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「賢木」は、
シリアスなお話(六条御息所母娘の伊勢下向、桐壺院の崩御、藤壺の突然の出家)、
エロチックな場面(藤壺の宮と源氏との緊張した密会)、
そしてコメディタッチで描かれた短気で粗忽な右大臣と、
その父親を呆れさせるほど激しくあけすけな性格の弘徽殿大后とのやりとりなど、
多彩な出来事に溢れたおもしろい巻です。
私が06年に真っ先に取り上げたのも、賢木の巻での「朧月夜の尚侍の君」でした。
この場面での朧月夜の君は可愛らしく生きいきと描かれていて、
とても印象深かったのです。
「女の御さまも げにぞ めでたき御さかりなる。おもりかなる方は いかゞあらむ、
をかしう なまめき若びたる心地して、見まほしき御けはひなり」
作者は朧月夜を「ほんに今が一番うつくしいお年頃で、いつまでも眺めていたいほど」
と表現しながらも、一方では「慎重さといった面はともかく」と書いています。
興味深い事にそのように辛辣な表現は、朝顔の斎院や藤壺の宮についても見られます。
朝顔の斎院には、神に仕える身となったにもかかわらず源氏と文を交わすのは
「すこし あいなきことなりかし(未練がましくはないでしょうか)」と牽制しています。
私は藤壺の宮が「御けしきにも出だし給はざりつる」形で、いきなり出家した事に
「お見事!」と拍手喝さいを送りたいのですが、作者はやっぱり
「あてに高きは 思ひなしなるべし
(上品なお歌と感じるのは、源氏の思い入れのせいでしょう)」
と、藤壺をちくりと刺しています。
単に褒めるだけではなく、必ずいただけない性格もほんの少し加えて、
読者の「思い入れ」に水を注すのですが、
それが香辛料のようにぴりっと効いて香り立ち、
立体的な人物像を造り上げているようにも思うのです。
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