あらためて、コメントありがとうございます。
torezuさんの記事も興味深く拝見しました。
田沼意次の評価について、同感です。こんな風に見ると、植え付けられていたイメージが覆されますよね。そして歴史を勉強する上で、とても大事な視点だと思います。
物語として面白いだけでなく、知的興奮にも満ちた読書体験だったようにも思います。

レアンダーを読むのも楽しみです。 (2010.08.21 08:08:28)

のぽねこミステリ館

のぽねこミステリ館

PR

Profile

のぽねこ

のぽねこ

Calendar

2010.08.11
XML


~新潮社、2010年~

 島田荘司さんの、待望の新刊です。680頁強という分厚い本書はノンシリーズで、歴史上の謎に迫るという意味では御手洗シリーズの 『ロシア幽霊軍艦事件』 と同じような性格があるといえます。ただし本書は、研究の過程(試行錯誤や、専門家の意見をあおぎにいく旅など)のわくわく感が味わえます。

 主人公の佐藤貞三さんは、大学受験まではトップクラスで東京大学に入学するのですが、その後あまり冴えなくなってしまいます。葛飾北斎研究で業績も残しているのですが、ひょんな縁から傲慢社長の娘と結婚し、さらに悲劇に巻き込まれることになります。
 ある人物からの紹介で手に入れた江戸時代の絵が、これまでの研究を覆すほどの大きな発見かもしれない…。と、興奮状態にあった貞三さんは、息子にせがまれ、車で出かけます。しかし東京都内のこと、やっと見つけたパーキングもすぐに時間切れになり、車を入れ直そうとしているうちに、息子は走って出かけてしまい…。そして息子は、回転ドアの犠牲になるのでした。
   *
 妻からののしられ、絶望の淵にある貞三さんは、ドア事件の検討会に呼ばれます。その帰り、例の絵をなくしてしまい、さらなる絶望におそわれ死を選ぶ彼は、検討会で知り合った片桐教授に救われます。
 さらに、回転ドア事件の訴訟をめぐり、対立者は貞三さんの過去の研究業績を大々的に批判する記事を週刊誌に載せます。貞三さんの研究を刊行した出版社の編集者も、対立者たちに報いてやりたいという思いから、貞三さんにあらたな研究の成果を発表するよう働きかけます。


 …と、大きな流れはこんな感じです。
 私はなにぶん日本史に疎いのですが、写楽はとても謎に包まれた人物なのですね。活動期間も1年ほどで、同時代人は彼の正体について口をとざしています。誰かが、自分が写楽だと名乗っていても良いのに、そういう記録もなければ、写楽がどういう人物だったかという記録もありません(厳密には、写楽に言及する史料はありますが、しかしそれは信憑性に乏しいようです)。
 本書はあくまで小説のかたちをとっていますが、こと写楽については、実際の史料や従来の研究成果をふまえた内容になっているようで、そこから導き出される真相はとても興味深いです。
 また本書は、写楽の謎を追う現代編と、江戸時代編からなるのですが、江戸時代編もとても良かったです。それは彼らの洒落心であったり、江戸時代編の主人公というべき出版社の蔦屋重三郎の素敵な考え方であったり…。

 そして本書を読んでいて写楽問題以外に興味深かったのは、田沼意次の位置づけです。彼は日本史を学ぶかぎり、賄賂にまみれた悪い政治家のような印象を受けますが、しかし一方では、その政策は松平定信による節制押しつけなどよりも、ずっと日本のことを考えていたのだ、ということがうかがえました。

 私は写楽の謎についてなんの予備知識もありませんでしたが、読み進める中で何が問題なのかが分かりやすく提示されますし、従来の説のかかえる問題点なども的確に指摘されるなど、どんどんその謎の中に引き込まれていった感じです。
 研究の醍醐味が味わえる興味深い一冊でした。

 しかし、物語としては謎が完全にとかれていないところもありますし、後書きで島田荘司さんがほのめかしている続編にも期待が高まります。

(2010/07/18読了)





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2010.08.11 07:09:50
コメント(4) | コメントを書く
[本の感想(さ行の作家)] カテゴリの最新記事


■コメント

お名前
タイトル
メッセージ
画像認証
上の画像で表示されている数字を入力して下さい。


利用規約 に同意してコメントを
※コメントに関するよくある質問は、 こちら をご確認ください。


Re:島田荘司『写楽 閉じた国の幻』(08/11)  
torezu  さん
お久しぶりです。w
島田さんの最新刊ということで、私ものぽねこさんの日記を拝見していたら欲しくなってしまい、文庫版を待たずに購入してしまいました。(笑)
ロシア幽霊軍艦も、懐かしいです。
あの作品では、ラストで見事にどんでん返しが待っており、それも楽しかったですが、何より、日本人にも優しい人がいたんだと、心温まるお話でした。
今週中には届くと思うので、読むのが楽しみです。
のぽねこさんの日記は、拝見しているうちに、この本面白そうと、ついつい欲しくなります。
お盆の連休大変な面もありますが、ゆっくりと過ごすことが出来ますように…w (2010.08.15 15:31:13)

torezuさんへ  
のぽねこ  さん
コメントありがとうございます。
私の感想で興味を持たれたようで嬉しいです。
こちらも心温まるシーンもあり、素敵な作品でした。

ところで、レアンダー『ふしぎなオルガン』が復刊されたようで、先日購入しました。ここしばらく読書があまりできていませんが、また落ち着いたら読みたいと思います。 (2010.08.17 07:02:15)

Re:島田荘司『写楽 閉じた国の幻』(08/11)  
torezu  さん
のぽねこさん、こんばんは。
私も昨日こちらの作品を読んだのですが、すごく面白かったです。
田沼意次の位置づけも、大変印象深かったです。
何しろ学生時代は、悪評しか習ったことがなかったので。江戸時代の版元さんは、とても素敵な方でした。
視点を変えてみることで、善人になったり悪人になったりするのは、歴史の勉強をする上で必要なことかも知れないと思いました。
スキャンダルばかりが残り、その人の成したことが見えなくなるのは、残念なことかも知れないとも思います。写楽の謎が、こんな形でわかるというのもすごいことですね。
ドキドキしながら、読み終えました。w
それはそうと、ふしぎなオルガンが復刊されたんですね。リクエストに投票した甲斐がありました。ふしぎなオルガンは童話集ですが、イソップの物語やグリム童話ともまた違った、ほんわかした気分に浸れると思います。
これからも日記を拝見して、本の参考にさせていただきます。また遊びに来ます。w (2010.08.19 21:34:03)

torezuさんへ  
のぽねこ  さん

【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

Keyword Search

▼キーワード検索

Comments

のぽねこ @ シモンさんへ コメントありがとうございます。 第2部第…
のぽねこ @ シモンさんへ コメントありがとうございます。 脳科学に…
Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: