仙台・宮城・東北を考える おだずまジャーナル

2007.08.03
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カテゴリ: 仙台
旭ヶ丘や桜ヶ岡公園の「ヶ」が大文字(ケ)か小文字(ヶ)か、また仙台市立学校は「旭丘小学校」「榴岡小学校」と表記するのだが、「ヶ」や「が」は要らないのか、など悩み出すと止まらない。

そこで寝苦しい夏の深夜(もう1時だ)の悩みを解決すべく、アカデミックな説明を勉強した。

1 桜ヶ岡などの「ケ」は何者か

そもそも榴ヶ岡などと呼ぶ場合の「ケ」は、片仮名の「ケ」と一見同形だが(もちろん本稿でも片仮名の文字を使って表示している)、全く別個の漢字である「个」(部首:ぼう・たてぼう、音読みはカ・コ、訓読みナシ、JIS:5024)の字体の1つである。「个」は中国では現在も常用されているし、我が国でも明治まで普通に使われていた。

この漢字は私も知っていた。最近の改正前の民法では「催告ハ六个月内ニ裁判上ノ請求...」(第153条)などと表記していた。口語体に改正した後は「六箇月以内に」を用いている。ちなみに法令一般には「六月以内に」と表現するようだが。

「異体字研究資料集成」第5巻の内の「省文纂攷」(松本愚山、享和3年(1803年))に、「个箇。古作个。後人多様個字。此間、俗作ケ者非。」とある。同書第10巻の内の「俗字略字」(黒柳薫、明治43年)には、「音モ義モ同ジクシテ略字視セラルルモノ。箇个。個个」とある。「个」は、箇や個より以前に生まれた漢字だが、これらと同様に物を数える場合の語である。読みは「こ」・「か」だが、現在の日常用語でも「いっ 、に 」「いっ しょ、に

この漢字「个」は、その音を借用して、「か」「こ」の音を示す送り仮名としても使われた。そして、この送り仮名慣用が根強く現代に残ったのである。

これに反して、同形の片仮名「ケ」は、「け」の音を持つ漢字「介」を字音として省画作字されたものであり、当然ながら現在では「け」の音しかない。
(実はちょっと複雑である。現在は片仮名「ケ」は唯一「け」の音だが、一時期は片仮名の中に「ケ」を「か」の音にあてる使い方もあった。平安初期以来漢文訓点の送り仮名に漢字の一部分を用いて発達したのが片仮名である。片とは、漢字の片方ないし不完全部分の意味だ。いつの時点からか、別な発生ルートで「か」の音にあてる片仮名「ケ」が混入していたということだそうだ。現在では後記するように片仮名は公式に一音一字体に定められて、このような混乱はない。)

以上のことから、桜ヶ岡の「ケ」は片仮名の「ケ」ではなく、漢字の「个」の音「か」を借用してその異字体を用いたものだ。従って、もともと「さくら おか」だったなどという訳では勿論ない。「桜が岡」の送り仮名部分である「が」に、送り仮名慣用として漢字「个」の身代わり「ケ」を表記したのだ。

なお、「さくら おか」のように濁点のある「が」と読むのは、上代日本語には清音しかなく濁音が発生してからも濁点を打たなかった伝統による。

2 現代の表記の混乱について

青葉区の桜ヶ岡公園(西公園)は、明治8年の開設で、桜岡公園または本柳町公園と公称されていた。明治35年に東公園として榴岡公園が設けられて以来、西公園と通称され、現在では地下鉄東西線開通を視野に入れて再整備計画がある(仙台市HP 西公園再整備事業 )。

「桜ヶ岡」なる表記は、「桜岡」という漢語風の雅名と、「さくらがおか」という日本的呼び方を調整するために、送り仮名「ケ」(片仮名ではない)を取り付けて表記するようになったものだ。ここで送り仮名とは、漢文を訓読するために(縦書きの)右方に書き添えた仮名である。



あるいは、送り仮名「ケ」の混乱を回避するという点では同じだが、むしろ平仮名の「が」を用いて、「榴が岡」「米が袋」などと表記する方針もある(小倉博『仙台』、大正13年)。

困るのは、漢字である「ケ」(个)についての知識がないのにかかわらず、「ケ」を使うのが何となく尤もらしく由緒があるようだから使う、などという無意味な発想だろう。現在の片仮名の字体が正式に一音一字に確定統一されたのは明治33年の文部省令であり、この時点で、同形別字である「ケ」(片仮名)と「ケ」(漢字の个)の同在混乱を避けるために、従来の送り仮名「ケ」(漢字)を「か」の発音に当てる用法は廃止されても良かったのだろう。多くの人が送り仮名「ケ」が漢字「个」のことだと知識がない以上、現代の「桜ヶ岡」式の表記は問題を含んでいるというべきだろう。

(最後の評価にわたる部分は下記文献の執筆者の見解。おだずまジャーナル編集長は、う~ん、どうだろう。「ケ」が大文字小文字?なんて言い出すほど低レベルでしたから(汗)。梅原市長なら当然に漢語風を採用なのだろうか。「七ヶ浜」の表記はダメ、ということでしょう。)

■参考 仙台市民図書館編(編者種部金蔵)『要説宮城の郷土誌』宝文堂出版、1983年
前回 前々回 も書きましたが、本当にすばらしい文献です。)

■関連する過去の記事
宮城・悩みの地名あれこれ (07年6月9日)





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最終更新日  2007.08.03 01:28:42
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