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男君も、今まで幾度も自制していらした御心がすっかり失われて正気ではなくなり、
よろずの恨み事を泣く泣くお話申し上げるのですが、
中宮は心底厭わしくお思いでお返事も申し上げません。ただ
「たいそう気分が悪いのでございます。
よい折がございましたら、その時に申し上げましょう」
とおっしゃるのですが、ご自分の尽きせぬ御心のほどをお言い続けになるばかりです。
それでもさすがにお胸に沁みてお聞きになる事もあるのでしょう。
かつてお二人の間に過失のあった事は事実なのですが、
今あらためて同じ過ちを繰り返すなどあってはならぬ事とお思いでいらっしゃいますから、
上手に言い逃れなさって今宵も明けていくのでした。
源氏の大将は、強引に事に及ぶのも畏れ多く、
中宮も気高いご様子でいらっしゃいますので、
「ただこれほどの逢瀬でもかまいませぬ。
せめて時々、私の切ない思いを晴らすことができますならば、
何の大それた料簡などございましょう」
など、安心させるような事を申し上げるのでしょう。
つまらない事であっても、このような御仲ではしみじみとした想いがあるものですが、
まして御二方の切ないご様子は比べるものもないほどです。
そうこうするうちすっかり夜が明けてしまいましたので、
命婦と弁の二人がきつい調子でお帰りを促し申し上げます。
源氏の大将は、半ば死んだようにぐったりしていらっしゃいます中宮がお気の毒で、
「あなたさまにこんなに嫌われながら、私がこうして生きているのは恥ずべき事ですから、
このまま死んでしまいましょうけれど、
あなたさまへの思慕を抱いたままでは、きっと往生もできないでしょうね」
と、恐ろしいほど思い詰めていらっしゃるのです。