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左大臣邸におわす葵の上の許へいらした夕暮れ、女房たちが
「今夜は内裏からこちらへいらっしゃるには、方角がよろしくございませんわ。方違えなさらなくては」
と、騒ぎだしました。
源氏の君は面倒にお思いでしたが、川の水を引き入れた涼しげな紀伊の守(かみ)の屋敷がよろしいというので、しぶしぶお出でになります。
身分の低い紀伊の守は、源氏の君のお越しにいたく恐縮し、寝殿の東面をきれいにして、源氏の君をお迎えしました。
見ればなるほど、中河の水を引き入れた水の風情や、わざと田舎風に作った柴垣、配置を考えて植えられた前栽などがたいそう好ましいのです。風は涼しく、そこはかとなく虫の声が聞こえ、蛍が飛び交う風情に趣があります。
主人の紀伊の守は酒肴でもてなそうと奔走しますが、源氏の君はのんびりと辺りを眺めていらして、前夜に馬頭(うまのかみ)が「中の品」と言ったのは、このくらいの階級の女であろうか、などと思いだしておいででした。