれたけど、かつおぶしの家が、多かったな。でも、のどに、かつおぶしが貼りついて、僕が、カーーーッなんて言ってむせようものなら、皆、笑うんだ。ひどい話さ。かわいい、かわいいなんて言っておいて、苦しみ出したら笑うんだから。あれっ、僕はまた、愚痴ったか。そんなはずない。。。こんなこと、野良にとっては日常茶飯事なんだ。今更、誰かに聞いてもらう程のことでも無いしさ。聞いてくれる奴なんてどうせいないだろうし。何だか今日の僕はおかしい。雲一つない、昼間の照りつける太陽のせいで、頭がボーッとなっているんだ。「にゃーー、にゃーー。」ガリガリガリ...。あの娘のドアに、前足を立ててみる。部屋の中から、かすかに物音がする。きっと、いる。前に来た時は、買い物帰りの彼女の足元から、するりと部屋の中に入ったんだ。彼女は、「キャー、何?」と驚いていたけれど、「黒猫って、そんなに嫌いじゃないのよね。」なんて言いながら、生肉をくれた。買い物袋から、そのまま、バリバリ出してくれたんだ。その時、僕はラッキーだった。調度いい具合に、肉にありつけたのさ。 (三)「あれっ、猫ちゃん、目の色違うね。さっきと。猫ってやっぱり、生肉好きなのか。。。動物園で見た、山猫みたいな顔になったよ。」なんだ。うるさいな。山猫って。また長老グレーに聞く言葉が増えたなんて、あの時は思っていた。グレーによると、えらく大きい猫らしい。でも、グレーも会ったことはないと言っていた。それからは、時々その娘の家に遊びに行くようになった。そうしたら、港で、親父から餌を貰っている僕に、自転車に乗って港を走っていた彼女が遭遇して、彼女のほうから親父に話しかけて来たのさ。なんだ。僕は、もうすでに、キューピッドだ。あの娘が部屋のドアを開けた。「アレッ、クロちゃんだ。どうしたの。」彼女は嬉しそうな声を出したが、すぐに僕の首のリボンに気づいてしゃがみ込んで来た。ああ、ようやく、この首の違和感から解放される。彼女は封筒を開いて、読んで、少し顔を赤らめたが、すぐに顔を曇らせて長い溜息をついた。「クロちゃん。わたしね。就職するんだ。もうじき卒業なの。もっと大きな町でね。ここよりも、もっと都会に働きに行くの。ここも、お引越しして。会えなくなっちゃうよ。無理だよ。」言葉に詰まっていた。僕は待っていた。「クロちゃんとも、お別れだ。だから、今日は奮発するね。牛肉あるよ。和牛だよ。すごいでしょう。」知らないよ。でも、美味しいなら、早くくれ。えっ、青いリボン。嫌だよ。何でまた、巻きつけんの。「この青いリボンの裏に、新しいアパートの住所、書いといたから。斎藤さんなら、このリボン取って、いつか見てくれるよね。すごく遠いから、会えるとは思えないけど。」斎藤さん。ナンだ、それ。親父の名前か。じゃあ、あんたは。君の名前は、何ていうの。「にゃあ、にゃあ...。」「何?もう外に出たいの。つれないなあ。もう会えないかもしれないのに。はい。バイバイ。元気でね。クロちゃん。」パタン。ドアが閉まった。お腹がいっぱいだ。でも、なんか胸がもやもやする。ちょっと、あの公園に寄って、子供たちと遊んでみるか。命がけだが。それにしても、人間から話を聞くばかりなのも悔しい。何とか、こっちの気持ちも知らせてみたいもんだ。あれっ。またおかしな事を、今日は良く考える。太陽が更に傾いて、僕の目がどんどん冴えてきた。あのガキ共との命がけのゲームも、簡単にクリア出来そうだ。あいつら、いるかな。
2006.05.10
親父から託された頼み事を運んでやる僕は、大した律儀者さ。それにしても、少し傾いて真正面から照りつけてくる太陽が、さっきから、まぶしくて仕方ない。新鮮な小あじ一匹分の満腹も、親父の毎度の愚痴のせいで、腹の中で、すっかりこなれてしまった。次はそろそろ、肉が食べたい。親父が好いているらしいあの娘は、いつも生肉を出してくれる。実は、だから運んでやるんだ。首に巻かれた青いリボン。。。親父め。僕には取れそうもない位、手紙をきつく結びつけやがって。チクチク当たるし、ガサガサ音はするわで、気味が悪いったらない。早くあの娘に、取って貰わないと。そして、美味しい生肉に、ありつくんだ。アスファルトの道は、どんどん登り坂になり、人の住む家々と街路樹と小さな畑の混在する、田舎の街並みへと僕を運ぶ。ここは、長老猫のグレーによれば、「若い人間」の多い所らしい。「大学」とかいうものが、幾つかある街らしいのだ。だいたい僕には、人間の区別は、うんと小さな子供か、大人かしか分からない。あと、どんな餌をくれた人かくらいだ。多分、僕の寿命以上の年令は、数える機能が、僕に付いていないんだ。きっと。。。あれっ、これは僕の愚痴かな。思い過ごし、気にしない。。。さっさと、届けに行こう。****集中力、途切れました。。。小休止。wどうぞ、続けて、お読みください。 m(-.-)m
2006.05.10
歩いている。手をつないで。寒いから、くっついている。それだけ。初雪の降った学校までの道を。わたしは手袋をして貴方はしていないから、貴方の、手をつないでいない方の右手が、凍えそうに見える。なんとなく、わたしが気にして覗き込んだら、その右手がワッと伸びて来て、何故かわたしのひたいに、手の平が当てられた。「熱っぽいすかあ。まさか、インフルエンザとか。」「んなワケ、ないよ。ぼーけ。」思ったより冷たくないなあ。ムッとしたフリをしながら、1cm位積もった雪道を進んで行く。今日は、クラスのお別れ会。全員、来ているかなあ。土曜日で学校は休みなのに、担任の溝口が、教室を開けてくれている。溝口も来るのかな。来るよな、普通。もう、受験は全員が終った。来週からは期末。でも、のん気なものだ。こんな感じ。練習問題みたいですが。どうでしょう。(誰に言っとる?)この後、なにかクラス会でミステリーが起こるとか。www名探偵コナンか。もっと心理的なドロドロでも、爽やかでも、なんでも来いって感じだけど。。。このまま、ショートショートくらいに続けられたら、そちらのブログのリンクもつけます。(もしかしたら、この記事は、3時間で削除かああ~~。^o^/)
2006.05.08
「倒れた。」そう聞き返した時、わたしは少し足が震えた。次の言葉が怖かった。どうして今朝コウ君が、無口なのか。どうして、わざわざ神社にお参りに来たのか。「大丈夫、大丈夫。命に別状は無かったから。今は検査で、まだ病院だけど。」コウ君は、無理に笑いながら、そう言った。わたしには、そう見えた。「もう、戻ろうか。結構、ここまで来るのに、時間くってるし。」帰り道は、わたしの方が無言だった。(静江さんは、どうして倒れたんだろう。そう言えば、はなれで会った時も、どこか弱々しく感じられた。)「ずっと、入院するの。」「まだ、分らない。なんにも。」「そうなんだ。」質問すると、すぐに答えが返ってくる。親に話しが通じるまで、いつも時間がかかるわたしには、そんな小さなことが、とても心地良かった。「静江さん、ただの過労だといいね。」「そうだね。」コウ君は、ちょっと淋しそうに笑った。明日には、また、二学期が始まる。 つづく 最後まで読んでくれたら、ポチット1回、押してください。よろしくお願いします。m(-.-)m
2005.12.11
高三の夏休みの最終日、わたし達は、朝コウ君の家から坂を左へ下りて、神社の方へ歩いて行った。 (すごい。本当に、毎日会ってる。変なの。)そんなことを思いながら、朝の透明な空気を膚に感じながら、歩く。わたしの家を出てから、二人とも無言だった。コウ君は少し今日、元気がない。時々視線が、目の前の物を捕えていないように、遠くをさ迷っている。 「あっ。うちのノラだ。」神社への階段を上りきった所で、白と黒のブチの猫が、わたし達の更に先を歩いているのが見えた。 「何、うちのノラって。」わたしが笑うと、コウ君も、今日ようやく初めて、少し顔が穏やかになって、 「ばあちゃんの猫なんだ。」と、ボソっと答えた。わたしは、それでと思って、続きを聞こうと待ち構えているのに、また、コウ君の顔が険しくなってしまい、再び、無言。引っ越してから一年以上たつというのに、この神社へ来るのは初めてだった。ジュース用にポケットに入っていた百円玉二個のうちの一個を (ああ、かなりの奮発だ。)と思いながら、おさい銭箱に投げ入れた。ガラガラ。パンパン。お参りの、いつものパターン。 (どうか二学期も、まともに無事、過せますように。あと、進路がきちんと決まりますように。)まだわたしは、理系のままか、文転するのかも決めかねていた。何しろ、おかしな理由で入った理系クラスだったので、数学や物理を余分に習うかわりに、読書するほうがマシかもしれないと思っていたからだ。高二で転入試験を受けさせられたおかげで、そこまでの復習は逆に済んでいるということもある。どこかのんびりしていた。コウ君は、わたしがお参りを止めても、まだ手を合わせたまま、何か祈っている。コウ君が祈った両手を下ろした時、わたしの方へ向き返って、言った。 「ばあちゃんが、昨日倒れた。」 つづく 久しぶりに急に書きたくなりました。覚えていてくれましたか。(笑)^o^/最後まで読んでくれたら、ポチッと1回、ブログランキングを押してください。よろしくお願いします。(ああ、この台詞も久しぶりな気がします。♪)ほんとに、忘れちゃったという方は、カテゴリの「自作の小説」で、葉子とコウ君に出合ってやって下さい。m(-.-)m
2005.10.15
コウ君は、予備校には通っていなかった。全く、大胆にも、連絡も無しに、朝の六時頃、わたしの部屋の窓の所に直接来て、コツコツと窓をたたいた。わたしは、隣の部屋の庭に通じる大きな窓から、庭に出て、サンダルをはいて、コウ君のところまで、歩いて行った。夏休みの間中、朝、こうして二人で会うのが、当たり前になっていった。近所をぶらぶらと歩いた。坂の反対側へも、下りて行ったりした。コウ君は、親に内緒で、美大の予備校に通い始めていた。静江さんが、やはり、応援してくれていたようだ。帰りは、ラジオ体操に行く小学生に、目撃されたりする。 「もう、色んな人に、二人でいるとこ見られたね。」 「いいよ、別に。俺は。」 「じゃあ、今夜の花火大会、クラスの子たちから誘われてるけど、コウ君と行くからって、断っていい?」一瞬、ひるんだ。面白い。 「いいよ。一緒に行こうか、二人で。」ちょっと挑むように、言い返して来た。母は、夜なのにと言って反対したが、結局、浴衣を着るのを、手伝ってくれた。カラコロと、下駄を鳴らして、玄関先に立つと、コウ君がもうすでに、そこに居て、驚いた顔をして、わたしを見つめていた。 「おまえ、それで、どうやって、駅まで歩くの?」 「へっ?」ああ、そうか。早足で行っても、駅までは、10分はかかる。こんなペースで歩いていたら、駅に着く頃に、二人ともクタクタだ。 「ったく。ちょっと待ってて。自転車取って来る。」コウ君は、坂を走って行って、いつもの自転車に乗って戻って来た。 「ほら、座って。下りだし、立ちこぎするから。世話かかんな。全く。」浴衣姿を、お世辞でも誉められると思っていたわたしは、かなり、へこんだ。 「下駄、どうしよう。落ちそう。」 「じゃあ、手で持ってれば。それより、自分が落ちないように、どうにかしろよ。」 「えー。」横座りをして、両手でサドルを、ぎゅっと掴んだ。 「うわっ。」サーッと、風を切って、自転車がいきなり走り出した。下駄を入れたビニール袋と、バックと、コウ君の背中と。頭の中が、真っ白になってる所へ、コウ君のこんな言葉が、なんとか聞こえて来た。 「バイクの時は、ちゃんと、つかまれよ。絶対、おっことすから。」コウ君は、わたしを笑わせるのが、上手い。パニックが少し止んで、途中で出会ったクラスの子たちの驚いた顔にも、笑顔でいられた。結局、駅で合流して、仲間全員で花火を見たけれど、海に上がった、たくさんの花火よりも、サドルにしがみついていた時見た、目まぐるしい景色の方が、その日のわたしの心には、存在が大きかった。帰りは、流石に、クラスの女の子たちと、お喋りしながら帰って来た。もう、サドルを必死で掴む、体力も気力も、残っていなかった。 つづく ああ~、今日は、もうこれで、おしまいです。ポチット1回、押してください。よろしく、お願いします!m(-.-)m
2005.09.29
高三の夏休みの大半は、退屈に過ぎて行った。女友達三人で、何となく通い始めた某有名予備校の夏期講習に、忙殺されていたからだ。コウ君と静江さんのはなれに、初めて行ったあの日、帰り際に静江さんの部屋のドアをそっと開けると、庭の見える窓際のベッドから、静江さんの、規則正しい、安らかな寝息が、聞こえて来た気がした。 「ばあちゃん、よく、眠ってるワ。」ちょっと残念そうに、コウ君はそう言って、ドアをまた静かに閉めた。本家の玄関まで送って貰って、もう大丈夫だからと言いながら、ひとりで歩いて帰ろうとしたら、 「いいよ。送ってくよ。」と言って、コウ君が付いて来た。 (あはは。急になついちゃって。)お互い様かと思いながら、気になっていたことを、聞いてみることにした。 「親の人たちと、もめてるって、どうして。」 「うーん。」 (しまった。気安く、聞くようなことじゃ、なかったかな。) 「おまえ、口堅い?」 「えっ。言わないよ。言って欲しくないことなら。」コウ君は、一呼吸置いてから、また、話し始めた。 「俺、美大に行きたいんだ。でも、親は家業を継がせたくて。だから、反対されてるわけ。今、賛成してくれてるのは、ばあちゃんだけ。はなれでなら、好きなことできる。葉子ちゃんと、あんなことも。」 「はあっ?」わたしは、軽く、つき飛ばしてやった。 つづく 最後まで、読んでくれたら、人気ブログランキングをポチット1回、押してください。よろしく、お願いします。m(-.-)m
2005.09.29
しばらく無言で、抱き合っていた。どの位、時間がたったか、良く分からない。二人とも座ったままで、わたしはコウ君に、左腕だけ回していた。コウ君は両腕で、抱きしめてくれていた。不安定な態勢だったから、わたしは、右手で床を押して、一生懸命、体を支えていたような気がする。この右手を離してしまったら、どうなってしまうか、自分でもよく分からない。静江さんのいるはなれで、そういう風には、なりたくなかった。 「コウ君、大好きだよ。」 「うん。知ってる。」 (あははは。何、それ。)心の中で、いつもの普通のわたしの笑い声が、戻って来た。何となく、微笑みながら、二人の体は離れた。正直言って、少し、ホッとした。 「客間に、行かない?」 「いいよ。」コウ君も、いつものコウ君に、戻っていた。 「ピアノがあるけど、誰が弾くの?」 「ああ、じいちゃん。」 「えっ。」 「夜な夜な、幽霊になって、ばあちゃんが良く眠れるように、子守唄を・・・。」 「はあ、何それ、子守唄って。脅かさないでよ。」わたしは、ピアノの蓋を開けた。 「何か、弾けんの。」コウ君が、面白そうな顔をして、聞いてきた。別に、全く弾けないわけでもなかったが、真正直に、全力で弾くのも、どうかと。 「コウ君こそ、何か、弾けんの?」 「ねこふんじゃったなら。」 「ふうん。じゃあ、ねこふんじゃったの、連弾やろうか。」 「連弾。なにそれ。」 「ハモルの。一緒に弾くの。いいから。ほらっ、ねこふんじゃった弾いて。」 (静江さんは、聴いているだろうか。わたしたちのピアノの音。心配していないだろうか。二人きりで、残してしまったこと。大丈夫ですよ。また、遊びに来れなくなるようなこと、してないから。してないよなぁ。)結構、コウ君は真剣な顔をして、弾いている。こんな姿、クラスでは、絶対に見られない。すまして、頼られて、笑っているコウ君しか、見られない。 (こういうのって、幸せかも。)その日の、コウ君ちの、おばあちゃんの「はなれ」は、おとぎの国だった。おばあちゃんが、静江さんが、元気だったから。 つづく 最後まで、読んでくれたら、ポチット1回押してください。よろしく、お願いします。_(_ _)_
2005.09.26
「あーあ。」わたしは、膝を立てて座ったまま、コウ君が、その小さなふすまの戸を閉めるのを、うらめしそうに眺めた。 「葉子ちゃん、俺のこと、どう思ってる?」 「どうって、言われても。どうだと、思う?」コウ君の右手が、わたしの髪のほうに、伸びてきた。指が、髪の間に入って、軽く引き寄せられて、わたしたちは、また、キスをした。前よりも、長いキスだった。 (いつから、わたしのこと、見てたの。)わたしは、胸の中でそう問い続けながら、コウ君の心臓の鼓動を、膚で感じていた。 つづく これだけ読んだ人は、「なんのこっちゃ??」と、思ったでしょう?「若葉」は、続き物なので、このちょっと前から見た方が、分かりやすいです。^^良かったら、カテゴリの、「自作の小説」を開いてみて下さい。「若葉」しか書いてないので、最初から読めます。(笑)
2005.09.25
引き戸を開けると、ソファー、テーブルと、アップライトの古いピアノ、そして本棚が一つある洋間が、目の前に現れた。左の奥に、もう一つ、ドアがある。 「こっちが、俺の部屋。」コウ君が、奥のドアを開けた。わたしの学校の荷物は、途中で家に寄ったから、全部置いてきている。本当に、身軽だ。言われるままに、ついて行っている。でも、考えてみれば、それも少し、不思議だった。コウくんの部屋は、六畳くらいの洋室だった。 「じいちゃんの、書斎だったんだ。」 「ふうん。」北の奥の部屋だから、昼間でも、電気をつけないと、少し薄暗い。壁一面に、何か、立て掛けてある。 (コウ君の絵だ。)本当に、たくさんあった。ドアの無い所には、びっしりと絵が立て掛けてある。4、50枚は、あったろうか。 「佐久間君、絵が好きなんだね。上手だもんね。」 「上手いかどうかなんて、良く分からないよ。」コウ君は、少し怒ったように言った。 「それより、今は、佐久間君ていうの、やめろよ。」 「そんなこと、急に言われても。何で。」 「何でって。こっちも、呼びづらいだろ。さっきみたいに。」 「ああ、葉子ちゃんって?」 「そうだよ。」もう完璧に、コウ君は、怒った顔をしている。困ったと思いながら、わたしは慌てた。 「じゃあ、そうだな。耕一君。コウイチ。コウちゃん、じゃあ、わたしが、お姉ちゃんみたいだよね。」ああ、もう、どうしたら。 「コウ君、じゃ、だめ?」コウ君は、すでに、わたしのそばから離れて、自分の学校の荷物を、机のところでバサバサと片付け始めていたが、背中越しに、 「いいよ、別に。コウ君で。」と言った。 (男の子と付き合うのって、難しいなあ。意外と、繊細なのかも。あれっ。付き合うって、わたし達、別に、何も、言い合っていない。好きとも、何とも。でも、はなれに入る前に、キスしたし。何なんだろう。)わたしは、混乱して、少し、イライラして来た。 「はあーーっ。」大声で、溜息をついて、コウ君の部屋に座り込んだ。そして、手前にあった絵から、手にとって見始めた。 (それにしても、たくさんあるなぁ。)ほとんどが、風景画の水彩画だった。油絵も何枚かある。花や果物の静物画もある。 (上手いけど、良く分からない。)良く見たら、スケッチブックも、何冊か立て掛けてある。パラパラとめくってみたら、自転車の詳細なデッサンもあった。 (あはは。高二の時に、コウ君が乗っていたヤツかな。好きだねぇ。)何冊目かの、スケッチブックに手をかけたとき、コウ君が、わたしの右側に座ったのが分かった。構わずに、そのスケッチブックを開くと、人の顔のデッサンばかりが描かれていた。男、女、老人、若い人、子ども。横顔、真正面、斜め、斜め上から、下から・・・。泣いた顔、怒った顔、笑った顔。そして。 「あれっ。これ、わたし?」下を向いて、泣いている。ポニーテイルでまとめているから、あの時の、水泳大会の時のわたしだろうか。横顔のわたし。後ろ姿。シャーペンを回している、手だけの絵。わたしのよくやる癖。ページをめくろうとしたら、 「わあ、そっからは、見ないで!」コウ君が、急に大声を出して、スケッチブックを、わたしから取り上げた。 「なんでよ。何、描いてたワケ?見せなさいよー!」わたしは、笑いながら、そのスケッチブックを、コウ君から奪い返そうとしたが、余程、見られたくなかったらしい。天井近くにある、小さなふすまをサッと開けて、中に、投げ入れてしまった。 つづく 最後まで読んでくれたら、ポチット1回、押してください。よろしく、お願いします。_(_ _)_
2005.09.25
「帰る時、また、顔見てってやってよ。」 「うん、いいけど。静江さん、どこか、悪いの?」 「じいちゃんが、死んでから、ずっと、あんな感じ。」 「ふうん。」わたしは、何だか、それだけではない気がして、少し不安になった。 「俺の部屋、見る?狭いから。ちらっと見て、客間にいればいいし。」 「うん。分かった。見たい。」食べ終わったお皿を、台所に運んだ。コウ君が、あとは、このままでいいからと言いながら、お菓子と麦茶を持って台所を出た。 「ああ、コップ、忘れた。」 「えっ。ええと。これ使っていい?」 (なんだか、新婚さんみたいかも。)急に、照れ臭くなってきた。かなり、遅い反応か。今日は、結構、驚くようなことの、連続のはずなのに。玄関の目の前の、最初コウ君がよりかかって、わたしを待っていた、ガラスの引き戸を、コウ君が横に引いて開けた。 つづく
2005.09.25
初めて三人で食べた、一緒のお昼は、とても楽しかった。 「静江さんが、このちらし寿司、お作りになったんですか。」 「そうよぉ。美味しい?」 「はあい。美味しいです。でも、作るの、難しいですよね。」 「あら、簡単よぉ。お野菜を、種類別にちゃんと分けて煮ておけば、あとは、混ぜるだけ。混ぜるだけ~。」静江さんが、おどけてみせた。 「あははは。」 「ばあちゃん、あんま、無理して、がんばんなよ。かあさんが作ったの、食べてれば、いいじゃないか。」 「いつもは、そうしているだろう。今日の、お昼はね、カレーだったんだよ。カレーもいいけど、何だか、自分で作ってみたくてね。」そういえば、本家の方に、男の子が二人ばかしいたっけ。 「他の方達は、お昼、どうしていらっしゃるんですか。」 「今は、弟が本家にいるだけ。なんか、友達、連れて来てたな。」コウ君が、口一杯に、お寿司を頬張りながら、モゴモゴと喋っている。 「そう。洋二にも、こっちで食べないかいって、誘ったんだけど。友達と、カレーの方がいいって、言うから。」静江さんが、優しく笑った。わたしは、ぼんやりと、あの二人のうち、どちらが洋二君だったのかなあと、考えていた。静江さんの食が、余り、進んでいないのが、少し気になった。ほとんど、箸を、下に置いたままだ。両手で湯のみ茶碗を包み込んで、ゆっくりと、お茶をすすっている。 「ばあちゃん、大丈夫か。奥で、ちょっと横になる?」コウ君が、慣れた感じで、さり気なく聞いている。 「そうかい。じゃあ、ちょっとだけ、失礼して。ごめんなさいね。ずっと、お話していたいのに。」 「いいえ、そんな。」静江さんは、ゆっくりと立ち上がって、一人で行けるからと言いながら、隣の部屋のドアの奥に、入って行った。 つづく ポチット1回、押してくださ~い!よろしく、お願いします。_(_ _)_「若葉」は、続き物です。前のお話は、カテゴリの「自作の小説」の中に、入っています。
2005.09.24
はなれの台所は、さっきまでいた居間と、廊下をはさんで、ちょうど反対側にあった。台所のドアは、全面曇りガラスで、真鍮のノブを回して、中に入った。 「この家、かわってるね。」 「へっ?あはははっ。」コウ君が、今日、初めて、大きな声を出して笑った。 「かわってるって、何が?」 「だって、天井はすごく高いし、部屋は、赤い廊下で、つながってるし。それに、デザインが。なんか。」 「化け物屋敷?」 「そんなこと、言ってないよ。」実は、少し、それもあるかなとは、思ったが。 「ほら、美術で習った、アール・デコとかいうの。ああいう感じが、ちょっと、する。」 「この辺の中学は、良く、外国人の先生が、赴任して来るんだ。昔は、そういう人たちを、受け入れる家主が、なかなか、いなかったらしくて。じいちゃんが若い頃、このはなれを建てて、そういう先生たちに、貸していたらしい。」 「ふうん。そうか。」なる程と、思った。それなら、古い家なのに、こんなに天井が高いのは、うなづける。 「じいちゃんが、おととし、脳いっ血で倒れて。」 (えっ?) 「看病は、自分でするって、ばあちゃんが言い出して。それで、もう、ここ物置きみたいに、なってたんだけど、ばあちゃんと、じいちゃんだけ、こっちに移って。だけど、今年の春に、じいちゃんが、死んで。」 (そうだったんだ。)コウ君は、小皿やら、お椀やらを出しながら、手を休めずに、喋り続けている。 「俺も、春には、親と色々あって。だから、ばあちゃんが、本家に戻ろうとしないから、ばあちゃんが淋しいだろうからって、理由こじつけて、俺が、5月に、はなれに移って来た。」テーブルの上には、美味しそうな、ちらし寿司が、のっていた。ガスコンロには、鍋が置いてある。勝手に鍋の蓋を取って、中身を覗いてみたら、ひろうすと昆布の入った、お吸い物だった。 「これ、暖め直そうか。」 「うん。頼む。」とても、自然に、二人が、働いていた。もう、何度も、このはなれに遊びに来たことがあるような、そんな、錯覚を覚えた。 つづく 最後まで、読んでくれたら、人気ブログランキングを、ポチット1回、押してください。よろしく、お願いします。_(_ _)_(若葉は、続き物です。前のお話は、カテゴリの「自作の小説」に入っています。^^)
2005.09.23
コウ君が歩いて行ったので、その後をついて行った。廊下の右はしに、八畳くらいの和室が見えた。そこに、女の人が、立っていた。背筋がすっと伸びて、髪の毛は、真っ白だ。その細い銀髪を、後ろ髪に上手にまとめている。ほのかに、椿油の香りがした。一目で、好きになってしまった。何て、おだやかな優しい顔で、わたしを見るんだろう。 「俺の、おばあちゃん。こっちは、この前、話した、転校生。」 「転校生って。もう、転校して来たのは、一年も前だろう。」 「いいから、ばあちゃん、座って。無理して、立ってんなよ。」コウ君が、少し、紅い顔をした。わたしは、さっきまでの不機嫌を、すっかり忘れてしまった。 (でも、コウ君のおばあちゃん、どこか悪いのかな。)突然だが、そんな不安が、わたしの心に浮かんだ。 「あの、澤田葉子といいます。」 「ええ。良く知っていますよ。」コウ君を見た。座布団を取るふりをして、そっぽを向いている。 「佐久間君のおばあさんの、お名前は、何て、おっしゃるんですか?」 「えっ?」コウ君と、コウ君のおばあちゃんが、同時に声を出した。わたしは、そんなに驚くようなことを聞いたのかなと、不思議だった。 「そんな質問、滅多にされないわ。佐久間さんとこの、おばあちゃんとしか、言ってもらえないから。」 「そうなんですか。」そんな、もんなのか。わたしは、まだ、しつこく、自分の質問の答えを待っていた。コウ君のおばあちゃんが、お茶を入れながら、答えてくれた。 「わたしは、佐久間静江と、いいます。」 「そうなんですか。」わたしは、間抜けにも、同じ言葉を繰り返していた。もっと他に、言いようがあったろうに。心の中では、綺麗な名前だなあとか、この人にぴったりな名前だとか、思っていたのに。 「あの、わたし、静江さんって、お呼びしてもいいですか?」コウ君のおばあちゃんが、ニッコリ微笑んだ。 「いいですよ。」 (やった。)何だか、嬉しかった。コウ君が立ち上がって、 「じゃあ、俺、食事運んでくるから。はなれの、台所にある?」 「もう、こっちにあるよ。テーブルに出してある。」 「そう。じゃあ、持ってくるから。」わたしも立ち上がって、コウ君と一緒に、もう一度、あの赤い絨毯敷きの廊下に出た。 つづく 最後まで読んでくれたら、人気ブログランキングを、ポチット1回、押してください。よろしく、お願いします。 _(_ _)_ 若葉 おばあちゃんの「はなれ」は、若葉 コウ君ち の続きです。第二章と、書いておいた方が、いいのかな。葉子とコウ君の出合いから、読みたい方は、カテゴリの、「自作の小説」を、のぞいて見てください。
2005.09.22
優しい声に、誘われて、はなれに一歩足を踏み入れたとたん、 「あれっ。」思わず、声を上げてしまった。古い農家の、平屋の外観とは違い、中はすっかり、洋館の趣なのだ。樫の木の下駄箱の上には、大きな油絵が、飾ってある。サインは、えーと、コウイチ・・・。コウ君の絵。天井が、高い。わたしの、うちよりも、絶対に高い。空間が、外観よりも、広く感じられる。玄関の目の前を、横に廊下が走っていて、少しえんじの混じった、赤い絨毯が、敷き詰めてある。ちょっと、レトロだ。コウ君は、玄関の目の前の廊下に立って、後ろの、どこか部屋に続くらしい、ドアに、寄りかかっている。 「おまえ、何してんの?いつまで、待たせんの?」 (いつまでって、あんたの、せいでしょうがあっ。)わたしは、黙って、コウ君をにらみつけた。 「ばあちゃん、客間と居間と、どっちがいい?」 「そうだねぇ。お昼食べるから、居間の方かな。」 「分かった。こっち来て。」わたしは、慌てて玄関で靴をぬいで、一応、きちんと、自分の靴をそろえた。コウ君のは。。。ええいっ。そろえてやれ、ついでだ。 「早くしろよ。こっち。」いちいち、頭に来た。もう、本当に、ごちそうが無かったら、暴れてやる。 つづく 最後まで、読んでくれたら、人気ブログランキングを、ポチット1回、押してください。よろしく、お願いします! _(_ _)_ この前の「若葉」は、カテゴリの「自作の小説」に、入っています。興味が湧いたら、是非、最初から、読んでください。*^^*
2005.09.21
高三、一学期の終業式のあと、初めて、コウ君の家へ、遊びに行った。その日は、校内の駐輪場で、コウ君が時間をつぶして、わたしを待っていた。こんなのは、初めてのことだ。いつもは、偶然、帰るだけだったのに。それとも、あれも、偶然じゃ、無かった?「どうしたん?」「今日、このまま、うちに来ない?」「えっ?なんで。」「おばあちゃんがさっ、有田に会いたがってるんだ。」コウ君は、謎だ。謎めいている。絵が、凄く上手いことくらいしか、知っていることがない。あと、水泳部の幽霊部員のくせに、なんか、いつも、忙しそうだ。「いいけど、お昼どうしよう。」「いいよ。何か、あるから。」「ふうん。別に、いいけど。」一緒に、いつものように、自転車で並んで、走った。一つ違ったのは、坂の上まで、行ったこと。ちょっと、わたしの家へ寄って、事情を話して、母にことわったが、相当びっくりしているようで、母のまばたきの回数が、少くなっていた。ちょっと、恐かった。コウ君は、すいすい、坂を上って行く。わたしは、坂に来て、5回、踏み込んだら、止まってしまった。「ちょっと、待って。」これは、もう、自転車を押して行くしかない。コウ君の家は、本当に、坂の頂きにあった。右側の家だ。道は、まだ続いているが、ここからは、下りになるようだった。結構、大きそうな、古い家。「どうぞ。」「お邪魔しまーす。」門は無くて、いきなり、がらがらと左に玄関を開けると、中は、そのまま土足で歩ける通路と土間があり、左右の高くなった所に、大きな部屋が、続いている。「へえー。面白い、作りの家だね。」「昔の、農家の家が、そのままだから。」「すごい、大きな家だね。」「昔、先祖が、庄屋とかしてたらしいけど、良く知らない。」(そう言えば、地元の人が、「さかうえの~~のとこ」とか、「さかしたの~~のとこ」とか、言うのは、そのせいかなあ。じゃあ、わたしの所は、「さかした」だあ。)そんなことを、考えながら歩いていると、「でも、こっちじゃ、ないから。」コウ君の、弟みたいな子が二人、顔を出しては、引っ込めているのが気になったが、コウ君について、通路をどんどん進んで、とうとう、そのまま、外の庭に、出てしまった。大きな、庭だった。下りの坂道に沿って、右手に倉みたいな建物が三つある。左手に池があって、こいまで泳いでいた。二、三匹、うっすらと、水面に、模様をのぞかせていた。「さっきのは、本家って、呼んでる。こっちが、はなれ。俺は、今年の5月から、こっちに住んでんの。」コウ君は、下りの坂道の行き止まりにある、こじんまりとした平屋の家を、指さした。「おばあちゃんに、間借りしてるから。まあ、いいから、入って。」「あ、う、うん。」なんだか、もう、従うしかない。そこは、都会の中の、異空間だった。そこだけ、優しい、ゆっくりした時間が、流れているような気がした。「あ、入る前に、ちょっと、待って。」コウ君が、わたしのあごを上に向けて、前かがみになった。いきなりだった。唇と唇が、軽く、合わさった。驚いて、コウ君を見上げると、「続きは、あとでね、葉子ちゃん。」さっさと、本家と似た玄関をがらっと開けて、中に入って行った。はあっ!?澤田って、いつも、呼ぶくせに。それに、今、わたしたち、軽くだけど、キスした。足が、止まってしまった。怒って、帰るべきか。それとも、せっかく、ここまで来たのだから、コウ君の、おばあちゃんとかいう人に、会ってみるか。お昼も、ご馳走してもらえるはずだし。(ああ、どうしよう。)「どうしたあ。はよ、お上がり。」優しい年輩の女性の声が、奥からした。「よしっ。」毒を食らわば、皿までだ。今日は、この佐久間家と、とことん付き合う。って、佐久間家の二人とか。わたしは、意を決して、はなれの玄関から、中へ、入って行った。 つづく 最後まで、読んでくれたら、ポチット1回、押してください。よろしく、お願いします!_(_ _)_
2005.09.16
その日から、時々、帰りが一緒になった。高3になって、4月のある日坂の下で別れる時「来年の今頃は大学だよな。」コウ君がわたしの顔をまっすぐ見て 言った。「そうだね。」わたしも、コウ君の顔を見て笑いながら答えた。「うちの高校、バイク通学禁止だから。大学行ったら、バイトして、まず、バイク買うんだ。この坂・・・。どう思う?ひどいだろ、これ。」指さしながら顔をしかめた。「ひどいね。確かに。」わたしも、笑い出したいのをこらえて顔をしかめてみせた。「そうしたらさあ、二人で、どっか、ツーリングする?」(えっ?)コウ君は、「じゃな!」と言いながら あっという間に坂を上って行ってしまった。わたしは、一人自分の家の門に片手をかけた状態で 止まったまま一人 とり残されて長い 長い坂の方を 眺めていた。 つづく 最後まで読んでくれたら、ポチット1回、押してください。よろしく、お願いします!_(_ _)_
2005.09.16
「あの、さっきは、どうもありがとう。」「え゛っ!?」飛びのく位、驚いていた。綺麗なコウ君の顔がかなりくずれて、雰囲気が違う。「あはははっ!」わたしも、思いきり顔をくずして笑ってしまった。色の白いコウ君の顔がほんのりピンク色だ。「方向、こっち?」自然と、二人並んで自転車を走らせていた。「うん。ほら、ものすごく長い急な坂が あるとこ知らない?あの手前の、新しく出来た家のうちの一軒。」「へー。」コウ君が 急にだまった。しばらく、そのまま並んで走った。炎天下のプールサイドに長くいたせいで頭が ぼーっとしている。「俺んち、その坂のてっぺんの辺なんだ。」急に コウ君がボソッと 何か言った。「えっ?なに?」「だから、家が近所だって言ってんの。」コウ君が こっちを見ないで前を向いたままで言い返してきた。(そうなんだ。このクラス委員近所の子なんだ。)何だか、嬉しかった。「ところで、お前、名前、なんて言ったっけ。」失礼な奴。大会名簿に、自分で書き込んだくせに。「澤田 葉子。」「えっ、もう一辺言って。」「だから、さ・わ・だ・ようこ!」コウ君が 笑っていた。わたしも、怒る気にもなれず、むしろ、楽しくて仕方ない自分に気づき始めていた。前から吹きつけて来る 秋風がとても 心地良かった。 つづく 最後まで、読んでくれたら、ポチット1回、押してくださ~い。よろしく、お願いします! _(_ _)_
2005.09.16
コウ君は、綺麗だった。水泳部の幽霊部員で大会の時は屋外で練習しているはずなのにとても、色が白い。クラスの男子も、「耕一がいれば女子なんかイラネーよなー。女子より、綺麗だもんなあー。」なんて、冗談とも、本気ともとれるキモチ悪いことを言っていたくらいだ。高三になって、コウ君は理系クラスに 進んだ。そして、なぜか わたしも理系クラスに 進まされた。前の高校と、理科の科目の習う順番が違って、単位を取る関係上どうのこうの、という理由だ。また 同じクラス。あの、水泳大会の日の帰り道家が 近所なのが分かった。転校2日め。自転車通学が初めてで迷わず帰れるかなんて低レベルの心配事を抱いて校門から 外に出たら、コウ君が、クラスの他の男子と別れたところだった。並んで、信号待ちをするハメに、なった。 つづく 最後まで読んでくれたら、ポチット1回、押してください。よろしく、お願いします!
2005.09.15
わたしが泣き出してからどの位、時間がたっただろう。ほんの、20秒くらいのことだったのかもしれない。でも、コウ君には迷惑をかけた。転校生に 訳も分からずいきなり泣かれるなんて。教室の端っこでわたしが 皆に背を向けていたから気づいている人はいなかったとは思うが。「なんで、泣いてるか、うーん。分かんないけど。とにかく、出る種目を決めておこう。もう、時間ないし。」ああ、あの時も、そう言えば、時間が無いって、急いでいたんだな。。。「飛び込みするのがわたしきらいだから。」コウ君が、少し、ニヤッとした。「そんな、こと。あー、ええと、じゃあ、背泳に 出たら。うちのプール、50mでちょっと、長いけど。大丈夫?泳げる?」あー。最悪だ。緊張しすぎなければ何とかいけるだろうか。でも、水泳大会が始まって水泳強化校に指定されているらしい高校の長い 大きい プールを目にして。自分の番が来て。水の中に隠れていられるような背泳ぎを選んで本当に 良かったと思った。(あの、クラス委員のおかげだ。)ふと、そう思った。わたしは、あの時、コウ君の力を借りて転校 最初の危機を乗り切った。 つづく
2005.09.15
コウ君。コウちゃん。。。佐久間耕一。高校二年からの、友人。くされ縁。わたしたちは、もう二十歳だ。かれこれ、四年の付き合いに、なるのか。わたしが、転入試験を受けて高二の二学期から入った高校の同じクラスに、コウ君はいた。あの、悪夢のような、高二の夏。転校して、次の日が、校内水泳大会だった。スクール水着の色がわたしだけ違う。他の女子は、濃紺一色なのにわたしだけ、青。しかも、黄色の縦ライン入り。ひどく 目立つ。 コウ君は、クラス委員をしていた。「どの種目にする?別に、人数に規定はないから、どこに入っても・・・。あ、あれっ。大丈夫?」もう、水着に着替えて仕度もすんでこんな格好をしながら教室の端っこでこれから出場する 種目を決めている。知っている人が 一人も居ない高校のプールでいきなり 泳ぐ。涙が出た。どうしてだか、分からない。コウ君の前でポロポロ、ポロポロ涙が、止まらなかった。 つづく 最後まで読んでくれていたら、ポチット1回、押してくださ~い。よろしくお願いします!
2005.09.15
小窓よりも 少し大きい往来に近い方の 窓に顔をぴったり 寄せてコウくんが 立っていた。「どうしたん?」わたしが近づいたら、コウ君の方が、少し離れた。「ようこ ちゃん。ちょっと、出て来れん?」午後といっても、11月。もう、4時になるところだ。だんだんと、夕方も近い。「どうしたん?なんの、用?」コウ君の顔が、少し、ゆがんだような気がした。わたしの知らない、悲しそうな顔。「あー。見せたいものが、ちょっと、あって。急がないと、いけないから。」これは、すぐに、行った方が、いい。わたしに第六感があるとすれば、早く、出掛ける仕度をしろと、わたしに、命令していた。 つづく
2005.09.14
薄暗がりの 部屋の小窓から11月の 庭のきらめきが 入って来る。往来の 車の音大人たちの話し声自転車のきしむ音土曜日の 静かな午後一人でいていい 時間一人でいられる 時間父は ゴルフコンペ。困った顔をしながら、嬉しそうに出掛けて行った。まだ、帰って来ない。母は、黙々と、編み棒を動かしている。わたしが 一人遊びが好きなのを これ幸いに昔っから たいがいが 自分の作業に 没頭している。「ようこ ちゃん。」あれっ、誰。外を眺めていた窓とは、別の方向から、声がした。 つづく☆☆☆長いお話も、書いてみたく、なりました。と言っても、ショートショートかも。。。もし、読んでくれてる人がいたら、こんな、嬉しい(恥ずかしい)ことは、ないです。大歓迎です。_(_ _)_
2005.09.14
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