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2008.01.14
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~講談社文庫、1995年~

 二階堂黎人さんのデビュー作です。
 では、内容紹介と感想を。

ーーー
 昭和42年(1967年)12月。
 友人、暮林英希とともに、彼の家を訪れた二階堂黎人と義妹の蘭子は、家の前に立っていた怪しげな男に出会う。男は、顔中を包帯でまいており、左手はなく、包帯の下には、醜悪な顔があった…。彼は、「地獄から来た奇術師」と名乗り、英希の叔父、義彦をはじめとする、一家の殺害を予告する。
 三人は、男をおって林に入る。黎人と蘭子は、男が入っていた防空壕に入っていくが、中に入ったはずの奇術師に後ろから襲われてしまう。そして、その防空壕には、英希の従姉妹の死体がぶら下げられていた…。
 この事件をはじめに、暮林家に多くの事件が襲いかかる。ホテルでの毒殺事件、密室殺人事件…。「地獄の奇術師」の犯罪に、二階堂蘭子が挑む。


 久々(10年ぶりくらいでしょうか)の再読です。この作品については、二つの読書時点での感想を書く必要があるかと思います。まずは、今回の感想から。

 名前を聞かれた男が、「地獄から来た奇術師」と名乗り、黎人さんたちや警察たちも「奇術師」と彼のことを呼ぶのが、なんだか恥ずかしいなぁと思いながら読みました。私は乱歩さんはあまり読まないのですが、その影響があるのは分かるのですけれど…。横溝さんの、たとえば「幽霊男」などが恥ずかしいと思わないのは、横溝さんの大ファンであることと、やはり時代背景を考えてのことだと自己分析するのですが、二階堂さんのはどうも… (最近の、ラビリンスもしかり…)。といって、本作については、男が「奇術師」を名乗る理由があるといえばあるのですが。
 わざとしているのは分かるのですが、お芝居みたいな(あるいはジュヴナイルのような…)台詞や地の文の言い回し、言い古された言葉ですが「人間が描かれていない」薄っぺらな登場人物たちも、どうも今の私にはあいません。私がよく読む作家さんたちがどれだけ「人間を描いているか」はともかく、二階堂さんのはどうも…(作中での言葉ですし、わざとかもしれませんが、 『増加博士と目減卿』 の中で、人間を描くのが大嫌いと言っているのも悪印象の原因となっていると思います)。
 真相というか、犯人の動機について蘭子さんが語るところでも、なんであなたがそんなこと断言できるのか、と思わずにいられなかったり。犯人と動機について話し合う機会があったんでしょうか。かなりツッコミどころがありました。
 まず、こうした批判的な読み方については、ここ数年の読書傾向が大きく影響していることをお断りしておきます。横溝さんでミステリに目覚めてから、綾辻さんや二階堂さんといったばりばりトリック重視の話を好んで読んでいた時期もあるのですが、加納朋子さんや北村薫さんの作品を読むようになってから、パズル的な、謎解き重視の話よりも、物語性のある話の方を好むようになってきているので。
 …と、かなり批判的に書きましたが、やはり謎解きの物語としては良いと思います。特に、注釈によって、真相解明の際に、伏線のページを示しているのは良いですね。個人的には、まんまとミスディレクションにひっかかったのが悔しくもありました。

 さて、最初に二つの読書時点での感想と書きましたが、はじめて本作にふれた頃のことについて書く必要があるかと思ったのです。というのも、最近はともかく、初期は二階堂さんが好きな作家の一人でしたから、好印象だったことも書いておかないとフェアではないように思うからです。
 最初に読んだ二階堂さんの作品がどれかは覚えていませんが、図書館で見つけた『吸血の家』という本にとてもひかれたのが、読み始めるきっかけでした。それは立風書房さんのノベルスですが、タイトルも魅力的で装丁もかっこよいのです。いまでも、二階堂さんの作品の中で最高の読書体験は『吸血の家』だと思っています。
 …それはともあれ。上にも書きましたが、当時は横溝正史さんと綾辻行人さんの作品をむさぼるように読み、いまでは毛嫌いしている某マンガのノベライズ作品さえも読んでいた時期で、とにかくトリックに興味を持っていました。そんな時期、二階堂さんの作品はとても魅力的でした。怪しげな登場人物に、惜しげもなく密室殺人が行われる物語(いまでは、その密室に必然性があるのかとツッコミをしてしまいますが…)。わくわくしながら読んでいました。
 本書は、トリックや謎解きに重点をおいたパズル的な作品を読みたい方には、向いているかなと思います。



 解説でも書かれていることですが、もう一つ付け加えておきます。それは、上でも少しふれましたが、注釈が充実していることです。伏線を示すだけでなく、本文中で言及されるミステリに関する情報や評価が注釈に記されていて、古典的なミステリについての良いガイダンスになっています。
(2008年1月13日読了)


   *

 昨年、最新作『双面獣事件』を購入しましたが、その前に対になっている『魔術王事件』を再読したいと思い、それなら蘭子シリーズを再読してみよう、ということで、今回本書を読みました。今年は、二階堂蘭子シリーズを再読するのを一つの目標にしたいのですが、作業の兼ね合いもあり、次にこのシリーズを読むのはずいぶん先になるかと思います。





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Last updated  2008.01.14 06:47:38
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