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それにしても、この巻で一番リアルな描写は、この件ではないでしょうか。
「火は ほのかにまたゝきて 母屋の際に立てたる屏風の上、
こゝかしこの 隈々しく おぼえ給ふに、
物の足音 ひしひしと踏み鳴らしつゝ、後より寄り来る心地す」
蝋燭のうすぼんやりした明りのもと。
屏風の上の方からは髪を振り乱した女の、白い生首が覗きそうですし、
部屋のほの暗い隅から化け物が這いずり出てきそうにも思われます。
背後からは亡霊が『ひた、ひた......』と音をたてながら、こちらへにじり寄ってくる......
そんなおぞましい気配が、この短い一文で十分感じ取れます。
読み手の創造力を掻き立て、暗がりの持つ魑魅魍魎たる恐怖感を表現するに、
無機質な上田秋成に比べ圧巻だと思ってしまうのです。
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