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負け戦の義仲が勢田の方(かた)へ落ち延びていくとき、幸運にも、兄弟同様にして育った乳母子の今井四郎兼平に出会います。
四郎兼平は八百以上もの兵力をもって勢田を防御していたのですが、その軍勢は今や五十騎にも減り、主のいないおぼつかなさに、広げていた旗さえも巻いて、都へとって帰ろうと大津のうちでの浜で、偶然主君の義仲に出会ったのでした。
義仲は「契りはいまだくちせざりけり。義仲が勢は敵(かたき)にをしへだてられ、山林にはせち(ッ)て、此辺にもあるらんぞ。汝が巻かせてもたせたる旗あげさせよ」前世からの因縁はまだ尽きていなかったのだ。我が義仲の軍勢は源氏方に押されて、周辺の山林に馳せ散ってはいるが、このあたりにもいるはずだと、今井四郎兼平が巻いていた旗を揚げさせます。すると三百騎ほどが、その旗の下にあつまって来ました。
義仲はたいへん喜んで、「此勢あらばなどか最後のいくさせざるべき」と、六千余騎を引き従える甲斐の一條次郎に戦いを挑みます。
「さてはよい敵(かたき)ござんなれ。おなじう死なば、よからう敵にかけあふて、大勢の中でこそ討死をもせめ」とて、まッさきにこそすゝみけれ。
これは願ってもない敵でござるわい。どうせ死ぬのであれば好敵手と精一杯戦って、大勢の中でこそ討死するのが義仲の本望だ、というわけです。
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