おいしい 千葉 ~ponの食べある記~

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2006.11.10
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カテゴリ: 蒼緑の新ページ


プログラムは次のようになっていた。

(1) ピアノ独奏 ショパン スケルツォ第2番 変ロ短調
(2) クラリネット独奏 ブラームス クラリネットソナタ第1番 ヘ短調
(3) ソプラノ独唱 イタリア歌曲より「その愛を見届ける心のうちは」
(4) 作品発表 ピアノソナタ第1番「シノプス」
          ピアノ幻想曲「デポジット・パラノイア」
          コンサートマーチ「イオニア・コントロール」
          シンフォニックバンドのための変奏曲

(3)まで何の滞りもなく順調にすすみ、あとは私の分を残すだけとなった。

桟敷のフロアで立って聴く人も出はじめていた。ふだんはつけないステージ内側の照明までつけているので、ステージの中央はかなり明るく輝いている。コンサートグランドの翼が大きく開き、ピンスポットを浴びている。脇のほうに、もう一つ椅子を置いた。譜めくりの子がそこにすわった。

ピアノの子がステージに立って、あいさつをする。拍手のおさまるのを待つようにして、正面につく。一度後ろを気にするような仕種をしてから、椅子をすこし前にやった。両手を構える。

一瞬の静寂。低音ばかりをつかったイントロダクションを弾きはじめた。聴いている人にははたして何拍子なのか、よく分からないようなアーティキュレーションにしつらえてある。シンプルに聴くとユニゾン風なのだが、それ一辺倒ではない。左と右が微妙にずれる。ずれた部分で和声感を感じさせるような工夫をしてあった。ずれが次の大きなずれを呼び、くずれるにまかせていく。崩壊が我慢をこえ、そのままクレッシェンドしていった頂点で第1テーマ用のアルペジオになだれこむ。

ソナタの演奏は、順調にすすんでいた。彼女はまだやって来ない。一度時計をみて、入口の脇にある楽器準備室のほうに入った。ここからだと、入口のほうとホールのようすを同時にうかがうことができる。

彼女の横顔がチラリとのぞいた。私は急いで準備室のほうから回り、ホールの入口についた。扉口の前でプログラムを手にしたようだ。レバーを静かに解いて、ドアをゆっくりと開けてあげる。やや伏せ目がちに入ってきた彼女は、私の顔をいたずらぽい眼で見てから、桟敷のフロアのほうに行った。紙袋を持っていた。友だちが3人くっついて来ていた。みなセーラー服姿だった。開いている席はあるが、とにかく今は座ることができない。立っていてもらうしかなかった。目配せだけで、すべて察知したようである。

ソナタなので、どうしてもテーマに従順についていかねばならない。すべてに法則と禁則があり、手足をしばられたままの状態でフレーズを綴っていく。自分らしさが表出できるのは、16小節に1小節くらいの割合だった。意外な展開というのがほとんどない。予定調和的なハーモニーとパッセージがつづく。ベートーヴェンの後期がもろに影響したと悪口を言われても仕方のないような曲に終始していた。重厚な和音で曲を閉じる。

拍手が鳴りつづくさなかに、彼女たち4人は通路から奥まった座席についたようだった。

「デポジット・パラノイア」がはじまった。宇宙的な広がり感のある乾いた響きが全編のモチーフとなっている。左右の手が何度も激しく交差する。5本指の内側と外側をそれぞれ別個にあつかい、楽譜上では4本のラインで描かれている。交錯するアルペジオの交点や接点にセンシティブな旋律を隠していた。親指と人さし指自体も、激しく交錯している。絶え間ない上下動に、聴いているほうのテンションも最高潮に達していく。

ペダルの踏むタイミングが生命線かも知れなかった。ピアニストの身体が左右に激しく揺れうごく。両脚を広げる。17度和音を3度ずつのスライドで、35度まで持ち上げていった。1音落として、また35度までもっていく。右手は、左手の流れをくんでブリリアントな装飾音をかぶせていく。この曲一番の聴かせどころだった。コンチェルトのカデンツァのような超絶が要求された。両腕が、大きく揺れながら流れていく。とても小手先だけではすまない。ピアノを弾くという行為もかなりの肉体勝負と思わせるような、そういうパッセージの綱わたり的な連続。

アクセントの要素をつけずに、最後の微妙なハーモニーが静かに響いた。ピアニストが立ち上がって、はじめて曲が終わったとわかったようだった。安心しきったようなため息がもれ、拍手がそれに続いた。

吹奏楽の準備があるので、しばらく自然の休憩のようになった。1曲目のマーチは、私が指揮をとった。指揮台をおりてF先生にタクトを渡すと、私は自分の担当であるティンパニーのほうにむかった。

一度弱くたたいて、チューニングを取る。急いで対角ずつピンを締める。F先生が指揮棒をかまえた。クラリネットのシャルマイ低層とホルンだけのテーマが始まる。ゆったりした流れのなかにオーボエが噛んでいく。弦バスが弱いピッチカートで加わる。

(シンフォニックバンドのために)と断っていても、全合奏は少ない。およそバンドで考えうる楽器の組み合わせのほとんどを使ってみようとトライしていた。ピッコロ+2nd&4thホルン+アルトクラリネットが1ユニット。オーボエ+1stアルトサックス+2ndトロンボーンがもう一つ別の1ユニット。これだけでワンフレーズのアンサンブルをしていく。1フレーズごとに楽器の組みあわせを変えて進めていく。

シンプルな音構成だけに、ごまかしようがない。個人の技量とセンスが問われた。ある意味ピアノ曲として成立するのを、シンフォニックウインドアンサンブルにまで拡大アレンジしていた。

21バリエーションから、すべてがtuttiとなる。休んでいる楽器は一つもない。楽器ごとに、各人の持つ角度がそろっている。Fホルンのロータリーバルブの面がそろい、均一な輝きを周囲に放っている。トロンボーンやコルネットの朝顔が、指揮者のほうにきれいにならんで向いていた。中音楽器の分厚いハーモニーとオブリガートが、ホールいっぱいに広がっている。吹奏楽らしい、きらびやかでたっぷりとした響きで満たされていた。腰の据わった5度和音で、最後を締めくくった。

F先生が客席に振りかえり、頭を下げる。きょう一番の拍手のかたまりがやってきた。先生の左手が私のほうにサインを送った。私はその場で頭をさげて、あいさつした。もう一度拍手がやってくる。美和子は、まっすぐ私のほうを見てくれていた。

楽器をかたづけてホールを抜けると、玄関に近い廊下のところで彼女たち4人がかたまっていた。美和子に声をかける。
「来てくれて、本当にありがとう」
ううんと首を振っている。
「私のほうこそ、遅れてしまってごめんなさい。あ、これを忘れないうちに…」
紙袋の中に手をやると、そこから小さな花束を取りだして渡してくれた。スプレーしているのか、パステル調の花のアレンジで、そのすき間をかすみ草が埋めていた。
「立ち上がってステージのほうに行こうと思ったけど…」
「あの状況じゃとても無理だよね。さらし者になってしまう」
二人で笑いあった。となりにいた淳子さんを紹介された。美和子よりさらに身長があり、長い髪が印象的な女の子だった。
「どうも。はじめましてというか。何というか…」
「ですよね」
「あのときはどうも失礼しました」
「いいえいいえ私こそ。あっさり断ったりして、ごめんなさいね」
以前、歌詞の依頼をしてNGの返事をもらったいきさつがあった。それがまさか彼女のつながりで、実際顔を合わせるときがやって来るとは。その場で立ち話をした。私の話にいちばん反応してくれるのは、むしろ友だち3人のほうだった。特に淳子さんは俊敏で、こちらが言ったと同時に、笑いか言葉がやってくる。

友だちを連れてきていなければ、このあと一緒に街なかに行くこともできるのだが。そういうわけにも行かなかった。玄関口のところに出て、4人をその場で見送った。ホールの角を曲がるところで、彼女たちはもう一度こちらのほうをうかがって来た。淳子さんが、彼女の肩口を軽くたたいている。美和子の目くばせに応えて、私も軽く手をあげた。彼女はそれには応じず、逆に淳子さんともう一人のほうが、小さくバイバイと手を振ってきた。





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Last updated  2006.11.10 14:36:53
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