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源氏の君が大弐の乳母の次に重んじていらっしゃる、左衛門の乳母という人の娘に、
大輔の命婦という、内裏にお仕えしている人がおりました。
皇族の血筋を引く兵部の大輔を父君とした、たいそう色好みな若い女房でしたから、
君もお傍に召して御用を使わすことがありました。
母の左衛門の乳母は筑前の守の妻として任地に下っていましたので、
父君である兵部の大輔のもとをお里にして宮中に通っています。
その命婦が、故・常陸の親王が晩年にもうけられて、たいそう可愛がりかしづいていらした
御むすめの事を、心細そうに残されていらっしゃると、
物のついでに源氏の君にお話しになりました。
「お気の毒なことだね」
と、詳しくお尋ねになります。
「ご性質やご容貌など、深くは存じません。
控え目でどなたともお付き合いなさらないので、
しかるべき宵などには御几帳や簾越しにお話しすることがございますが、
琴だけを親しい友としていらっしゃいます」
「琴・詩・酒は三つの友というが、女に酒は感心しないね」
と仰せになって、
「ぜひ私にも、その琴を聞かせておくれ。
父親王はそちらのご趣味にも熱心でいらしたから、並みの腕前ではいらっしゃらないだろう」