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大后は右大臣よりもっと激しいご気性でいらっしゃいますので、
ひどく御腹立ちのご様子で、
「帝と申し上げましても、朱雀帝は昔から多くの人に軽んじられてきました。
辞任した大臣もこの上なく大切にかしづく一人娘を、
春宮でおわした帝にはたてまつらず、
まだ幼い弟の源氏が元服する夜の添い臥しにと取っておいたのです。
今また、宮仕えにと考えていた朧月夜の君まで横取りされてしました。
それなのにみんなが大将をごひいきにして、
誰も『怪しからぬ』とはお思いにはならないのです。
朧月夜の君を入内させて后にまで、という本意が遂げられなかったばかりに、
不本意ながらも尚侍として伺候する事になってしまいました。
私はお気の毒で
『宮仕えであっても、帝のご寵愛をお受けする事があるかもしれない。
あれほど憎らしい大将への面当てもあることだし』と願ってはいるのでございますが、
情けない事に朧月夜ご本人が、心惹かれる方に、
どうしても靡いてしまうのでございましょうね。
まして斎院との御事は、噂通りなのでございましょう。
大将のなさる事は何事につけ帝の御ためにならぬように見えます。
春宮の御代に格別の期待を寄せている人ですから、
それは尤もな事でございましょうけれど」
と、ずけずけとお話し続けになりますので、右大臣はさすがに大将がお気の毒で
『どうしてこんな事を申し上げたのか』とお困りになります。
「それはそうなのですが、暫くこの事を他に漏らしたくないと思います。
帝にも奏上なさいますな。
朧月夜にこのような間違いがございましても、
帝がお見捨てあそばす事もございますまい。
それを頼みとして甘えているのでございましょう。
あなたさまが内々にご意見なさっても聞き入れない場合は、
私がその責任を負いましょう」
と、お取りなし申し上げても、御機嫌が直りません。
同じお里邸においでになって人目も多いのに、
『無遠慮にこうして邸に入って来るというのは、殊更こちらを軽んじ愚弄しているのだ』
とお思いになると御腹立ちになり、ひどく癪に障って、
『しかるべき手立てを構えるには絶好の機会だ』と、お考えになる事もおありなのでしょう。