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中で唯一「岩波古典文学大系(校注者・山岸徳平)」では、「世にも有り得ない程有難い(感謝すべき)事は源氏の御志でござりまする。「難き事」は「有難い事」の意。「困難」の難ではない。」と記しています。
私は、源氏が斎宮の後見を快諾してくれたことへの六条の謝意の中に「お志はたいへん有難く存知まするが、あなた様が斎宮に、好き心をお持ちにならないのは困難なことと、私にはお見受けしますので」という意味を込めて、いわば掛詞のようにして訴えたのではないかと、そんなふうに感じるのです。
死の床にある六条は、まるで憑き物が落ちたように、あるいは燃え尽きたように源氏への恨みから解放され、母親として我亡き後の娘の行く末を案じ、幸せを願う気持ちを切々と訴えています。
そこには母親として正直な心情の吐露はあっても、田辺源氏の言うように「源氏に対するひそかな『怨嗟』のひびき」というものを、私は感じられないのです。母親が怨みを感じる男性に、自分の大事な娘をむざむざ預けたりしないと、私は思うからです。
六条のおん眼にはもはや情念の炎はなく、その眼差しには澄んだ水のようなすずやかさがあったのではないでしょうか。