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東宮の母君でいらっしゃる弘徽殿女御は、
源氏の中将がご立派でいらっしゃるにつけても妬ましく、心中穏やかではありません。
「鬼神などが空から魅入るような顔立ちですこと。何と不吉な」
と仰せになりますので、若い女房たちは内心
『まあ、聞き難い事をおっしゃる』と、耳に止めます。
藤壺の宮は、
『そら恐ろしいようなあの恋心がなければ、
ご立派な源氏の中将の舞を心から楽しめたでしょうに』
とお思いになり、まるで夢のような心地がなさいます。
藤壺の宮は、その夜は帝の御寝所にお泊りになりました。
「今日の試楽は、すべて青海波に尽きますね。あなたはどうご覧になりましたか」
帝の仰せに、藤壺の女御は御返事しにくく、
「格別でございました」
とだけ、お返事なさいました。
「もう片方の頭中将も、悪くはなく見えました。
舞の様子や手の使い方に、良家の子息は特にすぐれていますね。
おっとりと上品なあたりを見せることができないものです。
試楽の日にこんなに力を尽くしてしまったなら、
紅葉の陰での本番の舞は物足りないものとなろうが、
あなたにお見せしたくて用意させたのですよ」
と仰せられます。