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朝、靴を履こうと玄関でかがむと、タイルの上に
灰色がかったカレイの背骨のような小さなものが落ちているのに気付きました。
ゴミの日でもないのに、どうしてこんなところに魚の骨があるのかしら、
と思ってよく見ると、小指ほどの長さの細く繊細な形をした虫でした。
私は居間に取って返し、ティッシュ・ペーパーを箱からむしり取って
大急ぎで玄関に駆け戻りました。
虫は、同じ場所にじっとしていました。
さて、どうやってこの虫をすくい取ろうかと思案していると、
虫は私の殺気を感じたらしく、
こちらに向かって頭をふいっと上げました。
すると頭についている細く長い二本の触角がしなやかに反りかえりながら、
アンテナのようにつんと立ちあがったのです。
それはまるで気位の高い虫が「何をするかっ!」と威嚇しているようで、
私はこの小さな虫の優雅で健気な態度が可笑しくなりました。
ティッシュで触ったりしたら攻撃してくるだろうか、
それともたくさんの足を駆動して逃げ出すのだろうかと好奇心に駆られ、
もっとこの凛々しい虫を観察したかったのですが、
ティッシュ・ペーパーで鷲づかみにして、ビニール袋にくるんで捨てるという、
実につまらない幕切れとなりました。
出勤時間が迫っていたからです。
朝の、ちょっとした事件でした。
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