Laub🍃

Laub🍃

2012.10.31
XML
カテゴリ: .1次メモ











.......................



「木鈴、脇が甘い」
「うん、師匠っ!」




「今のは惜しかったなワタ、次はもう少しゆっくり」
「ゎ□ヵっ★た、×ん□ぃちァータナヵ!」









「実に面白いな観察君は、怪物を手なずけてしまうとは」
「特徴呼びかよ」




……俺は、このリア充だらけの空間から逃れるべく、
「偵察に行ってくる」と言い残し、ここ数か月世話になったワタの居た研究所を離れた。



観察者田中をおにいちゃん、突っ込み田中を田中さん、俺をリーダーさんと呼び分けている木鈴は、数か月でだいぶ体術を身に着けた。体術といっても、怪物達と戦う内に身に着けた自己流のものだ……が、この間の戦闘で協力していた所を見る限り、それでも大分役に立っているようだった。
 また、木鈴は全く俺達を見間違えなかった。
 緑の怪物から毒を吐かれた突っ込み田中と黄色い怪物から毒を注入された冷静田中を瞬時に見分け、あいつらが何か言う前に、佐藤に処方された薬を渡し、俺達に舌を巻かせたのは数か月前、出会ってから数日後のことだ。

 …ワタ。研究所から怪物たちが脱走する時、両親から「ここに潜んでいろ、外に出るよりも安全だ」と……少し残っていた研究員達さえも引き上げた研究所の中で、ずっと生き続けていた改造人間同士の子供。

『あと……俺達の言葉はなんとか分かるが、話すことは殆ど出来ないらしい』
観察者田中がワタと寝食を共にして分かったこと。多過ぎるだろ。

『けど、多分素質はある。』
そう言った観察者田中は、人間で言うと16才ぐらいだという彼女につきっきりで話し方や世の中の情勢を教え始め、お蔭で今ではワタは、簡単な会話なら片言で喋ることができる。木鈴・リア田中と同様に、やはりこっちもいい雰囲気になっている。タナ・ナベという両親を探したいと言うワタに、二人が恐らくもうこの世に居ないだろうことを言えない観察者田中は、ヒーローとして出動して戻ってきては、「悪い、今日も見付からなかった」とワタの頭を撫でる。





……そして。


『リア充ばっかじゃねーか』

『いや、俺とお前、あと佐藤は違うからばっかというほどでもねえだろ』

『何だよその間は』

 突っ込み田中は……明らかに、その、佐藤とデキるまで秒読み……な気がする。

 出会った頃から変わらないどころか悪化している変態発言ふざけた態度をスル―する俺、木鈴の耳をふさぐリア田中、冷静な観田中と違い、いちいちノリ良く突っ込む田中を佐藤は『観察対象以外として』気に入りだしたようで、ちょくちょく意味の無いちょっかいを出している所を見受けるようになってきた。


『お前がそう思うんならそれでいいんじゃないかな』
『おいお前まさか変な勘違いしてんじゃねーだろうな』

『棒読み!!!』




はい、回想終わり。



 そして、まあ4人目の「田中」はこうしてあそこを離れているというわけだ。

 拗ねて家出する中学生か、と自分に思わないでもないが、生憎そんな突っ込みより衝動のほうがいつも勝つ。我を通すことで誰かを助け、そしてその誰かに認められたいと思う自分の衝動が。


 つまりは、寂しいのだ。「誰かの」でなく、「リーダーの」田中である自分と言う存在であることが。


 ……5分割目6分割目が出来ればこの気持ちも分かち合えるかとちょっとだけ思ったけど全然そんなことはなかった。

 みんなの回避能力が高いということもあるが、分裂した5人目6人目がすぐにやられてしまうようになったことも大きい。この間は戦闘中に分裂したリア田中が木鈴を庇おうとして一体やられた。観察者田中が分裂して戻った帰り、ワタが暴走してしまった。突っ込み田中が人質交換に行く為にわざわざ分裂した。
 佐藤によると、分裂した時の『比率』が小さければ、それだけ力の弱い田中になるらしい。食べ物や時間経過で回復するらしいが、それを待っている余裕のない時もある。
 だから、強い田中でも大ダメージを受けそうな場合には弱い田中が命を賭ける。そう決めることにした。


 ……だが、俺は―――…まだ、『死んで』いない。『分裂』していない。
 誰が人質交換に応じるかっていう時に、本当は俺も手を挙げるつもりだった。……挙げたかった。
 だけど一瞬迷ってしまった。

 何故そこで『誰が』という言葉が出る?
 俺達はみんな同じ田中じゃないか。

 ここで俺が人質交換にもう一人の俺を差し出したとして、
もし生き残ったら―――また、『俺』じゃない『俺』が増えるのか。


 ずっとずっと一人称で考えてきたつもりだった。だけど俺はどんどん増えていく。
 もう一人の俺はいつからこの俺から離れていく?
 俺を俺たらしめるものとは何だ?俺たらしめるものとはどの俺を担保する?

 それに、
 弱い田中。超回復能力の低い田中。犠牲役の田中。
 ……今の俺の、1/2の意識は確実にそちらに行く事になる……




 そう思ったら、独立することしか考えられなかった。

 この土地を離れよう。他の地でヒーローとして活動しよう。もし不可抗力で分裂したら、そいつをその土地に置いて、俺はどんどん他の場所へ行こう――……



そう思っていた俺は、敵の接近に気付けなかった。





@@@


急展開


加筆修正2015/06/12 05:49:42





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2015.06.14 21:00:29
コメントを書く


■コメント

お名前
タイトル
メッセージ
画像認証
上の画像で表示されている数字を入力して下さい。


利用規約 に同意してコメントを
※コメントに関するよくある質問は、 こちら をご確認ください。


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

© Rakuten Group, Inc.
Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: