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牛舌(たん)焼き、回転ずし、冷やし中華、炉端焼き。この四つに共通するものは何だかお分かりですか?。実はいずれも「仙台が発祥の地」と言われる食べ物です。真偽のほどはさて置き、全国的にもポピュラーになった大衆料理を、元祖はいつひらめき、どう工夫していったのか。アイデアがビジネスの決め手になる今、仙台発祥のグルメの周辺を探ってみた。(4回統き)
牛の舌がおいしいなんて、一体、だれが最初に思いついたのか。
「昭和十年ごろだったかねえ。東京で日本料理の修業をしている時に知り合ったフランス料理のコックが言うんだよ。牛の舌ほどうまいものはないってねえ。まさか、と思って自分で焼いて食べてみたら、これが本当にいい味なんだ」
牛舌焼きの生みの親、仙台市青葉区の「太助」の社長佐野啓四郎さん(74)は初めて牛舌と出合った約五十年前を懐かしそうに振り返る。昭和二十三年、日本人の口に合うような味に工夫した牛舌焼きの商売を始め、今や経営するお店は仙台、盛岡市に四店。さらに、牛舌焼きの技術を仕込んだ弟子、孫弟子の店が北海道から九州まで散らばり、その数は百店以上に上っている。
牛の舌はだいたいビール大瓶一本の大きさ。硬い皮を包丁でむいたあと、ハムを切るように手のひら半分大にスライスしていく。
塩・コショウで味付け、一晩寝かせて炭火で焼けば出来上がり。作業は単純そうだが、かむごとに口全体にジワーッと広がるあの風味を出すには隠れた”技”がある。
「スライスした一枚一枚にお客さんが食べやすいように包丁で筋を入れるが、表面だけをそっと切り込むのがコツ。完全に切っては味が染み込まないんだ」と娘婿の佐野初男さん(45)。
”技”はこのほかにもある。お客さんが食べる時に振り掛ける唐がらし。下ごしらえに使う塩とこしょう。その混ぜる割合や量。「何十年やっても難しいよ」と啓四郎さんは笑う。牛舌には付きもののあのとろけるようなテールスープだって単純ではない。「味付けや水とテールの割合は秘伝中の秘伝。微妙に味を左右するんだ」
佐野さんの店で、ビールを飲みながら牛舌焼きを食べていた相馬市のおじいさんは「牛舌を初めて食べたのは東京オリンピックの前あたりかな。”こんなうまいものがあるなんて”と感動したねえ。それ以来ずっと牛舌焼きは仙台で食べている」と話す。
仙台に出張でやって来るビジネスマンの中には牛舌を食べるのが楽しみという人も多い。仙台で生まれ、日本中に広まった牛舌焼き。啓四郎さんは「お客さんに喜ばれる味を守るということは大変なことなんだ。毎日緊張していないとね」と職人らしい厳しさを見せた。
写真/牛舌焼きの元祖・佐野啓四郎さん。焼き加減を見る姿が生き生きしている
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