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粗末とはいえさすがに遣戸口は洒落ています。
そこに黄色の正絹の単袴を長く着た可愛らしい童が出てきまして、こちらへ手招きします。
「この上に置いて差し上げなさいまし。枝も茎も風情のない花ですから」
と、たいそう深く香を焚きしめた白い扇を差し出しました。
ちょうど門を開けて出てきた惟光の朝臣から、源氏の君に差し上げます。
「鍵を置き忘れまして、探しておりました。
このあたりには御身分を存じ上げるような人もおりませぬが、
お見苦しい大路にお待たせ申し上げまして」
と、畏まってお詫び申し上げます。
車を引き入れましたので、お降りになります。
ちょうど惟光の兄の阿闍梨、婿の三河の守、むすめなどが集まっておりますところに
源氏の君がおわしましたので、光栄に思い畏まっているのです。
乳母の尼君も起き上がりまして、
「この身は惜しくはありませんが、受戒いたしますと今までのように御前にお仕えして、
お目にかかれなくなります事だけが口惜しく、それで出家を決めかねておりました。
このようにお見舞いいただきお姿を拝見しましたからには、
阿弥陀仏のお迎えも心清らにして待つことができましょう」
と申し上げては、さめざめと泣くのでした。